第22章 セレクションのミューズに就任してみた

 その日も、ここにまみは来ていなかった。
「ゆみ、どうだった?」
「まみ、一週間ほどは来れないみたい」
「どうしたの?」
「中間テストの成績落ちて、塾の集中講座受けるんだって」
「ゆみはどうだったの?」
「あたしは本業もおろそかにしたくないからね」
「そういえば、ゆみは最近眠そうにしている時がありましたね」
「えーっ、無理しちゃダメだよ」
「ありがとう…今日もちょっと眠いかも…」
「わたしの枕、貸してあげようか?」
「いや、あれ借りると起きれなくなりそうだし」
「そのほうが疲れが取れるんじゃない?枕取ってくるよ」
 あみが部屋を出ようとしたら、まみが現れた。
「ごめんなのである…我は今から集中講座」
「がんばってね。復帰を待ってるよ」
「それが、追い討ちをかけるように…」
 まみが椅子に置かれた本屋の袋から漫画雑誌を取り出す。
「それ、さっき私が買ってきた『ちゃんぷ』ですけど」
「ここを見るのだ」
「あ、まとん先生の『マジラブ』休載なんだ…いいところなのに残念ですね」
「うう。我も楽しみにしていたのに…」
「でも、集中講座中に気が散らなくて勉強はかどるよ?」
 ゆみがフォローする。
「あ、そういう考え方もアリだね」
「でも、忙しいのはまみだけじゃないんだよね」
 いつの間にか枕を持って来たあみが口をはさむ。
「わたしとれみもクリスマス商戦用の仕入れとかの手伝い入っててね」
「漫画の休載で、気が散らず集中できるのは私たちも同じですね」
「さっそく、わたしたちもチラシ折りの仕事あるし、ゆみが寝てるあいだにやっちゃおうかな」
「えーっ、あたしも手伝うよ?」
「いいのいいの。ゆみの任務は体力回復が今のミッションだよ」
「寝てる間に額に『肉』とか書いたりしないでね」
 ゆみがあみに釘を刺す。
「信用ないなぁ…せいぜい可愛い寝顔の写真撮れたらプリスタにアップするくらいしかしないよー」
「勝手にそんなものアップするなー!」
「ははは、冗談冗談」
「あみが言うと冗談に聞こえないのはなぜなんだろう…」
「はい。枕とタオルケット」
「あ、ありがとう。タオルケットも用意してくれたんだ」
「もう11月だし風邪引くといけないしね」
「そのスカートだと、何か掛けとかないと寝返りも打てないでしょ」
「あ、そうかも」
 まみも塾へ行き、ゆみは隣の部屋で横になった。

 ゆみは目を開けた。時間の経過はわからないけど、外がちょっと暗くなっていた。
「あ…」
「おっ、お目覚め?疲れは取れた?」
「ええ、おかげ様で」
「3時間半ほど寝てましたね。あと30分起きなかったら起こそうかって話してたんですけどね」
「…起こすってまさか」
「ふふっ、私のキスとかお望みでしたか?」
「れみが言うと冗談に聞こえない…」
「さて、わたしたちの仕事も一段落だし、ミラクル☆キラッツの新作チャンネルでも見る?」

 ミラクル☆キラッツの番組で、漫画休載中のまとん先生を応援する密着レポを配信していた。
「休載といっても、番組に出演してるなら、すぐに再開するんだろうね」
「ですね。忙しくて描けないなら、オファー受けないでしょうし」
「それに、番組中でも先生がキラッツのライブ見てやる気出たとか言ってるよ」
「わたしたちも誰かに元気を届けるようなライブしないとね」
「だね」
「あれ?何か告知があるみたいですよ」

「ふーん、ミラクル☆キラッツのメンバーが好きなプリパラのコーデを3つずつ選ぶ「ミラクル☆キラッツセレクション」かぁ」
「面白い企画ですね」
「…!」
 ゆみの表情の変化にれみが声をかける。
「ゆみ、どうかしました?まだ眠いとか?」
「え、ああ、大丈夫…」

「で、えもちゃん、選んだコーデはどうするの?」
「あたしたちが着てライブするだけだと面白くないから、ミューズになってもらうよう友達に打診中、なんだよね」
「そうなんだ。で、ミューズって何?」
「ファッションショーで、そのブランドを代表するモデルさんの事よ」
 みらいの質問にりんかが答える。

 そう。実はゆみはえもからこの話を打診されていた。勢いでえもプロデュースの私服ライブをして、うやむやになっていたが、実は今日みんなに相談しようとしたのだが、まみのこともあり、言い出しそびれているうちに、あみたちの仕事の事も聞いてしまい、完全に言い出すタイミングを逸してしまっていた。
 どうしよう…せっかくのいい話を潰したくはないし…

 翌日。ゆみはえものところへ行った。
「えもさん。例のセレクションのミューズの件だけど」
「うん。やってくれる?」
「他のメンバー、色々忙しくて。あたし一人でもいいかな」
「いいけど結構ハードだよ」
「がんばります」

 初日の撮影はソロライブ3連発だ。
 まずはみらいプロデュース。ラブリー1着目。ラビットハートミントコーデで『ワン・ツー・スウィーツ』だ。
 続いてえもプロデュース。ポップ1着目。せいしゅんスクールれもんいろコーデで『スキスキセンサー』を踊る。
「大丈夫?」
「はい。まだ行けます!」
 今日の最後はりんかプロデュース。クール1着目。ムーンライトパープルコーデで『キラリ覚醒リインカネーション』だ。
「お疲れ様でした!」
 さすがにソロ3連続は体力使うなぁ…帰宅後は勉強もあるし、夕食は定食屋さんでスタミナ定食食べて帰ろうかな…

 翌日。今日も3連続ライブだ。
 今日のラブリー2着目はアイシングクッキーメルヘンコーデだ。
「このコーデ、可愛くてあたしも好きだな」
「だよね。このシリーズはミックスでアレンジしても違和感ないんだよね」
「本当に?って…あれ?」
 なぜかあみがいた。自然に話しかけられて、ゆみはつい普通に反応してしまった。
「あみ…なんで?」
「まみから、今日ゆみが学校で疲れた様子だったってメール来てね。速攻で仕事片付けてここへ来たんだ」
 あみはゆみと色違いのワンピにブリティッシュコーデとミックスしたアレンジのコーデだった。
「ソロ曲は昨日やり尽くしたんでしょ。わたしとデュオで行こう」
 ゆみはあみと『Play Sownd』でライブした。
 ライブが終わるとれみが待っていた。
「お待たせ。ゆみ、こんな面白い企画、私もまぜてくださいよ」
「次はあたしプロデュースのチアガールシャインコーデだから、あたし達は別のチア系コーデでバックに付くのはどう?」
「いいですね。それでいきましょう」
 あみ、れみ、みらい、えもがバックについて5人ライブをした。
 そして、次が本日最後のライブだ。
「私のプロデュースはプリパラポリスレッツイゴーコーデ。警官の制服だし、お揃いで着るほうがいいかな」
 今度はりんかが加わり、4人でお揃いライブをした。

 そして、最終日。
「最初はみらいさんプロデュースのプリパラナースほほえみのコーデだから…」
「私のにゃんにゃんにゃーすでナースデュオですかね」
「じゃ、ゆみとれみのデュオだね。曲は『レディ・アクション』かな」
「そうですね」

「次はあおぞらマーチコーデだけど」
「わたしとれみで色違いがあるから、3色ライブしようか」
「あみ、わざわざ昔のコーデを探して用意してくれたんだ…」
「うん。次のバニーマジシャンコーデも3色ライブできるから、連続3色ライブもOKだよ」

 そして、連続ライブが終わると、アナウンスが入った。
「ランクインおめでとうございます!パチパチパチ」
「ゆみ、やったね!」
「これで、あたしもチームの役に立てたかな?」
「え?役立つも何も、もともとうちのチームの良心みたいな存在だったような…」
「うんうん。誰が欠けてもダメだよ。あ、今日のまみみたいに欠席は仕方ないけど。それにね」
 あみが続ける。
「ゆみ、わたし達が仕事忙しいって言ったから、気を使って一人でオファー受けたんじゃないのかな?」
「私たちのために無理してたんじゃないですか?」
「ちょっとは…。まみも前に言ってたけど、なんか、二人が元の世界に返る手助けに、と思った割りに、二人に頼ってるから、自分たちもしっかりしないと…」 「わたし達は自分のことだし。助けてもらって感謝しているよ」
「でも、今回のランクインも、結局二人の力を借りたものだし」
「いいんじゃない、別に。わたし達、一応先輩だし、頼っていいんだよ」
「あみ…そういえば、先輩だったね」
「…忘れてた?」
「…実際ね…」
「れみー、ゆみがひどいよー!折角先輩っぽい台詞言ったのにぃ…」
「まぁ、貫禄とか風格の欠片もない先輩ですからね」
「もー!れみまでー!」
 そこまで言うと、笑いがこみあげてきた。
 結局それだけお互いの壁がないってことなんだなと。


今回のライブシーン
               

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