第18章 シャイニーフレンズ大会に参加してみた(前編)

 あみはゆみに新しいプリキャスを見せていた。
「へぇ、かっこいいね。アンジュさんのと同じ色なんだね」
「うん、悩んだけど、カッコイイから限定カラーに変更したんだ」
「まぁ、色変えるだけと考えたら、ちょっと高いもんね。確かに悩むわ」
「だけど、なんと、キラッとコーデの色違いが着れる、とか、いまなら枕もプレゼント、とか色々特典あったから、つい乗っちゃってね」
「なぜに枕がおまけなのかは謎だね」
「でも、気持ちいい枕だったよ。パシャステ中にぐっすり寝ちゃった」
「撮影中に寝るなーっ!」
 そんな話をしていたら、れみが入ってきた。
「大会のチラシとエントリーシート、貰ってきたよ」
 れみがテーブルの上に書類を置く。
「今回は絶対に出ようね」
 れみが持ってきたのはシャイニーフレンズ大会の書類だった。
 前々回の大会では薄氷を踏むかの如きギリギリの優勝。前回の大会は予定が合わず棄権だった。
「今回も配信でいいねを集めるのかな」
「今回の予選はミッキースタジオジャパンで実施だって」
「じゃ、電車乗って行かなきゃだね」
「で、このチラシに載ってるフレミングの左手みたいな髪型の人は何だろう」
「今回の賞品のコーデのデザイナーさんだったと思う。デザイナーズ7の一人の結構有名な人だよ」
 あみの疑問にゆみが答える。
「うーむ、髪型だけでも有名になれそう…でも、このコーデ、カッコいいなぁ」

 そして、大会当日。
「やってきましたMSJ!」
「MSJ…あ、ミッキースタジオジャパンの頭文字か」
 MSJは大きなテーマパークだ。そして、予選の内容は、このテーマパークの至る所にあるカードのお題をクリアし、クリアしたお題のポイントを競うというものだった。
 きょろきょろしていたあみがピッと指差す。
「あみ、カード見つけたの?」
「いや、ホットドッグ屋さん見つけたんだけど…」
「食べ歩きに来たんじゃないでしょ!」
「いや、あみ、そのまま向かうのだ」
「まみ?」
「ほら、そこで見つけたカード」
 まみが見せたカードには、
『ホットドッグを1ダース完食』とある。

 同じお題を引いたと思われるコたちが
「飴の早舐めだったら優勝できたのに…」
 などといいながらホットドッグを食べている。
 そういえば、前々回に飴の早舐め動画で予選上位にいたコたちだ。

「あたしたちはあのコたちより人数多い分楽だよね」
 ゆみがそう言いながら、1個目を食べ終わった時点であみは5個完食、れみは3個目にかかっていた。まみはもうすぐ1個目が終わる。
「嘘…もう残り2個?」
「あ、ごめん。ゆみたちまだ1個だったんだね。じゃ、食べていいよ」
 あみは5個食べたわりには平然としているようだ。
「いや、我は1個で充分…」
「私も3個でおなかいっぱいです」
「あ、そうなの?じゃ、わたしとゆみで1個ずつ食べようね」
「あみ…まだ食べるんかい!」

 次のカードにはアトラクションに乗るというお題が載っている。
 その近くのベンチにミラクル☆キラッツの面々がいた。
「あ、みらいさんたちだ!」
 よく見ると、みらいの横でえもが真っ白な抜け殻になり、反対側ではりんかが青ざめていた。
「どうかしたんですか?」
「あの絶叫マシン…もうダメ」
 あみたちが引いたのと同じお題だったようだ。
「えもさん達の様子からして、けっこう凄い絶叫マシンみたいであるな…」
「まみ、絶叫マシン苦手?」
「平気…いやむしろ好きである」
「あ、あたしはちょっと苦手かも…」
 ゆみはちょっと引きつりつつある。
「あみちゃん」
 みらいがあみに話しかける。
「私達のカードには、もう一回乗るとポイント追加ってあるんだけど」
「えー、いいなぁ、わたし達のにはないや…」
「私達も今から2回目行くから一緒に行こうよ」
「やった♪楽しみ!」

 数分後…
 真っ白な抜け殻になって気絶しているえもとゆみの横で
「すごかったね!」
「でしょでしょ」
 などと盛り上がるみらい、まみ、あみを見ながらため息をつくりんかとれみの姿が見られたのであった。

 あみ達はミラクル☆キラッツの面々と別れて次のカードを探しに向かった。
「ゆみ、大丈夫?」
「ん…なんとか復活…でも、食後にアレはなんともきついね」
 と言いつつ、足取りはまだふらふらしている。
「そういう意味では、ホットドックを6個食べた直後でも平然としているあみはやはり覇王ですね」
 れみが茶化す。そこで一同の目は正面に向く。
「あれ、なんだろ、あそこ?」
 人だかりが出来ている。
「あ、あそこにいる人に聞いてみようか。おーい、すみませーん!」
 あみが前を歩く二人組に声をかけた。
「なんですか」
 振り返った二人を見て、まみが一瞬いぶかしげな表情をしたが、あみは気付かず進める。
「あれ、何やってるかご存知ですか?」
「ナルシスターがランウェイライブやるみたいですよ」
「えっ、美人過ぎる双子姉妹の人たちですよね」
 あみが答えると、まみが口をはさむ。
「あみ、気をつけるのだ!このコたちは…」
 二人はそのリアクションに笑う。
「へへへ、そうだよ」
 この二人は悪戯をしかけてリアクションを配信する悪戯動画専門の「おしゃまトリックス」のメンバーだった。
「でも、人だかりを使ってまでやるような悪戯はしないよ」
「まみ、いきなり疑ったら失礼だよ」
「…ごめんなさい」
「いいよ。いつもがいつもだもん。じゃ、仲直りの印にガムでもどうぞ」
 メンバーの一人がガムを差し出す。
「どうも」
 まみがガムを取ると、仕掛けが動き、まみの指をパチンと弾いた。
「いたっ!」
「きゃはは、引っかかった!」
 二人は笑いながら逃げていった。
「またねー」
 確かに、このような他愛ない悪戯をするだけなのだろう。実際、人だかりの向こうでは美人姉妹がランウェイを闊歩していた。
「わぁ、本当に綺麗な人だぁ!」
「あみ、感心している場合じゃないですよ」
「なんで?」
「あの人たち、今、予選トップですよ」
「あ、そうか。ライバルだった」
「あたしたちは何位くらい?」
 ゆみが聞く。
「えっと…8位。しかも、3位と4位の差がかなりあるみたい」
「予選通過は3位までって言ってたよ!早く次のカードを探そう!」
 実際、上位3チームとその他では3倍以上のポイント差がある。

 カードを探しながら歩くと、メルティックスターの面々とすれ違った。あんなの額が赤く腫れている。
「あれ?あんなさん、どうしたんですか?」
「誰かが悪戯を仕込んでいましたの。あなた方も気をつけたほうがよろしくてよ」
「そうなんですか。忠告ありがとうございます。あんなさんもお大事に」
 多分、さっきの二人組の仕業に違いない。

 そして、見つけたカードには、
「街へ出てゲストを呼んでライブする」
 とあった。
「げっ…時間かかりそう!」
「でも、ポイントも高いし、いいねが規定を超えると人数分の倍率だって」
「つまり、4倍。逆転で3位に食い込むチャンスだよ」
「うん。急ごう!」

 四人はMSJを出て、街へ出た。
「しかし、ゲストといってもねぇ…」
 あみがツイッターを見た。知り合いが近くにいるようなツイートはない。
「どうしたものか…」
 言いながら、この街の配信スポットに行くと、一人、配信中のコがいた。
「知らないコだね。声かけてみる?」
 あみはそのコをよく見た。面識はないけど、どこかで見たような…
「あ、思い出した!」
 わちゃわちゃ会で、まいまいさんが知り合いだと言ってたけど、話す機会のなかったコだ!

「あの、こんにちは」
 配信を終えたコにあみが声をかける。
「あ、はい…?」
「まいまいさんのお知り合いの方ですか?」
「はぁ、面識はありますが…」
「わたしもまいまいさんと知り合いなんですが、わちゃわちゃ会で見かけた時に知り合いだって聞いたので」
「あ、そうなんですね」
「もし、良かったら、わたしたちのライブにゲスト参加してもらえませんか?」
 あみたちは事情を説明した。
「そんな大切なライブに出してくれるんですか。ありがとうございます。がんばります!」
「えっと…」
「あ、私、えみっていいます」
「よろしく。えみさん。…ん?」
 あみは何か思いついた。
「ちょっと思いついたんだけど…」

「面白い!それでいってみようよ」
 あみの提案にみんな乗った。さぁ、いよいよライブ配信だ。

「みんなの気持ちをリズムに乗せて。元気にプリ☆チャン、オンエアー!」
 あみは更に続ける。
「今日のメンバーは、えみ、れみ、ゆみ、まみ、そして、最後はわたし。あみ。この中に一人ゲストさんがいます!ゲストさんは誰か当ててみてね。いいねにコメントで答を付けて送ってくれたら、正解者の中から抽選でわたしのフォロチケ差し上げまーす!」
「いや、要らんやろ」
 ゆみがつっこむ。
「要らなくても受け取ってもらうもん!さぁ、わたしのチャンネル、始まるよ!」

 ライブが終わった。
「えみさん、ありがとうございました」
「また、機会があればよろしくお願いします」

「さて、順位は…」
「あっ、ミラクル☆キラッツ、ナルシスターに続いて僅差で3位!…と思ったら、メルティックスターが今、一気に1位で…4位」
「嘘…制限時間は…?」
「あと3分」
「どうしよう、MSJに戻るまでに時間切れだよ」
 あみ、まみ、ゆみががっかりしていると、れみが、
「あみ、お願いします」
 カードを手渡す。
「拾ったものの、ホットドッグの後だったので、後で挑もうと持ってたんです」
 カードには
「コーラ500cc一気飲み」
 とあった。そして、背後にはコーラの自販機。

 こうして、あみたちは辛うじて予選を3位通過したのだった。

(続く)


今回のライブシーン
   

前へ表紙へ次へ