第25章 静岡県に遠征してみた
「よし、お弁当も買ったし。準備OK」
「あいかわらず、コンビニ弁当ですね」
「まぁね」
あみとれみの掛け合いにゆみが突っ込む。
「駅弁じゃないんだ…」
「浮くお金で、昨日お菓子やペットボトル飲料を買ったんだし、生活の知恵だよ」
「なんとなく、思い出しますね」
あみの説明にれみが遠い目をする。
「あみとれみは新幹線で旅行したことがあるのか?」
「東京にね。去年の1月に」
「あの時も4人だったなぁ」
「ゆうきさん達?」
「ゆうきは先に東京に行ってて、みぃとさなえが一緒だったんだ」
そんな話をしながら、4人は新幹線のホームに上がった。
「あ、ちょうど電車入ってきた!」
「ちょっとお待ち!」
走ろうとするまみをゆみが止める。
「あれはのぞみだから、静岡には止まらないよ」
「あ」
「私たちが乗るのは次のひかりです。自由席は1〜5号車だから、もっとホームの端の方へ行きましょう」
四人はお弁当を食べながら話をしている。
「前に、ロコさんたちと居たときに、地震か何かがあったって事あったよね」
「うん」
「あの時、エルザさんがあの時と同じシステムエラーを見たらしいんだ」
「うん」
「で、気になって、わちゃわちゃ会の時にリサーチしたんだけど、まいまいさん、ほにまるさん、ぺんちゃんさん、おふぇりあさんは気付いたけど」
「うん」
「ニチカさん、しののさん、みつきさん、エリィさん、なみりーん☆さんは気付かなかったらしいんだ」
「…どういう事?」
「わたしと元の世界で会っている人は全員何かを感じてるんだ」
「これは推測なのですが」
れみが説明役を変わる。
「この世界のプリズムの煌きの中心と言われたゆみ、向こうの世界でプリズムの煌きの中心といわれたあみ」
「うんうん」
「そのあみと向こうで「ずっトモチケ」を交換した私とまいまいさん。この全員とライブしたことがあるのは…」
「我くらいで・・・あっ、エルザさんだ!」
まみが気付く。
「おそらく、最初からいて免疫のあるまみ以外で主にあみの影響を浴びたエルザさんがシステムエラーを引き寄せて、世界に歪みが起きたのかも」
「それで、何か世界が変わったって事?」
「わたしが放射能みたいな説明だなぁ…」
「という事は、まさか向こうの世界で私がエキストラに当選した映画は…」
「れみ、エンドロールのランウェイに出てたじゃない?…ってあれ?あたし映画観たっけ?」
ゆみの記憶に変化が生じていた。
「月末にブルーレイが出るから確認するのだ。…ってなんで我がそれを知っている?」
話がそこまで行ったところで、ひかりは静岡駅に停車した。
「えっと、東急スクエアはこっちの出口だよね」
出口を出ると、ロータリーがいくつもある。
「徳川家康の銅像はあるのに、横断歩道が見当たらないね」
そう言っていると、通りすがりのサラリーマンが、
「向こうへ行くなら、そこから地下通路を通るといいですよ」
と教えてくれた。
「ありがとうございます!」
地下通路を通って道を渡り、しばらく行くと大きくておしゃれな建物が並んでいた。片方の建物は隣の棟が工事中で、奥に高層棟がある。
「ここは県庁のようですね」
「あっ、富士山が見える展望デッキ開放中って書いてるよ」
「行ってみようか」
四人は県庁の高層棟に入り、エレベータに乗った。
「わぁ、いい眺め!富士山も見えるよ!」
「すぐ下に公園みたいなのがあるね」
「駿府城跡ですね」
「ところで、あみの仕事の場所は・・・」
「あっちのほうみたい。ちょっと行き過ぎたみたいね」
四人は県庁を出た。城跡の石垣と堀に沿って歩く。
「何これ?」
城跡の入口の横にワサビのオブジェがある。
「わさび漬け発祥の地、だって」
「へぇ。あ、ところであみはそろそろ仕事なんだよね」
「うん。みんなは城跡でも見て待っててね」
ワサビのオブジェの前で、あみは一旦離脱した。
さて、その後。
あみは仕事を終えて東急スクエアのショッピングモールにあるプリズムストーンに来た。
れみたちはまだ来ていないようだった。
「準備運動がてら、ライブでもしようかな…おっ、静岡限定会員証あるんだ。更新しようっと」
あみが会員証を発行していると、ライブしに来たコがいた。黒髪をサイドポニーにした和風な美人さんだった。
「あの、わたし遠征してきたんだけど、一緒にライブしませんか」
あみはライブに誘ってみた。そのコはゆえさんと名乗った。
「へぇ、遠いところはるばると。ようこそ静岡へ。では、旅の思い出になればいいですけど」
静岡県って、富士山とか緑茶とか、日本の美のイメージがある。ゆえさんは和装のコーデだった。あみはキラキラ加減が近いセーラーチアコーデで合わせてみた。
「ありがとうございました!」
ライブを終え、ゆえさんと別れてプリズムストーン店内を見て回っているとれみたちが来た。
「あみ、仕事は済んだ?」
「うん。順調にね。そっちはどうだった?」
「城跡の庭園で紅葉見たり、あ、徳川家康手植えのミカンの木があったんですよ」
れみがスマホで写真を見せてくれた。けっこうたくさん実がなっていた。
「すごいね。もいで食べたら怒られるだろうけど」
「ははは、これは金網の隙間から写真撮ったけど、フェンスで囲まれてたよ」
ゆみが補足する。
「そりゃそうだ」
「あと、街中で店か何かの入口に実物大くらいの恐竜がいる所通ったぞ」
「それ、わたしも見たいかも」
「あみはどうだった?」
「待ってる間に地元のコとライブ配信した」
「現地のコとのコラボか。あたしたちもやりたいな」
「今、ここは他のコ見当たらないね」
「恐竜の近くに配信スポットがあったと思いますよ」
「じゃ、そっちへ行こうか」
「恐竜見たいから前を通るルートを希望します」
「うーん、適当に歩いたから正確に覚えてないなぁ。スルーしたらごめんね」
「ぶー」
「ぬけがけライブした人に文句言われる筋合いはないと思いますけど」
「まぁ、とにかく行ってみよう」
幸い、恐竜の前を通って配信スポットに着いた。奥に二人組とおぼしきチームとソロのコがいた。
ちょうど、ソロのコがフォロチケボードにフォロチケを入れようといていた。黒髪だけど、ツインテールで鼻には絆創膏。ちょっと日焼けしていて先ほどのゆえさんとは雰囲気が違う。
「あの、ボードを使うなら、わたし達とライブしませんか?遠征してきたので」
「へぇ、遠くから。いいですよ。でも…」
「何か?」
「せっかくだから、仲間呼びますね」
そのコは携帯を取り出した。
「あっ、あかね♪?みなもとだけど、遠征チームとジョイントライブやるんだけど…え、ちょうどいいね。じゃ、待ってるから」
電話での会話から、このコがみなもとさんで、仲間があかね♪さんなのだろう。
「ちょうど、全員すぐその辺りに居るんで、集まると思います。人数多くなるけどどうします?」
「じゃ、チームに分かれてライブですかね」
あみが答えると、みなもとさんが、
「あたしはユニットではソロだから…」
「だったらウチはどうしようかな」
そこへ3人のコがやってきた。
「はじめまして。あかね♪です」
「あおい★です」
「あさぎ☆です」
「あみです。よろしくお願いします」
「れみです」
「あたしはゆみ。で、こっちがまみ」
「私たちは3人だし、じゃ、ゆみちゃん、まみちゃんと大勢ライブかな」
「じゃあそれで。よろしくお願いしますね」
まみが答える。さすがに初対面ではキャラは作っていないか。
「みなもとはそちらのリーダー、あみさんとペアかな」
あかね♪さんが提案する。実際、あみがリーダーと決めたわけではないけど、そう見えるのだろう。
「…ということは、私は?」
「僕たちと組むことになりますね」
心配そうに言うれみに背後からイケメンボイスで声がかかる。
奥にいた二人組がいた。みなもとさんやあかね♪さんとは全然雰囲気が違っていたので、別のグループだと思っていたのだった。
「あ、私てっきり、別のチームの方かと…」
「ほら、やっぱりそう見えるよね」
みなもとさんがフォローする。
「僕はアルジェント」
「私はドラータ。よろしくね」
中性的な見た目でイケメンボイスのアルジェントさんに対して、ドラータさんは人形のような女の子だった。まみがブレることなく路線を貫けばキャラが近いかもしれない。尤も、ドラータさんがお歳暮カタログに載っている高級ウイスキーだとしたら、まみはスーパーで600ccで94円のペットボトル麦茶みたいなものだが。
ゆみたちが賑やかライブをしている間に、残ったメンバーはコーデ合わせの打ち合わせをした。
れみは二人に合わせてあみが作ったオリジナルコーデにした。
「わたし達はどうします?」
「私は元々すみっコぐらしコーデを用意してたんですが」
「あ、わたしも持ってるから、すみっコぐらしで合わせましょうか」
「いいですか」
ジョイントライブを3曲続けて配信した。
「ありがとうございました。いい旅の思い出になりました」
「静岡でライブするなら、ここかプリズムストーンかな」
「プリズムストーンへはもう行ってきたんですよ」
「そうなると、東静岡まで行けばライブできるんですけどね」
「ちょっと遠いかなぁ…日帰りだし」
みなもとさん達と別れて、4人はまた歩き出した。
「これからどうしようか。東静岡攻めてみる?」
「このあたりでお勧めの夕食ってことで聞いたら、海鮮丼って聞いたんだけど」
「我は海鮮丼大好き!楽しみだー♪」
あみの情報にまみが乗っかる。
「でも、晩御飯にはちょっと早くない?あたし、まだおなか空いてないよ」
「そういえば、うちにある都道府県かるたの静岡の札、沼津の海鮮丼って書いてました」
れみがそう言いながらスマホで調べ始める。
「あっ、在来線で小一時間ほどのところの漁港ですね。今から行くと、ちょうどご飯時くらいに…」
「沼津?行く行く!」
れみの言葉を遮ってゆみが言う。
「どうしたんですかぁ?」
れみが驚いて聞き返す。
「沼津といえば、今は無き浦女のあった町だよ」
「浦女?」
「浦の星女学院。統廃合で無くなった女子高なんだけど、ここのスクールアイドルのAqoursってチーム、学校の名前を歴史に残すって、去年の全国大会で優勝して、すごくニュースになったんだよ」
あみは思い出した。去年、プリパラの楽屋で、そのエピソード聞いて、みんなで1票入れた学校だ。こっちの世界でもあの大会はあったらしい。
「よし、プリ☆チャンアイドルとして、一流のスクールアイドルと同じ空気を感じることも大事だね。行こう!」
あみがそう言うまでもなく、全員完全に沼津へ足を伸ばすモードになっている。
「東静岡はまたでいいよね」
「だね」
そんな話をしながら、四人は静岡駅へ帰ってきた。あみがお手洗いを探しに土産物屋や飲食店のあるモールへ入って行こうとした。
「確かに、電車長いし、みんなで行こうか」
そして、最初に用を足してみんなを待つあみの手には紙袋が。
「あれ?あみ、それは?」
「そこで買ったんだ。やっぱコレ、みんなで帰って食べたいから」
「静岡銘菓夜のおかし「うなぎパイ」だ!聞いたことある」
「有名なお菓子ですよね。あみの食べ物アンテナにはいつも脱帽です」
「さ、電車に乗って出発だ!」
一同は沼津駅を出た。
「着いたね」
「この駅、ドキュメンタリー番組で見たから、初めてなのに初めてじゃないみたい」
そんな話をしながら、駅前の仲見世商店街へ進む。
「ねぇ、入口の横断幕に『祝・Aqours紅白出場』って書いてあるよ」
「ははは、紅白に出るんだね。年末が楽しみだね」
商店街のバナーにAqoursのメンバーが載っている。さすが優勝校だ。
「あれ?マンホールが浦女の校章になってる」
「こっちはメンバーの人の似顔絵のマンホールもありますよ」
「あ、ほんと。でも、バナーと比べてもちょっと似てないかも」
「あみ、そのバナー、千歌さんってコだけど、このマンホールはルビィさんって書いてあるよ」
「あ、向かいにもいっぱいバナーがあるね。えーっと、ルビィさん…あった!似顔絵そっくりだわ」
しばらく歩くと本屋がある。
「ドキュメンタリーではメンバーの人が本屋の船の模型がどうとか言ってたような」
「まさか。博物館じゃあるまいし」
話の種に一同が書店に入ると、本当に2階に船の模型が展示されている。しかし、一同は3階に展示されていたガンプラに釘付けになっていた。
そんなことをしながら歩いていたこともあり、漁港に着いたときには日が暮れていた。
最初に目についた海鮮丼の店は閉まっているようだった。
「えっ…そんなぁ」
「あ、でも、あそこのお寿司屋さん、海鮮丼ありますってポスター貼ってるよ」
「やった!さっそく行ってみよう」
一同、勇んで入ったものの…
「お寿司、一貫で500円とかあるよ…」
「一番小さい丼にしようか…」
「うん。でも、おいしそうだね」
出てきたのは丼とお茶碗の間くらいのサイズの器に入った海鮮丼とあおさ汁のセット。
海鮮丼はごはんが見えないくらい、鮪や金目鯛等の刺身がお椀の上までどっさり載っていて、イクラがちりばめてられている。
「すごい!イクラがキラキラしてる!光り物のお刺身もあるみたいだし、美術品みたいだね」
「普段はワカメの味噌汁だけど、全体が青緑の汁物って初めて…あ、これおいしい!」
「丼の魚もおいしい!幸せ〜♪」
「さて、ごちそうも食べたし…」
「あそこに「沼津港」って書いた大きな提灯があるから写真撮ろうよ」
カメラを構えたあみが奥のほうに別の飲食店があるのに気付いた。
「あれ?ハンバーガー屋さんかな?」
「あみ…あんたさっき海鮮丼食べたばかり…いや、あみならまだ食べれるか」
言いかけたゆみがハンバーガー屋の看板を見るなり、
「ああっ!ここは!」
「どうしたんですか?」
「このお店、Aqoursのドキュメンタリー番組で出てたよ。ライバルの北海道代表のコが深海魚バーガーをお勧めされてた」
「何それ?」
「深海魚のフライのバーガーだったよ。その北海道のコはおいしいって言ってたけど」
「まぁ、滅多に来ないんだから、もちろん食べにいくよね」
あみはそう言いながらもうハンバーガー屋のドアを開いている。
「答えは聞いてないよね…」
一同、ぞろぞろと店に入る。
「えっと、深海魚バーガーお願いします」
「じゃ、私も!」
あみに続いてれみとゆみも手を上げる。
まみは、
「あの、この「堕天使の宝玉」って何ですか?」
「Aqoursメンバーの津島善子ちゃんが作ってくれたレシピによる蛸の唐揚です。挑戦しますか?」
「挑戦?」
「ハバネロを使ってるから辛いんですよ」
「あ、でも挑戦してみます」
「では、当店オリジナルのクリアファイルをどうぞ」
すごい、挑戦者には賞品出るんだ…
一同は席についた。その席の横に写真が貼ってある。Aqoursメンバーが三人座っている。
「あ、この人、さっきのマンホールの人だ」
「この人はガンプラの本屋さんで来店時の写真貼ってた人ですかね」
「え、本屋に写真あったの?」
「気付かなかったですか?」
「えー、教えてよ」
「あんな大きく貼ってたら気付くと思うんですけど」
「そうなの?」
あみはゆみたちを見た。
「気付かないほうが難しいと思うよ。入口の横の目立つところだったし」
「で、この人がレシピの作者のヨハネさんだね」
「え?そんな名前だったっけ」
「芸名みたいなのがヨハネってことみたいよ。一人だけ本名じゃないからなんとなく覚えてた」
「その三人と同じテーブルの席ってことだね。なんかすごい気がする」
ちょうど料理が出てきた。
まみが蛸の唐揚を食べる。
「うぅ…辛い」
あとの三人も一切れずつ貰って食べてみる。
「辛い…」
「でも、なんとか食べられる辛さというか、慣れると癖になるかも」
あみだけは平然と感想を述べていた。
「ちなみに、こっちはどうかな」
あみが深海魚バーガーを食べてみる。
「うん、これはおいしいね。フィレオフィッシュの魚フライよりお惣菜屋さんの魚フライに近いかも」
「まみ、あたしの半分分けてあげるね」
ゆみが深海魚バーガーを半分に分けてまみに渡した。
「ありがとう」
その時、あみが思い出したように、
「ちょっとお待ち!」
「どうした?」
「折角だからプリ☆チャンでグルメレポート配信しようよ」
「えっ?ここまで食べ散らかした状態から始める気?」
「もう始まってますよ」
「れみ?」
「さっきの海鮮丼からずーっと撮りながら中継してました」
あみ達がひたすら食べて、配信に気付かず配信を提案するところまでの顛末は、あとで見ると結構受けたようだったのだが…
「れみ…配信はファインプレーだけど、言ってくれなきゃ恥ずかしいじゃん!」
「自然体でいい配信になりましたよ」
食事を終え、一同はそんな話をしながら店を出た。そのまま歩くと港の端まで来た。
「なんか綺麗な建物があるね」
「水門をライトアップしてるのかな?」
「それより」
ゆみが言う。
「沼津からだと最寄の新幹線は三島になるみたいだけど、こだましか停まらないみたいよ」
「げっ!帰れるの?」
「とにかく急いで沼津駅まで戻ろう!」
「最後の最後までバタバタだなぁ…」
「でも、この前の淡路はれみと二人だったけど、四人で来られて楽しかったな」
「うん」
「あ、でも、うなぎパイは帰るまで食べちゃダメだよ」
「わかってるって。仕事の時に近くのコンビニで帰りの電車用のお菓子とペットボトルの静岡茶買ってるから大丈夫」
「海鮮丼と深海魚バーガーを食べてなお、お菓子を用意するとは…」
「いつものことですよ」
「れみー、人を食欲の権化みたいに…」
「違ったっけ?」
「もー、まみまで!」
「ほらほら、仲見世商店街、見えてきたよ。駅はもうすぐ!」
こうして、静岡遠征は幕を閉じたのだった。
今回のライブシーン
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