第35章 ウレチケを求めてみた

 アンジュさんのラストメッセージから数日後。
「今日は楽しいひなまつり♪」
 あみは鼻歌を歌いながら、大皿にひなあられをザラザラと入れる。
 テーブルには紙の缶に入った甘酒が4本。アルコール1%未満の子供でもOKのやつだ。
「はい。冷蔵庫から出してきましたよ」
 れみが箱を持って入ってきた。みらいの店の箱だ。
「わぁ、かわいい!」
 抹茶カステラとムースと桃ゼリーの菱餅型スイーツだ。
「でも、みらいさん、元気なかったですよ」
「え?なんで?」
「ニュース、見ましたよね」
「ネクストプリンセス大会の事?」
「うん」
 デザイナーズ7のミッキーさんとジェシカさんが会見していたニュースだ。
 予選期間中のライブ配信で、デザイナーズ7が承認したチームにウルトラレアチケット、略してウレチケが送られるというものだった。
「ウレチケってどんなものだっけ?」
「それを持つチームが大会本戦に参加できます。そして、勝ち残れば、あいらとアンジュのユニット、アイランジュとのライブ対決の挑戦権を得るというものですね」
「つまり、あいらさんとアンジュさんを超えることでネクストプリンセスになるということは…」
「結果として、アンジュさんが引退ということになるね」
「あ、それで、みらいさん、悩んでたんだね」
「で、あたしたちはどうするの?」
「アンジュさんが安心してデザイナーの夢を掴めるよう、本気でアンジュさんを打倒しよう」
「夢を応援する相手を打倒って、目標が空中分解してるなぁ…」
「なんといっても、うちにはアンジュさんを倒したまみがいるからね」
 急にプレッシャーをかけられ、まみは甘酒を一気に飲んだ。
「あ、あれは手加減してくれたアンジュさんにまぐれで…」
 そう。次は本気のレジェンド二人が相手だ。そう簡単ではないだろう。
 あみが一旦場の空気を変える。
「とりあえず、ひな祭りに話戻そうか。わたし、またあの枕で寝たんだけど」
「ゆうきさんとライブする夢、見れた?」
「うん。ひな祭りということで、わたしとれみとゆうきで赤い着物でライブしたんだけど」
「うんうん。それで?」
「なんとなくお雛様じゃない感じなんだよね。扇子のパシャッとアイテムも使ったんだけどね」
「多分ですけど」
 れみが口を挟む。
「赤着物3人でやったら、それって三人官女じゃないですか?」
「あ、それだ。じゃ、お内裏様コーデが必要だね」
「そんなコーデないよね」
「そういえば、正しくはお内裏様って、一番上の畳に座っている二人で、お雛様が段にいる人形の総称なんだってテレビで言ってたよ」
「そうなんだ。男雛のことだと思ってた」
「あの歌詞だとそう受け取る人が殆どだと思うけどね」
 相槌を求めてまみを見ると…
「まみ…?」
 まみは顔を紅潮させて、目もトロンとしている。
「右大臣じゃあるまいし、あんな甘酒で…って、あつっ!」
 ツッコミを入れようとしたゆみの顔色が変わる。そして、まみの額に自分の額を当てる。
「まみ、熱あるよ」
「えっ、大変!」
「そういえば、インフルエンザ、Aは落ち着いたけど、Bがまた流行してるから注意ってニュースで言ってましたね」
「とにかく、駅前のクリニックへ行こう!」

 クリニックは幸い空いていた。まみは念のため別室に入り、熱を測った後、鼻に検査キットの綿棒を入れた。

 あみたちが外で待っていると、まみが戻ってきた。
「大丈夫だったみたい。心配かけてごめんね」
「まみ、キャラ崩壊してるよ」
「あ…」
「それより、これ見てもあたしには判らないよ」
 ゆみが検査キットを見る。
「インフルなら、この辺に線が出るらしいのである」

 あみ達はまみを送っていった。
「さて、ライブをどんどん配信しないとね」
「じゃ、今日はまみに捧げるナースライブだね」
「あみ、それって昨日やっと揃ったエンジェルナースコーデを着たいだけじゃ…?」
「それもあるけど、お見舞いだって嘘じゃないもん!」
「じゃ、私がにゃんにゃんにゃーす、ゆみがプリパラナースといったところですか」
「れみ、話が早いね。それでいこう!」

「おお、結構ナースライブ、評判良かったみたいね」
「まみも喜ぶね」
 ライブを振り返っていると、まみからお礼の電話が入った。
「噂をすれば」
「どこか裏で話を聞いていたかのようなタイミングですね」
 ただ、このライブでは、まだウレチケには届いていない。
「そりゃ、フルメンバーじゃなく、1回じゃ無理だね」

 とりあえず、この日は解散し、あみは買い出しに出かけた。そこでみらいに会った。
「やっぱり出るんだね」
「みらいさんは結局どうするの?」
「デザイナーズ7のカレンさんに、アンジュさんに想いを届けるには、同じ高さに登りつめなきゃダメだって言われて」
「それじゃ…」
「目指すよ。トッププリ☆チャンアイドル」
「じゃ、ライバルだね」
「ねえ、あみちゃん」
 みらいが提案する。
「このコーデをかけてミラクル☆キラッツとライブバトルしない?」
 みらいが持っているコーデは初めて見るものだった。
「これって…?」
 どこかでみた事ある。
「うん。以前、コーデチェンジシステム故障の時に、あいらさんの指導を受けながら、昔の衣装をリメイクしたコーデが元だよ」
「あ、あの時のコーデと色は違うけど形が似てるんだね」

 あみとみらいはめが姉ぇさんに頼んで、ライブバトルステージをセットしてもらった。
 あみはコーデを選ぶ。大切な対決だ。今こそあいらさんに貰ったコーデで勝負だ。

 曲が終わると、キラッとボタンが降りてくる。二人はそれぞれにボタンを押す。
 あみの周囲が暗転し、ミラーボールが降りてきて、あみのコーデが賞品コーデに変わる。勝った!
「今回は負けちゃったけど、次はミラクル☆キラッツで勝負だよ!」
「次も本気で行くよ!」

 あみが戻ると、れみが立ち上がった。さっそく配信を見ていたようだ。
「いきなりバトルって、どうしたんですか?」
「うん。本気でぶつかり合って、最高のパフォーマンスを出さないと、ウレチケには届かないから、バトルしてみたんだ」
「なるほど」
「さっきのはあくまで前哨戦。次は団体戦で勝負する約束をしてきたんだけど…」
「いいね。あたしは話に乗るよ」
 ゆみが話に乗る。

 そして、バトル当日。
「キラッツはチェックガールコーデで揃えてくるみたいね」
「じゃ、あたしたちはグミの色違いで勝負しようか」
「ちょっとお待ち!」
 言いながらまみが控え室に入ってくる。
「あれ、まみ?もう具合はいいの?」
「完全復活である」
「で、何かアイデアがあるの?」
「うむ。力になろう。我とゆみはこのコーデを使うのだ」
「これは、ペイントパターンコーデ?」
「なるほど、ちょっと似てるけど違うコーデで変化をつけるんだね」

 読みが当たって、勝負に勝った。しかし、これで終わりではない。メルティックスターが参戦することとなり、あみたちは次はメルティックスターと対戦だ。
「ワタクシたちメルティックスターこそが、ウレチケと、このコーデをゲットですわ!」
 あんなが啖呵を切る。その場面でえもの電話が鳴った。
「ちょっと、黄色いの!なんでこんな時に電話ですの!」
 怒るあんなをスルーして、えもがめるに電話を渡す。
「分かった!めるめる、すぐ行くね!」
 めるは電話をえもに返すと、あみのところへ来た。
「めるめる、用事できた。おわびに、ちょうど、どっちの色を使うか迷ってた2色のコーデがあるから貸してあげる」
 めるは一方的にあみと隣にいたまみにコーデを渡すと、すごい勢いで走り去って行った。
「一体どうしたのかな?」
「うーんと、あたしにもイマイチよくわからないけど…」
 えもの話だと、時子さんが重要な研究で行き詰って、めるに助言を求めているっぽいことはわかった。

「ペアライブでしたら…」
 あんな達がコーデを取り出す。
「それは…」
「あいらさんの新作、持っているのはあなただけではないってことですわ」
 あみが貰った色違いと、あいらさんがショーで着ていたそのもののコーデだ。
「じゃ、わたしたちはめるさんに借りたキラキラフィーバーコーデで勝負!」

 おそらく、ほぼ互角の白熱したライブだった。キラッとボタンが降りてくる。勝つのはどっちか…

 あみの周囲が暗転する。なんとか勝利できたようだ。
「なかなかやりますわね」
「お互い、けっこういいねが集まったみたいですね」
「つぎはめるも一緒ですわ」
「ですね。本気でやりましょう」
「おや?」
 さらの電話が鳴った。
「…うん。残念ながら一本取られてしまったよ。へぇ、意外と早かったね…」
 さらはあみ達に、
「どう?これからボク達とデートでも」
「え?」
「めるは夕方には戻るらしい。次の対戦まで、みらい君の店でみんなでお茶にしないかい?」
「いいですね。行きましょうか」

 みらいの店で談笑しながら、
「めるさん、ドーナツ食べたさにワープしてきたりして」
 言った途端、あんなの目の前で爆発が起きた。
「ぎゃーっ!」
 そこには煤だらけのあんなとめるがいた。
「一体なんなんですの?」
「めるめる、帰ってきた!ドーナツ食べるんでしょ?」
「ちょっと説明してくれるかな?」
 この状況下でもクールにさらが話を進める。

 話を要約すると、時子さんがあみとれみを元の世界に戻す扉を作ろうとしたけれど、その理論構築にどうしても必要な数式が解けず、めるに助けを求めたということだった。そして、めるはその数式を解き、その過程で閃いた方法でワープして帰ってきたということだった。
「めるさん…わたし達のために?」
「あみあみもれみみも、めるめるの友達だもん!ノープロブレムだよ」
「じゃ、お礼にドーナツ代はわたしが出しますね」
 結果、みらいママがオマケしてくれなければ、あみは破産していたかもしれなくなったのだが。

 お茶の時間が終わると、今度は3人チームでのバトルだ。
 さっきまで談笑していた友達の顔から、倒すべきライバルの顔に変わる。

「恨みっこなしの本気バトルにしようね」
「それなら、全員このカウガールコーデでやるのはどう?」
「なるほど。コーデは互角で実力勝負だね」

 さて、メンバーをどうしよう?
「かっこよさと色気を併せ持ったコーデだからね。めるさんやさらさんは完璧に着こなしてくるよ」
「あんなさんはカワイイ系が似合うイメージあるから、どうなるか未知数ですね」
「まぁ、リーダーのあみは確定として、お色気担当のれみが軸かな」
 一瞬抗議しかけたれみをスルーしつつあみが続ける。
「あと一人は…」
「あたしの出番でしょ」
 ゆみが立候補する。確かにまみもあんな同様のコーデ傾向だ。避けたほうが無難、というか、ゆみはこのコーデを一番着こなせそうではある。
「まぁ、まみは先刻ライブしたところだし、病み上がりだし。決定だね」

 ライブが始まる。集まるいいねはほぼ互角だ。
 ミラクル☆キラッツの面々も観戦している。
「しかし、メルティックスター相手に互角ってある意味すごいと思う」
「りんかちゃんもそう思うんだ」
「判官贔屓というか、草の根チャンネルがトップクラスのカリスマチャンネルに善戦するのがなんともね」
「最近ではあみちゃん達を『異世界から来た最強のど素人』って紹介してるサイトもあるみたいだね」
「あ、勝ったみたいね。さすが『最強』ってところかしらね」

 あみ達はウレチケの認定をクリアした。
  「さすがだね。ボクたちもすぐ追いつくよ」
「ええ、また本戦できっと戦えますよね」

 ちなみに、その翌日、メルティックスターとミラクル☆キラッツが最終決着をつけるバトルを展開し、最終的にはミラクル☆キラッツが勝ったものの、両チームともあみたちを遥かに上回るいいねを獲得し、ウレチケを手にした。

 こうして、1位、ミラクル☆キラッツ。2位、メルティックスター、そして、あみたちは3位で本戦出場のウレチケを手にしたところで予選は終わった。
 この3チームの勝者がアイランジュへの挑戦権を得ることになる。


今回のライブシーン
                       


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