第23章 炎上してみた

「久しぶりなのである」
「まみ!おかえり」
 集中講座を終え、まみが戻ってきた。
「どう?期末テストは行けそう?」
「もちろん、勉強もしっかりやったし、さっきそこで…」
「何かあったの?」
「ホイップさんとすれ違ったのだ」
「ホイップさん?」
「口笛を吹きながらスイーツの食べ歩きをしているおじさんなのである」
「そういえば、そのホイップさんを見かけたら願いが叶うって噂を聞いたことがあります」
「で、期末テストで赤点取らないようにって願掛けしたのである」
「なるほどね。講座を頑張ったご褒美かもね」
「でも、ごめん」
「なんで謝るの?」
「続けて、あみたちが帰れるようお願いしようとしたんだけど、もういなくなってて」
「ははは、別にいいよ。それはわたし達が見つけた時にお願いすることだから」
「そういえば、ミラクル☆キラッツセレクション参加できず申し訳ないのである」
「じゃ、復帰記念ライブはセレクション関連でやろうか」
「まずはあたしとウサギ合わせでいく?ラビットハートミントコーデとバニーマジシャンコーデで」
「うむ。でも、バニーマジシャンはあみが着ていた色違いのほうが合いそうなので、それにしようかな」
「いいかも」
「次はあみとだね」
「何にしようか?」
「れみとゆみのナース合わせに対抗して、わんわんポリスとプリパラポリスで良いか?」
「うん。面白そう。で最後はれみと」
「れみは制服ライブ好きであったな」
「そうですね。じゃ、全員で青春スクールでやりましょう」
「ラストは全員か。いいね。じゃ、3連続ライブ、やってみよう!」

 そして、ライブが終わってパシャリングステーションだ。
「コーデが青春スクールだし、パシャッとアイテムの本を使うのだ!」
「いいんじゃない。学生の本分は勉強だしね」
 まみが椅子に座って本を読むシーンを撮影した。他には全員のライブシーンや集合写真も撮った。
「さて、プリスタにアップする写真を選ぶのだ」
 4人は並んだまみの写真を見る。
「へぇ、本読んでる表情もいいね」
 そこでまみがはっとする。
「げっ…」
「あ…」
 他のメンバーも気付く。
「これは没だね」
「うん。あたしも前にブランコでやらかした」
 本を読むシーンで正面の引きの構図の写真にスカートの中が写っていた。
「じゃ、やっぱり記念だし、集合写真にしよう」
 まみが読書のアップから集合写真にカーソルを動かし始めた時だった。
「げっ…」
「あ…」
 時間切れで丁度カーソルがあった先刻の没にすべき写真がアップされてしまった。

「どうしよう…」
「まぁ、スカートと同色のアンダーだし…」
「でも、気付く人は気付くよぉ!」
「まぁ、わたしなんて同じように事故って半目のダサダサの写真晒したけど、そんなに見る人もなく、逆に次はかわいい表情待ってますなんてコメント来たりしたよ?」
 実際に見ると、閲覧数はぽつりぽつりと増えていく程度だった。
「まぁ、普段通りのペースですし、常連さんが新規写真だって見てる程度…」
 れみが言いかけた途端、閲覧数の増え方が加速した。
「わ…何これ」
 閲覧数が倍々に増えていく。
「まさか…炎上ってやつ?」
「どうしよう…」
 れみが咄嗟に画面を切り替えようとタップしたら、コメント表示に切り替わった。
「見え…た?」
「見えてる」
「小悪魔キャラだけに、これも何かの作戦か?」
 まみはそれを見て、顔がみるみる紅潮した。そして、隣の部屋に駆け込んだ。
「しまったなぁ…」
 れみは自分の操作を後悔したが、後の祭りだ。

 隣の部屋からはすすり泣く声が聞こえてくる。
 三人が困っていると、りんかが入ってきた。そして、一緒にいるのは…
「ユヅルさん…」
「まみちゃんに謝らせようとお兄ちゃん連れてきたんだけど」
「ユヅルさんが謝る問題でもないような…」
 あみが言いかけると、りんかが、
「お兄ちゃんが炎上してるのは自業自得だけど、巻き込まれたまみちゃんがかわいそうだから」

 ん?話が見えない。

 りんかは表示されていたコメントを繰っていく。
「あみやれみならともかく、まみのキャラ的に事故だろ?」
「推しのまみちゃんのサービスショット…でも、保存したと知れたらきらわれちゃうかな?」
「そもそも、あのカメラマンは万死に値するな」
「ちょっと羨ましいけど…それも含めて許せない」
「まみちゃん、これで引退にならなきゃいいけど」
「次の配信を待とう」
「まみちゃん引退したらカメラマン許さない」
「そうそう。彼が諸悪の根源だ」

「なんか、気になる書き込みもあるけど、概ねまみには好意的なコメントが多いね」
 あみが素直に感想を述べる。
「でも、ユヅルさん、なんでこんなに叩かれるんだろう?」

 りんかが別の動画を出す。
「これよ」
 パシャリングステーション中のオフショットだった。ちょうど、問題のシーンを撮影しているあたりのタイミングで、ユヅルさんが
「いいね」と言っている。
「実際は表情の事を言ってたんだけど、どう見ても誤解を受けるよね」
 ユヅルさんも困った顔で言う。そして、ドア越しにまみに声をかける。

 ドアが開いた。
「ユヅルさんが悪いんじゃないです。私が変な写真にカーソルを当てただけです…」
「まみちゃん…大丈夫?」
「はい…」

 れみがまみに声をかける。キャラを作れないまみを励ますにはこれしかない。
「まみ、見てください」
 コメントは先ほどのもの以降は、まみを励ますものばかりが並んでいる。

「とにかく、楽しいライブを配信して、今回のものを埋もれさせようか」
「…あみらしい提案だなぁ」
「ほら、今度、キュートフェスティバルやるって告知あったよね」
「え、あたし知らない」
「モフモフの可愛いキャラがいっぱい来るお祭りですよ。コットンちゃんも来るみたいですよ」
 ゆみにれみが解説する。
「コットンちゃんって、あのふわふわのブタみたいな可愛いやつだよね。よく見かけるけど」
「私、コットンちゃんの相方マスコット募集に応募したのよ」
 りんかが言う。
「すごい!どんなコなんですか?」
「シルクちゃんっていってね…」
 りんかが見せた絵は般若みたいな強面のキャラだった。
「…なかなか個性的な…」
「みらいはキラッCHUを応募したって言ってたわ」
 ぜったいそっちのほうが可愛いと思う。
「わたしも考えてみようかな」
 あみがその辺にあった紙にキャラクターを描いてみる。
「できた!」
「…何これ?」
 ニワトリに近いかもしれない謎の生命体だ。
「うーん、怪鳥ピヨダルマって感じだなぁ・・・」
「鳥モチーフは多そうだし、イカなんでどうでしょう」
 れみが描いたイカモチーフのキャラの絵は…
「少なくともイカではない何かだ…」
 どうも、メンバーの画才は独特の方向のようだ。
「ところで、ライブの話じゃなかったっけ」
 ゆみが話を戻す。
「そうだった。モフモフつながりで、ウサギライブを今度は4人でやるのはどうかな」
「なるほど」
「あみ」
 まみがあみの手を握る。
「ウサギライブはやるけど、着ぐるみコーデ借りてもいい?」
 確かに、バニーマジシャンは色っぽいから着ぐるみのほうがいいだろう。
「いいよ。じゃ、バニーマジシャンはれみに任せようか」
「あみはどうするんですか」
「わたしはプリパラの元祖ウサギのワンダーランドコーデにしようかな」

 ウサギライブ、まみは後衛で着ぐるみだったにもかかわらず、いちばんいいねと祝福コメントを貰ったのだった。

「さて、キューフェス当日のライブはどうするのだ?」
 まみはすっかり元通り。ユヅルさんの誤解も配信のMCで解けたし。炎上の件は落着した。
「当日、やりたい事あるんですけど」
「あら、れみが企画?」
「今、プリパラのすみっコぐらしのコラボ衣装再現コーデ入荷キャンペーンやってるんです」
「そういえば、れみは新しいパシャッと用のぬいぐるみ欲しいって言ってたね」
「えへへ、ぬいぐるみは2種類ともゲット済みです。コーデもほとんど揃ったんですが…」
「あ、足りないワンピ、プリパラの現物あるよ」
「さすがはあみ!」
「じゃ、すみっコぐらしコーデで『インフルエンサー』やってみた、で決まりだね」
 コーデの割り振りとかを楽しそうに話すまみを見て、あみはほっとした表情を浮かべるのだった。


今回のライブシーン
            

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