第17章 ツイッターを始めてみた

 少し前のわちゃわちゃ会でのこと。
「あ、あみさんも呼ばれてたんだね」
「まいまいさん!」
「今日はこのあと、あとスカートで揃うコーデがあるから、ライブしに行きたいけど、時間が…」
「え、このスカートダブってるから貸せるけど、今持ってないわ」
「そっか、残念…」
「ツイッターある?」
「うん…あ、でもパスワード忘れて使えないんだった…」

 それから少しして、エルザさんを見送った時のこと。
「今度機会があれば、あとの二人も紹介しますね」
「あ、それなら、ツイッターで。私のアカウント、鍵つけてるけど、フォロー申請くれたらフォロー返しますね」
「はい」

 と言ってはみたものの…
「…ははは…パスワード…どうしよう」
 あみは困りながらスマホを見ていた。こうもツイッターがあれば、の場面に遭遇すると、ツイッターのアカウントが死んだままだと不便だ。
 アプリ一覧でツイッターを上げようとして気付く。
「Gメール?」
 あ、そうか。携帯のアドレスじゃなくて、こっちのアドレスでアカウントを作り直せばいいんだ!
「できた!」
「何ができたんです?」
「えっ?」
 あみは声に驚く。
「あ、えっと、あいちゃむ★さん?」
 たしか、まもるさんのチームのコで、シャッフルユニットでは別のユニットだったはず。
「おひさしぶりです」
「ごめんなさいね。ちょっとコレに必死で気付かなくて」
「で、何ができたんです?」
「あ、ツイッターのアカウント作ってて…」
「まもるもツイッターやってますよ」
 あいちゃむ★さんがまもるさんに電話をかける。
「あ、うん。あみさんがツイッター…名前で検索してフォロー、あ、ちょっと待ってて」
 あみに向き直り、
「名前で検索してフォローしてみてください」
「え、うん。あれ?検索してもいっぱい出てくるなぁ…」
 四苦八苦するあみの様子をあいちゃむ★さんが実況する。
「あ、そっか。なるほど」
 まもるさんからアドバイスがあったらしい。
「他のメンバーのことも載ってるから、メンバーの名前を加えて検索したらいいみたい」
「どれどれ。あ、ありました。フォローっと」
 あみのタイムラインにまもるさんのツイートが表示される。あみはそれを見ながら、
「へぇ、みんなで髪型お試ししたんだ…あいちゃむ★さんのこの髪型、似合ってるけど男の子みたいだね」
「あれ?女だと思ってました?」
「えっ?男の人だったんですか?」
「ふふ。どっちだろうかな〜?」
 あいちゃむ★さん、悪戯っぽく笑う。
 そういえば、ここのチームにはわくと君もいるし、レオナさんみたいに…
「はい、時間切れ。じゃ、散髪前の記念ライブでもしましょうか」
 あ、教えてくれないんだ…

 そんなこともあり、現在。あみのフォロー数は3。ちなみにフォロワーさんも3。
「過疎地ですね」
 れみがあみのツイッター画面を見て言う。
「それでも、タイムラインで自分の発言、埋もれて見えないんだよね」
 言いつつ画面をくっていく。
「えっ…マジ?」
「どうしたんですか?」
「エルザさん、来週また近くに来る用事があるんだって」
「ああ、以前、あみとまみが出会った遠征してきてたって人ですね」
「うん。お勧めのランチとかないかって」
「遠くから来るなら、ご当地ラーメンとかどうですかね」
「あ、値段もお手軽だしいいね。わたしのお気に入りのラーメン屋さんを2軒ほど書いておこうかな」

 そして、次の週。あみはランチを終え、ふらっと配信エリア近くを通りかかった。
「そういえば、そろそろエルザさん来る頃だっけ…」
 見渡すと、あみと同じおだんごツインの髪型のコがいる。おだんごのコがあみに気付いた。あみがきょろきょろしているのを見て、
「ライブの相手をお探しなら、私たちとやりますか」
 おだんごのコともう一人、眼帯のコがいる。ただ、以前フォロチケを置手紙みたいにして交換したコではなさそうだ。
 どこかミステリアスな雰囲気の二人組だ。
「ありがとうございます。ぜひ。あ、でもうち、大所帯だから、機会があったらみんなでもいいですか」
「あら、それはそれで楽しみですね。私はみつき、こちらは相方のすい」
「よろしく」
 眼帯のコ、すいさんが挨拶する。
「わたし、あみです」
「あ、もしかして」
 みつきさんが何かを思い出したように言う。
「私たちがここに来た時に会った人、誰かを探してるっぽい雰囲気だったんですが、あなた、私と似た髪形ですから」
 もしかして、エルザさんかな?
 あみはみつきさんにツイッターに載っていた前回の画像を見せてみた。
「あ、そうそう。この人です」
「もうどこかへ行っちゃったんですか…」
「ラーメン屋さんの場所を聞かれたのでお教えしたのですが…もう食べ終わってるかもしれないですね」
「そっか…」

 その時だった。

「あっ、あみさん!お久しぶり」
 エルザさんだった。どうやら、食事を終えて戻ってきたらしい。
「いやー、さすがはあみさんお勧めのラーメン。美味しかったです」
「でしょ。あそこのチャーシュー麺はおいしいですよね。でも、毎回だと飽きるから、ピリ辛のトマトラーメンとミニチャーシュー丼にしたりとか」
「それにしても、みつきさんとあみさんが一緒にいるとは」
「いや、たまたまなんだけど…」
「あ、おだんごツインという意味です。実は、私には似合わなくて、難しい髪型だと思ってたら、普通になじんでる人を立て続けに見かけたので」
「うーん、エルザさんは今の髪型でなじんでいるし、人それぞれですよ」
「そうかもしれませんね。あ、せっかくだからみんなでライブしませんか」
 エルザさんが提案する。
「今回ももう一人連れてきているんで呼んできます。メル、どこ?」
 えっと、めるめるさんじゃないよね…
 エルザさんと戻ってきたのはメロディー☆さんだった。
「みつきさんもエルザさんも二人参加ということは、じゃ、わたしも仲間呼びますね」
 みつきさんたちの雰囲気に合いそうで、エルザさん、メロディー☆さんと面識があるといえば、このコしかいない。

「あみ、どうした?急に呼び出して」
 あみはまみを呼び出した。
「あ、二人ともお久しぶりなのである!こちらの二人ははじめまして…かな」
「そうですね。よろしくお願いしますね」
「で、各チーム二人ずつで何かやるとか?」
「そう。6人ライブやるから、まみ、センターやってね」
「ええっ?いきなり?ま、いつものことか」

「すごい無茶振りしてるね、あの人…」
「そういえば、聞いた事がある。まわりをサイクロンの如く巻き込みライブする平成末覇王がこの町に来てるって噂」
「でも、怖い人じゃなさそうだけど…」
 他チームは顔を見合わせヒソヒソと話している。

「じゃ、準備は良いか?楽しんでライブするのだ!」
 まみもノリノリだ。なんだかんだで各チームのテンションも上がる。
「みんなの気持ちをリズムに乗せて、ミステリーなプリ☆チャン、オンエアー!」

 結局、盛り上がった3チーム混合ライブも終わり、みつきさん達は帰っていった。
「そういえば、二人は用事で来られたんですよね」
「これから、今度うちの仲間になるコとここで落ち合う事になってね。まだ暫く時間はあるけど」
「また、海外からのメンバーであるか?」
「海外?」
 まみの台詞にあみが聞き返す。
「メル、スペイン生まれです」
 メロディー☆さんが言う。
「ええっ、えっと、ぶえのすでぃぉす…うぇるかむとぅ、はぽん…あちゃ、ウェルカムトゥは英語か…」
 あみが出鱈目なスペイン語もどきを話そうとあたふたする。
「グラシアス、あみ。でも、日本語で大丈夫デスよ」
 そういえば、スペイン生まれって日本語で言ってたか…
「まぁ、メルもせと☆君もこの国に来てエルザの仲間になったんだケド、委員長は日本生まれダヨ」
「そうなんですね。あ、そうそう。せっかくだからうちの残りメンバーを呼びますね」
「ならば、我が呼んで来るのである」
「まみ、電話で呼べばいいんじゃない?」
「実は、忘れ物をしたので、どうせ戻るつもりだったのだ」
「だったら、ラーメン屋さんの近くで落ち合いましょう。委員長はそこに呼んでます」
「あれ?エルザさん、さっきラーメン食べたって…」
「おいしかったので、もう1軒と食べ比べしてもいいかなと思って」
「なるほど。あっちのチャーシュー麺、仲間内では人気あるかな」
「それは期待できそうですね」
 残ったあみたち3人がラーメン談義をしていると、そこへまもるさんが通りかかった。
「あ、こんにちは。ツイッター見たら近くにいるみたいだって思ってたらここでしたね」

「うわ…今日は混んでるなぁ。明日にするか…」
 ここを覗いて、帰ろうとする人が…って、
「あっ、まいまいさん!」
「あー、あみさんだったのか。そちらの人も前に見かけたような…」
「そうかも」
 まもるさんが答える。確かにエルザさん達以外はここでライブするから、見かけたことはあるかも。
「ははは、わたしがツイッターでフォローしている人、全員集合しちゃったよ」
「わちゃわちゃ会みたくなりましたね」
「じゃ、みんなでライブしよう!」
 あみが無理矢理話をまとめてライブを企画した。

 ライブが終わると、
「うわー、楽しかったけど、時間ガ!」
 メロディー☆さんが時計を見て声を上げた。
「そうそう。メルは別件で私とは別行動なんです」
 エルザさんが言う。
「あ、そうなの?じゃ、わたしが最短距離で駅まで案内しますね!」
 あみがスタスタと歩き出そうとする。
「助かりマス」
「まもるさん、まいまいさん。ありがとう。またね」

 あみとエルザさんはメロディー☆さんを駅まで送って、集合場所へ向かった。

「遅刻!」
 あみとエルザさんは額に何か衝撃を受けた。視界が揺れる。
 二人は数字の書かれた紙を額に貼ったまま、赤べこ牛のように首が揺れている。
「ごめん、委員長」
 エルザさんが言う。額には「4」と書かれた紙だ。
「紹介するよ。こちらはあみさん」
「はじめまして…」
 あみが「1」と書かれた紙をはがしながら前を見た。
 眼鏡にポニーテール。そして、額に違反チケットを貼る手際。あみはプリパラで目の前のコにそっくりな人に会っている。
 もしかして、この世界のみれぃさんなのかも…
「あ、ごめんなさい。思わずあなたにも違反チケットを貼ってしまいましたね」
「道案内してくれた人だよ」
「えーん、本当にごめんなさい…」
「いえ、別に怒ってはいませんが…ていうか、エルザさんを引き止めたのはわたしですし…」
 委員長さんはそこで話を変えた。
「そういえば、あなたがエルザが言っていた地元の方ですか?」
「多分そうです。あと、向こうのベンチで雑談している3人組もです」
 まみがあみたちに気付いて3人がこちらに来る。
「はじめまして」
 れみとゆみが挨拶する。
「うちのメンバーが恐らく多大なご迷惑をおかけしたとは思いますが…」
「いえいえ、あみさん達にはこちらこそお世話になっていますよ」
 れみとエルザさんが小学生の保護者のような会話をしている。

「ところで」
 委員長さんが話題を振る。
「私の計算によれば、夕食までの時間で、近くのビーチスタジオで6人ライブができるわ」
「ちょうど6人いるし、ビーチでやれる季節ももうそろそろ終わりだし」
「じゃ、チャーシュー麺の腹ごなしにやりますか!」
 まさか委員長、ライブの時は髪が黄色くなって、語尾に「ぷり」がついたりしないだろうな…

 そして、ライブ後のラーメン屋にて。
「で、同じ眼鏡、髪型の自分の姉妹みたいなコに会ってライブしたり」
「エルザさんみたいなコがこの町にもいたのか…そういえば、わたしも同じ髪型のコに会ったなぁ」
「みつきさんですね」
「そういえば、メロディー☆さんはいたけど、せと☆君は来ていないのだな」
「せと☆君たちは別の用事で出かけてます。メルもそこに合流してる頃ですね」
 そこであみはふと引っかかった疑問を口にする。
「あの、メロディー☆さんが言った時は外国の人だし気にしなかったけど、なんでせと☆「君」なの?」
「あみ、いくら外国のコでも、見て判らなかったのか?せと☆君は男だぞ」
「えっ?髪の毛も長くて可愛いコだったよね?」
「まぁ、あみはドロシーさんにどうみても女性みたいですね、なんて言うくらいですからね」
 れみ、ここで奈落の底につき落とすような事言わなくても…

 そこであみは思い出した。

 あいちゃむ★さんって、結局男の子?女の子?
 

今回のライブシーン
        

前へ表紙へ次へ