第39章 卒業旅行行ってみた

 大おわかれ会が終わって、四人は会場を片付けていた。
「それにしても…」
「57人もゲストが来るとはね」
「ファララたちまで来てくれたもんね」
「さすがにゆい達は無理だったんでしょうかね」
「あ、パーティーの時、ガァララが言ってたんだけど…」
 ゆみが思い出したように言う。
「ファララたちはジュネさん、りんねさんって人にこの世界へ来る方法を聞いたんだって」
「それって…」
「うん。あたしにこの世界のプリズムのきらめきの話をしてくれた人と」
「わたし達の帰る手がかりを知ってるかもしれない人だよね」
「じゃ、我々の配信を見て、後ろで手助けをしてくれたのかもしれないね」
「うん。やっぱりわたし達の活動は間違ってなかったんだよ。きっと」
「しかしまぁ…」
「迷い込んでからの1年の間にたくさんの絆が出来てたんだね」
「でも、まだまだこの世界で知り合った人はいるんだよね」
 あみがそう言った途端、その該当者から電話が入った。

「もしもし、え?さらさん?」
「やぁ」
「メルティックスターは世界遠征に行ってるんですよね」
「あ、それは来週からね。それより、急なんだけど、明日浜松まで来れるかな?」
「えっと、静岡の浜松?行けないことはないけど…」
「実は、世界遠征前のボクたちメルティックスターのイベントライブにれみ君と一緒にゲスト参加してほしいんだ」
「うん…判りました」
「あ、新幹線のチケットはこっちで手配するから大丈夫だよ。それじゃ、楽しみにしてるよ」

 通話が終わると同時に、あんなのメイドさんが現れ、新幹線のチケットを差し出す。
「あ、本当にいいんですか?」
 メイドさんは頷くと、すぐに去っていった。
「ありがとうございます」

 翌日。新幹線にて。
「今回もひかりだね」
「浜松に停車するのは一部のひかりとこだまですからね」
「今回の件って、意外とあんなさんが発起人だったりして」
「多分そうでしょうね。でも、素直に言えなくて、さらさんから話がきたとかかな」
「なんとなく絵が浮かぶ気がする」
「同じ静岡でも、前回の静岡市や沼津市よりは大分手前ですね」

 浜松駅に到着した。駅のコンコースにピアノが展示してある。
「そういえば、楽器のヤマハがあるんだっけ」
 そして、ランチをどうするか、ということになるのだが。
「浜松といえば、やっぱりうなぎでしょ」
「ですね」
 二人は駅前ビルの飲食街へ向かった。
「…予算オーバー」
「ですね。餃子のおいしいお店が多いみたいですし、餃子にしましょうか」
「でも、イベントライブだし、匂い、大丈夫かなぁ」
 そういいながら駅ビルの中を歩くと…
「あ、駅弁屋さんにうなぎのお弁当あるよ」
「これなら、お小遣いでいけそうですね」
 二人は喜んでうなぎ弁当を買った。そして。
「でも、どこで食べようか…」
「うん。考えてませんでしたね。でも、近くのお城の公園でお花見できるらしいですよ」
「じゃ、お城見ながら食べようか」
「いいですね。結果的に素敵なランチになりそうです」

 二人は駅を出た。そこに、植木をデコったオブジェがある。
「何あれ?かわいい!」
 丸顔のキャラで、頭にうなぎが乗っている。
「徳川家康モチーフのゆるキャラみたいですよ」
 ピアノ柄の袴にみかんの裃。うなぎのちょんまげの徳川家康。まさに浜松市のキャラだ。

 しばらく歩くと、れみが思い出したように言う。
「ところで、あみ」
「どうしたの?」
「今気づいたけど、お茶買うの忘れてます」
「本当だ。ちょうどそこにセブンイレブンがあるからお茶買おう」
 セブンイレブンでお茶を買おうとしたら、お菓子売り場にポップがあった。
「じゃがりこを買うと、アイドルのクリアファイルが貰えるみたい」
「この高海千歌って、沼津でバナーに載ってた人ですよ」
「じゃ、おやつはじゃがりこで」
「お湯で戻してマヨネーズで和えたらダメですよ」
「ポテトサラダみたいでおいしいんだよ。あれ。でも、お湯ないし」

 そんなこんなで城についた。浜松城を見ながら二人はランチを楽しんだ。
「まだ、待ち合わせには時間あるし、お城に入ろうか」
 二人は城に入り、鎧の展示を見たりしながら上にのぼり、展望エリアから下を見た。
「あ、あっちに屋台があるよ」

 二人は屋台の方に向かった。
「さっきの家康キャラ型の鯛焼きがあるよ」
「鯛じゃないですけど…って、もう買って食べてるんですかぁ?」
「でも、家康って、鯛の天ぷらでおなか壊して、飲んだ劇薬の副作用で亡くなったって聞いたし、鯛に縁はあるよ」
「うーん、食べ物を前に縁起でもない…」
「でも、おいしいよ。半分あげるね」
「世が世なら打ち首ですね。将軍の頭をかじるとか…」
 そんな話をしながら、二人は城の公園を出た。道を渡って少し行くと、神社がある。
「あれ?何だろ、あの彫刻」
 境内に踏み台の両側に家康と秀吉の銅像がある。
 れみがスマホで検索する。
「この神社、二人の天下人が訪れたので、一緒に写真を撮ると出世するパワースポットとして人気みたいです」
「じゃ、交替で写真撮ろうか」

 二人は観光を終えて駅に戻った。さらとの待ち合わせの時間だ。
「やぁ」
「あ、こんにちは…って、あれ?アルジェントさん?」
 さらと一緒にいたのは以前、静岡でジョイントライブしたときにいたアルジェントさんだった。
「実は、あみさんの21人ライブを見て、ドラータが「静岡は遠いね」って言ってたものだから」
 それで、アルジェントさんはイベントで来ていたメルティックスターに今回の企画を打診したところ、あんなが
「21人ライブ、ワタクシ達が参加しないままですと画竜点睛を欠くというものですわ。よろしくてよ」
 と快諾したとのこと。
「お互い、素直じゃないお嬢さまの代理みたいだって意気投合してね」
「会場はここから一駅行った先のイオンモールの予定だったんだけど…」
「なんか、通信エラーで会員証が使えず、配信できないみたいなんだ」
「そこで、急遽、駅前のビックカメラに会場を変更することにしたんだ」

 そのため、イベントライブの開始時間には、まだメンバーは揃わず、あみ、れみ、さら、アルジェントさんの4人だけだった。
「あの…」
 れみが口火を切った」
「私はあみの21人ライブには参加しているので、せっかくなので、このメンバーで前座ライブしたいんですけど」
「なるほど。れみ君メインのライブもできるね」
 さらが賛成する。
「せっかく、さらさんとアルジェントさんがいるんだから、マニッシュでかっこいいライブなんてどうかな?」
「いいですね」
「うん、それでいきましょう」

 前座ライブを終えると、あんなとめるが数人の参加者を連れて到着した。
 アルジェントさんのチームは、発起人のドラータさんの他に、みなもとさん、あかね♪さん、あおい★さん、あさぎ☆さんと全員揃っていた。
「お久しぶりです」
「遠くからありがとう!」
 他に、イオンモールにいたコや、プリズムストーン静岡で募集を見たコが参加してくれている。中にはあみとおそろいの髪型のコもいた。
「ちょうど21人になりますわね」
 あんなはそう言ったが、れみはすでに参加済みだ。
「あと一人いると良かったんだけど…」

「はぁ、はぁ、会場変更って聞いて、なんとか走ってきたんですけど…」
 ひとりのコが走りこんできた。
「ゆえさん!」
「良かった。またお会いできましたね」
 以前、静岡であみとペアライブをしたゆえさんだった。そして、都合4回目となる21人ライブが行われたのだった。

 イベントが終わり、あみたちはメルティックスターのメンバーと打ち上げに向かった。駅前にある顔はかわいいのになぜかマッチョな餃子キャラの看板のある餃子屋さんに入る。
「わぁ、おいしそう!」
 お皿に丸く風車のように並んだ餃子の上にモヤシが一山載っている。
 オッサンならこれに生ビールだろうけど、あみたちは名物・三が日みかんジュースを注文した。
「めるさんが世界の扉を作るのを手伝ってくれたんだよね。ありがとう」
「あみあみはめるめるの友達だもん」
「まぁ、会えなくなるのは淋しいけどね」
「全くですわ!ワタクシ達と勝負できる相手が減っては張り合いがありませんわ!」
 そう言うあんなの瞳が潤んでいる。
「あんなさん…」
「淋しくない…わけ、ありませんわ」
「わたし達も淋しいけど、でも、最後にお会いできてうれしかったです」

 打ち上げの後、あみとれみは駅の売店に向かった。
「ゆみ達のおみやげ何がいいかな?」
「定番はうなぎパイですかね」
「あ、「コラーゲンたっぷり三が日みかんグミ」なんてのもあるよ」
「さっきのジュースのみかんですね。じゃ、パイとグミ両方買いましょう」
「だね。二人には一番お世話になったから、これでも足りないけどね」

 二人は新幹線に乗った。いよいよ、明日は元の世界に帰る日だ。


今回のライブシーン
                     

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