第27章 ウインタースペシャル大会にエントリーしてみた
「あれ?あみさん」
「あ、つぼみさん。こんにちは」
あみたちがライブをしようとしたら、ペアライブをしていた先客がつぼみさんだった。
「あみさんは4人チームだったんですね」
「はい。そちらの方はチームの方ですか?」
「しずくです。はじめまして。普段は3人なんだけど、今日は一人来てなくて」
「時間あるようでしたら、うちのライブにゲスト参加されます?」
「いいですか?では、よろしくお願いします」
「6人ライブだと、今日はまだクリスマスステージ使えますね」
れみが提案する。
「ははは、イブのイベントで終わった気になってたけど、25日が当日だもんね」
「クリスマスコーデじゃないけど、ドレスっぽいのでパーティー風にやりましょうか」
「いいね」
さて、ライブ後。
「そういえば、ウインタースペシャル大会のエントリー始まりましたね」
つぼみさんのふった話題にあみたちははっとした。
「げっ、うちはまだエントリーしてないわ…あとでエントリーに行かなくちゃ!教えてくれてありがとうございました」
「つぼみ、ライバル増やしちゃったね」
しずくさんがつっこむ。
「お互い、がんばろうね!」
「負けませんよー!」
「うーん」
「そういえば、棚上げして忘れてたね」
つぼみさんたちと別れて一時間後。みらいの店でお茶しながら、四人は悩んでいた。
「今回のエントリーシートに限ってこの欄があるんだね」
「やっぱり、要るよね。チーム名」
これがなかなか思いつかない。
「よーし、必死で考えられるよう…」
あみがカップケーキの箱の蓋を閉める。
「決定までお預けね」
「それでエンジンかかるのってあみだけじゃ…」
「それもそうか…じゃ、あと10分で決まらないと『なかよし血盟連合』になっちゃうとか」
あみは思いつく限りダサい名前を出した。
「うーん、ちょっとイマイチかな」
…ちょっとか?
「語感のギャップはいいとして、なかよしと血盟連合がかぶるから、『あいどる血盟連合』はどうでしょう」
「そっちのほうがいいかも」
…ていうか、なぜそれを原案で考える?
「じゃ、決定だね。それでエントリーっと。さぁ、カップケーキ食べようね」
…ホンマにそれでええんか?
あみがツッコミを入れようとした時、後ろから声がかかった。
「あ、いたいた。今日はとってもえもい話、持ってきたよ」
「えもさん?」
「二人はシステムエラーでプリパラの世界から来たんだよね」
「うん」
「あたしのおばあちゃんの知り合いに、プリ☆チャンの配信システムの開発をしていた人がいるんだけど」
「あ、そういえば、この前、おばあ様、配信されてましたね」
「その人が、元の世界へ返す方法がないか、話を聞いてくれるらしいんだけど、大会の次の日あいてる?」
「何もない筈ですよ。いてうか、何を差し置いても行きます!」
「じゃ、OKだね。おばあちゃんに言っておくね」
「ありがとうございます。おばあ様にもよろしくお伝えくださいね」
あみとれみはえもに深々と頭を下げた。
数日後。
「えーっ!なんでー!」
メンバーの絶叫が響き渡った。なんと、大会エントリー、抽選の結果参加できませんという通知が届いたのだった。
「募集要項には定員とか抽選ありとは書いてませんよ」
れみが募集要項を見直している。
「わ、ツイッターのうちのフォロワーさんでエントリーした人、全部落ちてるみたい」
「応募が予想以上に多かったのかな」
「まぁ、残念だけど仕方ないか…」
大会当日。
「えーっ!なんでー!」
再びメンバーの絶叫が響き渡った。配信で大会を観戦していたら、ミラクル☆キラッツが1回戦で敗退したのだった。
「おしゃまトリックスより良かったと思ったんだけどなぁ」
あみが言う。
「まぁ、あみはこの前のM1でも決勝見て和牛が優勝って言って外した実績があるけどね」
「でも、霜降り明星もいいからダントツじゃないって言ったじゃん!勝ったほうが違うだけで」
「いや、漫才の笑いのツボは関係ないと思うぞ」
まみがつっこむ。
「我もジャルジャルは1本目のが面白くて期待しすぎたから、結果、霜降り明星かなって思ったし」
「漫才は関係ない言うたん誰やねん!」
なぜかツッコミながら漫才談義を続けるまみにあみがツッコミを返す。
「ごめん、あたしM1って観てないからよく判らないんだけど」
ゆみが割って入る。
「M1ってのは、毎年12月の頭にやる漫才のコンテスト番組ですよ。で、決勝に残ったコンビがさっき出た3組なんです」
「あー、聞いたことある。来年はあたしも観なくちゃね」
そんな話をしながら見ていると、メルティックスターが決勝進出したところで、速報が入った。
「えっ、マジで?」
なんと、おしゃマトリックスがサーバールームに侵入し、点数操作をしていたことが発覚し、敗者復活戦をするらしい。
「敗者復活はクイズ大会だって」
「ふーん。クイズ王のいるチーム出てなかったっけ」
「リドラーズだね。確かに優勢っぽい」
「でも、クイズ中心のチームがライブであんなさん達に勝てるのかな?」
「厳しいかもね。って、あっ、ミラクル☆キラッツが逆転したよ」
「そのほうが面白いよね。あっ、CMだ。今の間にお茶淹れようか」
そして決勝。メルティックスターのライブがものすごい得点を出したところで速報が入った。
「コーデチェンジのシステムトラブルのため、しばらくお待ちください、だって」
場を持たすため、マジカルレーンさんの手品ショーが始まった。
「まさか、このためゲストに?」
「たまたまでしょ」
「あ、ライブ始まるね。あ、いきなり着替えた状態で出てきたね」
「まぁ、確かにコーデチェンジ出来ないなら、普通に着替えたらいいもんね」
「あれ?衣装、手作りっぽくない?」
「そうみたいだね。でも、かわいい衣装だね」
「結果、どっちかな?」
「予想つかないね」
…引き分けだった。
翌朝。れみの運転するレンタカーが高速を走っていた。
「で、プリティー電波研究所ってまだ遠いんですよね」
「だね。次のサービスエリアでちょっとお茶して休憩しようか」
メンバーで唯一運転免許を持っているれみ、向こうの世界のプリズムの煌きの中心のあみ、この世界のプリズムの煌きの中心のゆみというメンバーだ。
その頃、まみはあみたちのバイト先へ向かっていた。あみたちが不在のため、近々始まる福袋キャンペーンのチラシ折りの仕事をスポットで受けていたのだった。
「よし、研究所に着いた!」
「…はずなのに、手こずってるね」
「なんとか、がんばります!」
ペーパードライバーだけに、れみは駐車場に車を停めるのに四苦八苦したのだった。
三人を出迎えたのは時子さんという年配の女性だった。えもの祖母の友人だから当然なのだが。
「初めまして。よろしくお願いします」
「さて、どこから話そうかねぇ。今、月面に中継局を作って、宇宙にプリ☆チャンを配信するための研究をしているんだけど」
「はぁ」
「その中で、この世界ではないどこかからの電波が届いたの」
「はぁ」
「ふふ、ちょっと難しいかね。ところで、きみがこの世界に生きている意味を知っていますか?」
「えっ?」
「そう。神様にもわからないかもしれないね。でもみんな、自分をとりまく世界があって、少しずつ違っているという考え方があるの」
「パラレルワールドってやつですか」
「そういう言葉もあるね。例えば、私は野球が好きで、幼馴染に野球選手の双子がいたんだけど、片方は若くして亡くなった」
「お気の毒に」
「でも、別の世界では亡くなったのが別の兄弟のほうで、その子がプロ野球選手になり、私はマーサと出会うことなくその選手と結婚した世界があるかもしれない」
「もしそうなったら…」
「プリ☆チャンは開発されなかったかもしれないし、別の人が別のシステムを作ったかもしれない」
「ふむふむ」
「そんな二つの世界が重なると…」
話を要約すると、異世界となったあみの世界とゆみの世界が微妙に中心がズレた状態で重なったため、世界の接点から電波が届いたのではないかということだった。
そして、時子さんの仮説が正しければ、世界の接点に何らかのゲートを作ることが出来れば、あみとれみは元の世界に戻れるかもしれないというのだ。
「そのためには、あみちゃんとゆみちゃん、あなた達の脳波のデータが必要なんだけど」
「わかりました」
まず、ゆみがヘルメットのような装置をかぶった。時子さんがスイッチを入れた。
その頃、まみは仕事が終わって、缶のミルクティーを飲みながら休憩していた。すると、プリキャスにメッセージが入った。
「あみたちかな?」
まみはメッセージを見た途端、凍りついた。
昨日の大会で決着がつかなかったため、アンジュさんがとんでもない提案をしたのだった。
引き分けとなったミラクル☆キラッツ、メルティックスターに加えて、おしゃまトリックスの悪戯で大会に参加できなかったチームから1チームを招いて延長戦をするというのだ。
「年末といえば歌合戦。ガールズ達のキラキラしたライブをもっと観たいでしょ」
そして、敗者復活枠にまみたち「あいどる血盟連合」が選ばれたのだった。
「今は我一人…でも行くのだ!」
まみは会場へと向かった。
さて、会場。
「あれ?まみちゃん一人?」
みらいが驚いて訊く。
「他のメンバーは今いないのである」
「あ、そっか。時子さんのところだったね」
えもが思い出す。
「急な話だし無理もありませんわね。でも、手加減はなしですわ」
あんなが言ったところでアンジュさんが登場した。
「それじゃ、ルールを説明するわね」
まず、チャレンジャー同士でライブ合戦し、勝ったほうが挑戦者を指名し、更に勝ったほうが残ったチームと決勝というルールだった。
「えっ?チャレンジャー同士って…」
「私が出ます」
アンジュさんの発言で、驚愕の声が会場を埋め尽くした。
つまり、まみはアンジュさんに勝たなければ挑戦権を得られないのだ。
「いきなりラスボス戦みたいな…まぁ、どこが相手でも強豪であるが…」
まみは進み出た。
「今はソロ同士。全力で挑戦します」
まみはコーデを考えた。課題曲の振り付けはプリズムショーに近いからそれ用のコーデを選ぼうとした。
「う…いいね低い。それに、スカート短い」
一瞬、以前の炎上が脳裏をよぎったが、まみは覚悟を決めた。
「逃げるなんて、我のキャラではないのである!」
そして、ステージへと向かった。
曲が終わると、キラっとボタンが降りてくる。勝ったほうがキラッとチャンスに入る。
やりきった。悔いはない。まみはキラッとボタンを押した。
周りが暗転し、キラキラのミラーボールが降りてくる。
勝った?・・・勝ったんだ!
「おめでとう」
アンジュさんが握手を求める。まみはその手を握る。
「おしゃまトリックスの悪戯…じゃないですよね?」
アンジュさんは笑って、
「私はハンデのつもりで、あえてコーデを変えず、この服のままで出た。でも、あなたはいいねが低くても、ステージと自分自身に合うと思うコーデで勝負に出た。その心意気はとてもキラキラしていたわ」
そして、次の対戦相手の指名だ。おしゃまトリックスの妨害に関係なく決勝に残ったメルティックスターはアドバンテージを貰っている。
ミラクル☆キラッツには1回、メルティックスターには2回勝つ必要がある。
決勝で連戦はキツいか…
まみはそう考えた。
「では、メルティックスターに挑戦するのである!」
まみは一旦休憩のため、控え室に戻った。
「・・・!」
まみは驚いて一瞬絶句したのだった。
さて、その少し前のこと。
当然、あみたちにも知らせは届いていた。
「どうしよう…」
「ゆみの脳波はあと2分。れみ、ゆみと車で先に向かってくれる?」
「わかりました。でも、間に合わないかも」
「うん。事故ったら意味ないし、安全運転で、だもんね。わたし、ツイッターでも助けを求めてみるね」
即答でいくつか返事がきた。
「スペインに居ます。助けにはならないけど応援するね」
ラウラ☆さんは無理そうだ。
「私はちょっと無理だけど、今めばえと連絡取ってます」
まもるさん、ありがとう。
「九州に向かう新幹線に乗ってます」
エルザさんも厳しいかな…
「まみちゃんのピンチ?私でよければ力になるよ」
まいまいさん、お願いします。
さて、現在。
控え室に戻ったまみが驚いた理由は…
「数日ぶりですね。まみさん」
「つぼみさん?」
「抽選もれした私に見せ場をくれるなんて、あみさんも粋ですね」
「え?」
「あみさん、ツイッターで自分は延長戦に参加できないから代わりにまみさんを助けてほしいってツイートしてたんですよ」
「そうでしたか」
「たまたま、観戦しに会場来てたんで、ツイート見てすぐここに来たというわけ」
「つぼみさん…ありがとうございます。心強いです」
「一緒にがんばりましょう。でも、3人戦だから、なんならしずくを…呼ばなくても大丈夫か」
「…?」
「まみちゃん、キャラ作れてないゾ!」
「まいまいさん?」
「ペアライブしたこともある、まみちゃんのピンチ。一番乗り狙ったんだけどね」
「二人とも…本当にありがとう…」
「こらこら、泣きそうになってるよ。スマイルスマイル!」
「なるほど。それで血盟連合なんだね」
さらが納得する。いや、たまたまなんだけど…
「集まったところで…いいですわ。見せてあげますわ。このワタクシのセレブリティーを!」
「以前からお世話になっているあんなさん。礼儀として、全身全霊本気のライブで立ち向かうのだ!」
あんなの挑発にまみが返す。
最近話題のチャンネル3組の血盟連合という意外性もあり、まみたちはまず1勝した。これで対等だ。
一旦休憩のため、3人は控え室に戻った。
「あみさんのツイッターに他の参加者いないかな」
助っ人二人が確認する。
「まもるさん、めばえさんに連絡…あ、リプ見る限り、めばえさんは無理ってあるね」
まいまいさんが状況を告げる。
「エルザさんは九州へ向かってるって」
つぼみさんが言う。
「じゃ、また我々で…」
「あなただけいい格好はずるいですよ。つぼみちゃん」
誰かがつぼみさんの台詞を遮った。
「にじのエルザさん?なぜここに!」
「新幹線、たまたま自由席でね。新幹線って途中下車できるんですよ」
なんと、アンジュさんとの対戦を配信で見て、途中下車して駆けつけてくれたのだった。
「たまたまいいタイミングでここを通ったから良かった」
「…ふぅん。そういう事だったんだね」
また、意外な人物が会話に割って入った。
「えっ?わくと君?」
「いきなり姉さんからこのコーデ持ってここで代わりにライブやれって言われて」
「そうなんだ」
「メンバーは決まりだね」
「私は移動中なので、手持ちが猫占い師コーデくらいなんだけど」
「僕は姉の…げっ、ちょっと恥ずかしいかも…」
わくと君がめばえさんから預かったのは、確かに男の子が着るにはちょっと勇気が要りそうなコーデだ。
「あ、でも意外と似合うよ。プリ☆チャン界のレオナ・ウエストになれそう!」
「そうかな…?でも、これでいってみるよ」
「後は我のコーデであるが…」
「ちょっといいかしら」
今度の登場キャラはサングラスをかけたキラキラのオーラを放つ女性だった。
「あ、いつぞやの…」
まみが思い出す。アンジュさんの知り合いで、アンジュさんのキャストを無くして探していた人だ。
「アンジュが、自分もメルティックスターと対戦してみたかったので、よければさっきの自分の服をプレゼントするから、それでライブしてほしいって言ってたわ」
女性はそう言うと、まみにアンジュさんのと同じ服を手渡して去っていった。
よく判らないうちにコーデもチームも決まった。
「じゃ、私たちは客席で応援するね」
「本当にありがとうね」
つぼみさんとまいまいさんは客席へと行った。3人はステージに向かった。
広域で活動し、各地で注目のエルザさん、新たな魅力を解放したわくと君。
そして、なぜか先ほど対戦したアンジュさんとおそろいのコーデをまとったまみ。
意表をついたメンバーの化学反応でいいねを集め、決勝進出を果たしたのだった。
そして、いよいよ決勝だ。
「私はそろそろ九州へ向かわないといけないので失礼しますよ」
「忙しいところありがとうございました」
まみはエルザさんを見送った。そして、入れ替わりに・・・
「お待たせ!」
「今までよく頑張りましたね!」
ゆみとれみが到着した。
「そっちはどうだった?」
「話は後!決勝のステージ、始まるよ!」
「まぁ、いずれにしても、私たちも途中でこっちへ来たから、あみに聞くしかないんですけどね」
「間に合って良かったね。本来のチームなら、決勝、勝てるよね」
わくと君が言う。
「勿論!力を貸してくれた皆のためにも必ず勝つのである!」
まみはそう言うと、これまでより数段逞しくステージへの一歩を踏み出した。
その目に表彰台でトロフィーを手にする数分後の自分を見据えながら。
今回のライブシーン
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