第28章 年末のライブ納めやってみた

「それにしても、よく優勝できたね」
「助けに来てくれたみんなにも感謝だね」
「まさか、あんなプロセスで付けた『あいどる血盟連合』が本当に5チーム選抜メンバーみたいな連合軍になるとはね」
「さっそく、賞品コーデでライブ配信しようよ」
「賞品コーデ、アプリに付いてたやつの色違いだね」
「でも、色がすごく綺麗!」
「じゃ、ちょうど色違いもあるし、色違いライブでいいかな」

 一時はどうなるかと思った大会も無事クリアし、まみも随分と自信を持てるようになった。
 その日、まみはライブ発信スポットに向かっていた。今日はたまたま一人だった。
「今日から始まる福袋をゲットするのだ!」
 そこで気付く。あ、今日使いたいコーデを持ってない!
 まみは鞄の中を見た。コーデの束がない。代わりに、あみに借りた3DSが入っていた。
「そういえば、あみが作ったコーデで着てみたいのがあって借りたのであった」
 まみはこの機会にそれを着てライブしてみた。
「ん?」
 その時、ギャラリーの中にひときわ目立つコがいるのに気付いた。

「ふっくぶっくろー!中身はなにかな」
 まみはライブ後、ゲットした福袋の中身を確認した。
「これって、ファルルのスーパーサイリウムコーデ?でも、色違いかな?」
 いずれにしても、これは当たりの部類だろう。まみはうきうきしながら歩き出した。
 その時、声がかかり、まみが振り返ると、さっきギャラリーにいたコがいた。
「あたし、夢川ゆい。ユメお願い!友達を探すのユメ手伝って!」

 …もしかして、「アイドルタイムプリパラ」のゆい?本物?そういえばこの前、らぁらが現れてゆみに似たようなことを言ってたはず…
 まみが考えていると、ゆいがまみの手を取り、目が合った。
「あたしと一緒にライブすれば、きっとらぁらもユメ見つかるから!」
 ゆいの目が虹色に光り始める。まみは夢を見ているような気分になり、ほぼ無意識にゆいから渡された彼女とおそろいのコーデを着て、ゆいとのペアライブをしていた。
 ライブが終わっても、らぁらは現れなかった。
「今日はユメありがとう。また一緒にライブしてね!」
「あの、このコーデは…」
「お礼にプレゼントするよ」
 まみがユメ目効果から我に返り、らぁらに会ったことを伝えようとした時にはすでにゆいはいなかった。
 まぁ、そのうちらぁらには会えるんじゃないかな?

 そして、ついに今年も終わる。
「はぁ…」
 あみがため息をつく。
「どうしたの?」
 ゆみが訊いてはっとする。4月に異世界から飛んできて、ここで年越しとなってしまうのだ。余計なことを訊いちゃったかな…?
「わたし、毎年、神社の参道で買ったお煎餅を食べながら紅白見てたんだ」
「うん」
「でも、お父さんが腰を手術するから、参道の坂がきついので、去年で最後だったんだ」
「あ、でも、あみたちの世界はまだ4月かもしれないから、手術もまだなのかもしれないのか」
「だね。で、せめてお煎餅だけでもと思ったんだけど、こっちの世界にはお煎餅屋さん、なかったんだ」
 ん?もしかして、あみのため息って、帰れないことでも、お父さんの手術の心配でもなく、煎餅か?

 そこへれみが帰ってきた。
「ただいま」
「あ、お帰り」
「お土産ですよ」
 れみが袋から煎餅を取り出した。
「あみのお気に入りのやつにいちばん近そうなのを買ってきました」
「わぁ、嬉しい!ありがとう」
「あと、年越し蕎麦セットも」
 だしとそばとえび天とかまぼこが2食分パックになったやつだ。
「紅白、Aqoursが出るの、楽しみだね」
「実際、会ったことはないけど、静岡の深海魚バーガーの事思い出すね」
「我々も一緒に年越ししたかったのであるが…」
 そこでまみが言う。
「まみもゆみも家族で年越しだもんね」
「紅白といえば、DA PUMPのUSAも流行ったよね」
「あれ、ライブでやると盛り上がるだろうね」
「You can do it!」
「えっ?」
 唐突にめるが現れた。
「めるさん?一体どこから…?」
「めるめる達、来月セレクションやるから、誘いにきたんだけど、USAをライブでやるなら、めるめるもやりたい!」
「セレクションって、前にみらいさんたちがプリパラコーデを選んだようなやつですよね」
「イエース!今度はめるめるとあんあん、さららで選ぶから、セレクションライブに参加してね!」
「その時はぜひ!でも、USAって…」
「ライブ楽曲に最近追加されたみたいですよ」
 れみが答える。今の会話の間に調べたらしい。
「じゃ、今年のライブ納めにUSA、やりますか」
「締めくくりだし、会員証コーデでやる?」
「いいね!」
「そのコーデ、他では見ないね」
 めるが不思議そうに言う。
「わたしの自作コーデなんですよ。めるさんも着てみます?」
「ワーォ!楽しみ!」
「めるさんって、それこそUSAにいたんですよね」
「Yes!あんあんの欲しがってた落ちない流れ星を見つけたんだよ」
「じゃ、いっそ、めるさんがセンターでやるのはどうかな」

 年納めのライブはめるの加入でのUSAで盛り上がった。
「楽しかったね!」
「じゃ、今日は解散だね。今年も、いや、今年はかな、お世話になりました」
「来年もよろしくね!」
「よいお年を!」

 晩方。あみとれみは蕎麦を食べながらテレビを見ていた。
「紅白まで時間あるし、録画してたものでも見る?」
「うん。なんか、密着!ご当地アイドルみたいなのなかったっけ」
「あ、これですね」
「へぇ、今回はフランシュシュ、佐賀県のアイドルだって」
「佐賀を盛り上げるために蘇った伝説のアイドルのゾンビって設定みたいですよ」
「生前は伝説の花魁、伝説の昭和アイドル、伝説の子役、伝説の暴走族リーダー…デルザー軍団みたいで面白いね!」
「何ですか?そのデルザー軍団ってのは?」
「仮面ライダーストロンガーの敵で、ミイラの血を引くマシーン大元帥とか、狼男の血を引くオオカミ長官、黄金魔人の血を引く鋼鉄参謀…」
「いや、普通引き合いに出すなら地獄から来たヘヴィメタバンドのデーモン小暮閣下とかでしょ。そもそも、黄金魔人とかって知らないし」
 二人とも、かなり大昔のネタを出す。まぁ、デーモン閣下自体は今も活躍してるけど。
「うわ、メンバーの首が取れる手品やってますよ!ゾンビ設定もここまでくれば立派ですね」
「手品やってるセンターのコ、全国区でいけるくらいかわいいなぁ。でも、設定だとこの歳で死んじゃったって事?」
「まぁ、美人薄命といいますけどね」
「じゃ、わたしももうすぐ死ぬのかな?」
「あみは殺しても死にそうにないですね」
「どーいう意味よぉ」
 あみのつっこみをスルーして、れみが画面を指差す。
「あ、見てください!」
「ごまかした」
「いえ、今、マネージャーの人が写ったんですけど、めが兄ぃさんみたいだったんですよ」
「え、マジで?」
「でも、なかなか写りませんね」
「そりゃ、主役はアイドルメンバーだし」
「巻き戻しましょうか」
「あ、そうか。これ、録画だったっけ」
「うーん、サングラスかけてるし、髪形は似てるけどちょっと違うみたいですね」
「まぁ、めが兄ぃさんだとしても、九州はちょっと遠いよ」
「ですね。あ、もうすぐ紅白ですよ」

 ビデオを止めてNHKに切り替えるとすぐに紅白歌合戦が始まった。二人は煎餅をかじりながら座りなおした。
「この人が蛸のからあげの!」
「この人と同じ席でバーガー食べたんですよね」
 こんな話で盛り上がったAqoursの出番も終わり、中間のニュースが終わって、いよいよUSAだ。
「やっとですね」
「小さな子供にも人気なのに、この時間だと寝ちゃった子も多いだろうね」
「ゆうきもこういうの好きだったよね」
「いつか、一緒にライブしたいですね」
「わたしたちが元の世界の4月に戻った時、この曲聞いたら初めてなのに懐かしく感じるのかな?」
「どうなんでしょうね」

 煎餅の袋が空になった頃、紅白も終わり、除夜の鐘の音がテレビから聞こえていた。
 そして、年が明けた。
「年明けですね」
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「あ、そういえば、あみが死なないって言った意味ですけど」
「ああ、さっきの」
「あれは…その、友達が死ぬの、いやだ…って意味ですよ」
「まさか、いままで意味のネタ探してた?」
「どうかな?秘密です。そろそろ寝ましょう」
「今から夢見たら初夢になるのかな?」
「厳密にはいつの夢なんでしょうね」
「とりあえず、あの枕に宝船と富士山と鷹と茄子の絵を敷いて寝てみようかな」
「いい夢見れるといいですね」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

 結局、あみはめるの代わりにゆうきが入った5人でUSAのライブをやるという初夢を見たらしい。


今回のライブシーン
           

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