第34章 バースデー前のやってみたアラカルト(前編)

#01 バレンタイン企画やってみた

「東京遠征、楽しかったね」
「最後にアンジュさんのニュースでびっくりしましたけど」
 この話題に、いきなりあみが話題を変えた。
「それはそれとして、大事な事を忘れそうだったね」
「何かありましたか?」
 気付かないれみにあみがヒントを出す。
「旅立つ前に見た配信!」
「あ、あんなさんの巨大チョコレートファウンテンにめるめるが特殊な金平糖入れたら爆発したやつだっけ」
「コーラにメントス入れて爆発するのは見たことあったけど、あれは初めてでしたね」
「だから、なんでその動画を見たかを忘れた?」
「あ…」
「明日、バレンタインデーだーーーーっ!」
「でも、誰も彼氏はいないのである」
「最近は自分チョコとか友チョコも盛んだし、みんなでチョコ買いにいこうよ」
「ユヅルさんにはお世話になってるし、義理チョコ用意しないとね」
「わくと君にも大会でお世話になったのであるが…」
「でも、連絡先知らないし…他にもせと☆君だって確か今スペインにいるはず」
「そうなんだ」
「うん。この前、ラウラ☆さんが言ってた」
「そうしたら、エルザさん達やまもるさん達の他にも、まいまいさんやつぼみさん達にも友チョコを…って収集つかないね」
「何かいい手はないですかねぇ…」
「それなら、いっそ、感謝の気持ちを込めたバレンタインライブを配信しよう」
 あみの提案を予測していたのか、れみが即座に対応する。
「バレンタインライブ、できるみたいだけど、3人ライブですね」
「よし。じゃあ、センターは今年の新作、サイドはプリパラのバレンタインコーデで2回ライブして編集すればいいか。
 そう。以前、エルザさんチームと2手に分かれてそれぞれライブしたものを編集して、8人ライブにしたのでその応用だ。
「なるほど。4人で6コーデのバレンタインライブ。それ、いいかも」

 あみにかかれば、なんでも食べるかライブするかに直結して楽しんでしまう。でも、れみはふと思う。

 こんなにこの世界に絆を増やして、もとの世界にもどれるんだろうか…


#02 アンジュさんに想いを届けるイベントに参加してみた

「あ、いたいた」
 あみは集合場所におふぇりあさんが居るのを見つけた。
 雰囲気の似たコがあと二人。
「こんにちは」
「あっ、あみさん!それに皆さん」
「そちらの方たちがチームメイトの…」
「はい。ざに、れむれすです」
「はじめまして」
「よろしくお願いします」
「えっと、じゃ、全部で7人だから…」
「ライブって最大6人ですよね」
「うちは途中のフォーメーション変わるところでメンバーも変えますね」
「なるほど。それで7人ライブというわけですね」
「7人全員でガールズエール合わせってもの面白いですね」

 ライブが始まる。最初はまみが控えに入る。そして、2回目の「やってみた」のタイミングでまみが登場。まみの「やってみた」の間におふぇりあさんのチームがローテーション。れみが後ろに下がり、ゆみが控えにまわる。あみは指示を出すためその場をキープでフォーメーションチェンジが完了する。

 なんとかフォーメーションチェンジはうまくいった。7人ライブは大成功だ。

 ライブ後、れむれすさんが話をふった。
「あ、そういえば、聞きました?アンジュさんの引退」
「ええ、びっくりですね」
 更に、ざにさんから追加の情報がもたらされた。
「このあと、ミラクル☆キラッツチャンネルでみんなでアンジュさんに想いを届けるイベントやるそうですよ」
「えっ、そうなんだ…それはぜひ行きたいです」
「それなら、会場まで一緒に行きましょうか」

 イベントにはかなりの人数が集まっていた。
「イベントって何やるんだろうね」
「少なくとも、イグアナの物まねではないでしょうね」
「ははは。あれ、可愛かったですけどね。思わず録画しちゃいましたよ」
 以前、ミラクル☆キラッツチャンネルで、みらいがイグアナの物まねをした配信の時のネタだ。

 実際、イベントはアンジュさんにメッセージを届けるためにマスゲームをするような感じの企画だった。


#03 あいらさんと会ってみた

 買出しに来ていたゆみが、お菓子売り場で足を止めた。
「あら?」
「どうかしたか?」
「まみ、このグミ、コーデが新作じゃない?」
「本当。今回、どのコーデもかわいいから、全部買うのだ」
「ちょっとお待ち!」
 籠に入れようとするまみをゆみが止める。
「あみあたり、見つけて既に買ったかもしれないよ。電話で確認してからにしよう」

「もしもし、あみ?」
「うん」
「新しいグミ、スーパーにあるよ」
「そうなんだ。じゃ、半分ほど買っておいて」
「半分?」
「今回、箱買いしても揃わないみたいだから、幾つかの店で買ったほうがいいみたい。わたしも見つけたんだけど、失敗しちゃったんだ」
「失敗?」
「今日出るって知ってたから慌てて買ったら、セーラーチアがストレートで揃った…」
「古いやつを買っちゃったんだね」
「うん。前に最後にやっと揃ったお気に入りのコーデなのに、なんか悲しい…」
「まぁ、あみは何でもネタにするんだから、また何かそれで新ネタすればいいじゃない」
「うん。考えておくね。こっちは今、れみと待ち合わせて、プリズムストーンの衣装展示みてるんだけど、ここでれみが新しいグミある程度買ったから」
「そうなんだ。展示してる衣装、綺麗でしょ。じゃ、またあとでね」

「あみ、衣装展示見に行ったって」
「ははは、我々が通りかかって見かけた話をしたら早速。予想通りの行動である」
「でも、待ってよかったね」
「そういえば、その「ちょっとお待ち!」って、元ネタあるのか?」
「あみに聞いてみたら、小学校の頃に読んだ「くいしんぼうの花子さん」って絵本らしいよ」
「どんな話であるか?」
 簡単に言うと、牧場の牛のリーダーの花子さんが、他の牛が餌を食べようとすると「ちょっとお待ち!」と言って自分が先に食べて、食べすぎでおなかにガスが溜まって苦しみ、悔い改めていいリーダーになる話だ。
「ははは。食いしん坊同士で感じるものがあったのであるな」

 さて、一同終結してグミの開封作業が始まる。
 あみの作戦が当たり、ゆみ達と買ったものとれみの買ったものの分布は全然別で、結果、3コーデ揃い、ボトムスのシークレットも出たのだった。
「作戦成功だね」
「相変わらず、トップスの色違いはないけどね」
「じゃ、グミ代の精算しようか」
 あみが言う。
「あ、それなんだけど、まみとあたしで持つよ」
「なんで?」
「あみとれみはもうすぐ誕生日だから、あたしたちからのささやかなバースデープレゼント」
「わぁ、ありがとう!嬉しい!」
「さて、みんなでこのキラキラ綺麗なグミを食べよう」

「こんにちは」
 グミを食べかけた時、来客があった。そして、その来客を見て、れみはついグミを落としてしまった。
「あなたは…七星あいら…さん」
 つい、芸能ニュースのノリで敬称略になりそうなのを慌ててフォローする。
「へ?」
 あみは一瞬わけがわからずポカンとしてしまう。
「あみ、頭が高いですよ。デザイナーズ7の七星あいらさんですよ」
「あ、神アイドルユニットのセインツの…」
「この世界では元有名プリチャンアイドルで、今はスイートハニーのデザイナー。なかなかお会いできるようなお方ではありません!」
「いやいや、そこまで大層じゃないから…」
 あいらさんが言いながら歩み寄ろうとして何かに躓き転倒する。
「ぎゃふん」
「わーっ、大丈夫ですか!」
「あ、大丈夫大丈夫」
 あいらさんは何事もなかったかのように立ち上がる。そして、いつの間にかれみが用意した色紙にサインを書きながら、
「今日来たのはね…」
 説明を始める。
「ちょっと、あなたたちにお手伝いをお願いしたいと思ってね」
「え?わたしたちが?」
「ミラクル☆キラッツやメルティックスターに匹敵する実績がありながら、あえて草の根配信を続けているプリ☆チャンアイドルということで、みらいちゃんの推薦でね」
「はぁ…」
 いや、草の根でやりたいんじゃなくて、予算がないだけなんだけど…
「私とアンジュでセレクションライブを非公式でやろうと思っていてね」
「確かに、うちはセレクションライブは経験あります」
「でも、アンジュさんって引退するんじゃなかったですか?」
「ええ、私たちはアンジュの真意を聞くべく、届け物の箪笥に潜伏してアンジュの元に行き、彼女と対話したの」
「このセレクションライブは、アンジュの迷いを和らげるため、私が企画したのよ」
「わかりました。微力ながら協力させていただきます」
「さすがは「あいどる血盟連合長」さん。話が早くて助かります。
 あの…なぜその一発ネタを知ってるんですか…自分達ですら忘れつつあったのに。
「ただし、今回の件はみらいちゃん達にも話していない、シークレット企画なので、事後に限定配信になると思うし、場合によっては配信できないかもしれないけどいいかな?」
「たとえ配信できなくても、いい経験ですし。それに秘密も守ります」
「良かった。あ、報酬といっては何だけどね」
 あいらさんがコーデを見せる。
「これって、この前のファッションショーであいらさんが着られてた服の色違いですか?」
 れみが訊く。
「あ、ファッションショー、見てくれてたのね。ありがとう」
「当然見ました!録画して3回見てます!」

「それなら、あなたたちの実力、見せてもらおうかな。このあと、あなたたちのライブに私とみらいちゃんがゲストで入らせてもらってもいいかな」
「いいというか、逆に光栄すぎて何というべきか…」
「ところで、みらいさんは大丈夫なんですか?」
「外で配信の準備をしているわ」
「えっ、待たせちゃ悪いですね」
「よし。じゃ、ライブしよう。コーデはこのままで」
「あみ?せっかくあいらさん達がいて、素敵なコーデも貰ったのにいいの?」
 ゆみが訊く。でも、不思議そうな雰囲気というよりは確認といった雰囲気だ。
「だって、あいらさん達もお忍びで私服なんだったら、みんなこのままストリートでやったほうが楽しいし。それに…」
「それに?」
「あのコーデ、なんとなくだけど、使うのは今じゃないって言ってる気がするんだ」
 あみの発言に、あいらさんははっとする。
「そう。あなたにも聞こえたのね。コーデの声が」
「え?コーデの声?」
「お洋服はあなたたちに語りかけているよ。その声に耳を傾ければ、何を着るべきか、おのずと判るはず」

 外に出ると、みらいが待っていた。
「みらいさん!お待たせしました!」
 あいらさんはみらいに、
「あなたの目に狂いはないわね。もう合格は決まってるようなものだけど、私もこのライブ、楽しみたいわ」

 こうして、超大物ゲストなのにひっそりと限定配信になるライブをしたのだった。
「あの…ライブ、どうでしたか?」
「楽しかったよ。長い間デザイナー業に専念してたから、いいウォーミングアップにも…」
「えっ、ウォーミングアップって、もしかして復帰…」
「いや、そのそうじゃなくって…あっ…」
 あいらさん、慌てたように後ろに下がろうとして、また何かに躓いた。
「ぎゃっふん!」
「大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫。セレクションの日程とかは、また連絡するね」
「はい。お待ちしています」

 あいらさんは帰っていった。
「あいらさんって、レジェンドの風格と親しみやすさを併せ持った人なんですね」
「よく転ぶ人だったんだね。でも、そこが親しみやすいのかもね」
「それにしても、大ごとになってきたのである」
「隠密行動で限定配信なのが勿体無いけど、今回もいい経験だよね」

「あの…」
 みらいがあみ達に声をかける。
「あいらさん、あなた達にどんな用だったの?」
 うーん、秘密の計画だし、どこまで話すかな…?悩みつつあみが答える。
「わたし達もよく判らないんだけど…あ、それと、壁にならずにこちらで座りませんか?」
 あみは振り返って言う。
「…私は壁。超えもい壁…」
 壁に扮したつもりのえもの後ろにりんかが立っていた。
「えもちゃん…」
 みらいが半ばあきれたように言う。

「話を戻すと、あいらさんには何か考えがあって、アンジュさんの迷いを和らげる作戦に手を貸してほしいと頼まれたの」
「ふむふむ」
「それで、わたし達の実力を試すため、さっきのライブをしたというわけ」
「でも、なんであみ達なのかな?」
 えもが疑問を投げかける。
「草の根配信の手ごろなグループって事らしいんだけどね」
「私が思いついて推薦したんだけど…迷惑じゃなかった?」
「いやむしろ、選んでくれてありがとう、って気持ちしかないよ」
「じゃ、あみちゃん達にすべてを託すね」
「うん。頑張る」

 そう。この時はまだ、これが衝撃のライブの序章だとは7人とも思っていなかった。
 

今回のライブシーン
                   

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