第16章 彗星を見上げてみた

 れみとゆみがお茶しているところにまみがやってきた。
「あ、まみ。こんにちはー」
「さっき、そこであみが浮かれた様子で走っていったのを見かけたのだが」
「うん、さっき、リアーネさんからわちゃわちゃ会のお誘いがあったってすっ飛んでいったよ」
「あみはフォローとかすごくやってるからね」
「さすがは『アイドル百人斬りの平成末覇王』の異名は伊達じゃないね」
「あみにそれ言うと怒りますよー。その誇張やめろって」
「それはそうと、新聞見たか?」
 まみが新聞を持っている。普段、あまり新聞を読んでいるイメージはないが。
「何?」
「この記事を見るのだ!」
「彗星接近?へぇ、今晩あたりから何日かはくっきり見えるんだね」
「また天体観測ライブやるよ!とか言い出すんじゃ…」
「あみじゃあるまいし。この彗星の発見者、この町の出身って書いてあるから持ってきたのだ」
「あまり知られてないのかな。普通なら駅に「祝!」みたいな横断幕とかありそうなのに」
 そんな話をしていると、まみが机の上のプリチケに気付く。
「あれ?アイスクリームコーデの新色?」
「うん。この前、あみとローソンで出張の買い物したら、レシートの額面で景品に貰ったんです」
「で、あみが誰かが都合悪い時にでも、アイスクリーム3色ライブやろうって話になって」
「そこへあみにわちゃわちゃ会の招待状が届いて、入れ替わりにまみが来たというわけです」
「じゃ、発起人のあみが都合悪い人ポジションで、我等でライブやるのだ!」
「そういえば、この3人だけのライブってあまりないね」
「ぬふっ。楽しみである」

 3人がライブを終えると、あみが帰ってくる頃…のはずが、まだ帰ってきていないようだ。
「あれ?あみ、まだかな?」
「絶対、勢いでどこかでライブやってると思う」
「多分そうでしょうね」

 そんな話をしていると、あみが帰ってきた。帰るなり、
「ほら、このプリチケ見て!」
「何?やっぱりライブしてきてたのだな…え、何であるか、これ?」
 まみはあみのプリチケを見て驚いた。
「フォロトモを一人、パシャリングステーションに呼べるようになったっていうから、リアーネさんに入ってもらったんだ」
「へぇ。面白いね。でも、あみ、このコーデって…」
「うん。シューティングスターコーデのカラバリだよ。なんか、彗星来てるっていうから、流れ星観測ライブとかやりたいなと試着してみたんだ」
 裏でまみたちの会話を聞いていたかのようなタイミングでネタ出しをするあみであった。
「夜のきらパーでライブできるらしいし、彗星がいるうちにやらない?」
「ちょうど、私たちもそんな話してたんですよ」
「あとね…」
 あみはもう一枚プリチケを出した。
「雑誌に今年のハロウィンコーデが載ってたから試着してみたんだ」
「わぁ、今年のコーデも可愛いですね。でも、なぜココにまいまいさんが…」
「ちょうど、パシャステ行こうとしたら、まいまいさんが通りかかったから、一緒に写真撮ったんだ」
「付き合いいいな、あの人も」
「つまり、その次はこのコーデでハロウィンライブというわけですね」
「そういう事!あと、今月は大会もあるみたいだし、楽しくなるよ」
 あみはノリノリだ。
「だったら、みらいさんのお店でお茶しながら打ち合わせしない?」
 ゆみが提案し、4人はみらいの店に急いだ。

 店にはみらいの妹のひかりがいた。その横のショーケースは空っぽだった。
「こんにちは。あれ?カップケーキ売り切れ?」
「ごめんなさい。さっき、お姉ちゃんが行き倒れの女の人連れてきて、その人が全部食べた後なんです」
「そっか。残念」

 四人ががっかりしながら店を出ると、キャリーバッグを引いた紫の髪のコが前を通りかかった。
「ねぇ、今、みらみらの話してたけど、みらみらのお友達?」
 いきなり話しかけられて、驚きつつも、あみが答える。
「みらみら…みらいさんの事でしたら、はい。知り合いですが…」
 言い終わる前に、そのコはあみと握手し、抱きついて頬に軽くキスをした。あみも咄嗟にそのコの頬にキスを返す。
 確か、西洋では親しい間柄の挨拶だったはず…
「よろくくね。みらみらの友達はめるめるの友達!」
「えっと、めるめるさん?あ、わたしはあみです。よろしく」
 他のメンバーも自己紹介する。
「そういえば、あみあみ、元気なさそうだったけど、どうしたの?」
「あ、大したことじゃないんですけど、みらいさんのお店、おいしいカップケーキがあるんですけど、売り切れで…」
 めるめるさんの顔色が変わった。
「ごめんなさい。めるめる、全部食べちゃったから…」
 ということは、この人が行き倒れの人か。
「体力回復のためなら仕方ないですよ。お気になさらず」
「おわびに何かしたいけど、明日、運動会であんあんに伝えたいことがあって、今、時間ないんだ」
 そこでゆみが口をはさむ。
「まさか、あんあんって、赤木あんなさんの事?」
「うん。あんあんとさららはめるめるの大事な仲間」
 そこまで聞いて、ゆみは確信したように言った。
「やはり、あなた、元メルティックスターのめるさんですよね!」
「そうだよ」

「えええええーーーーーっ!」
 三人は思わず大声を上げた。

「めるさん、どうしてメルティックスターを抜けたんですか?差し支えなかったら聞きたいんですけど」
 ゆみは興味深々だ。
「抜けてないよ。あんあんが落ちない流れ星を見たいって言ったから、NASAに入って見つけに行っただけ。ほら、あそこ」
 めるが指差した先には件の彗星がうっすらと見えていた。
「ということは、彗星見つけたのもめるさん…」
 まみが驚いて言う。
「じゃ、めるめるさん、ライブ経験あるんですね!だったら、さっきの何か埋め合わせって話、いつか、わたしたちのライブのゲストに参加してください!」
「あみ、さすがにそれは…」
「もちろんいいよ!一緒にライブ楽しもうね!めるめるも楽しみだから、おわびにならないかな?」
「別におわびとか抜きで楽しもうね」
「うん」

「なんか、すごい大物ゲストを呼ぶことになったね」
「緊張してきました…」
「えー?なんで?楽しみだよ」
 あみだけリアクションが違う。そういえば、このコはプリパラ界で女神ジャニス様をランウェイライブに召還したんだっけ。
「ところで、アイスクリーム3色ライブは…」
 あみが切り出すと、
「あ、あみが都合悪い人担当だったので、私たちでやりましたよ」
 れみが悪戯っぽく笑いながら答える。
「えーっ!そうなの?残念…」
「まぁ、いいじゃないですか。もうすぐ日没ですし、きらパー行って流れ星ライブやりましょう」
「ははは、落ちない彗星のための落ちる流れ星になっちゃうけどね」
「そういえば、誰がどの色やるのだ?」
 まみが聞く。シューティングスターコーデはカラバリも多い。
「わたしが着てたのを全員でお揃いにしない?彗星っぽい色だし」
「たまにはいいかもね」
「あみのことだから、他の色のマイチケをファイルから探すのが面倒なだけかと思いましたが、あえてお揃いなんですね」
 一瞬、あみがギクっとしたようだけど、気のせいかもしれない。

 きらパーに近づくと、れみに連絡が入った。
「どうしたの?」
「なみりーん☆さんからわちゃわちゃ会のお誘い来ました」
「すごい!スターハーモニー学園の本職のアイドルさんだよね」
 ゆみが羨ましそうに言う。
「じゃ、れみが今回の都合悪い人ポジだね!」
 あみが敵を討つように言う。
「うう…どっちもやりたいですぅ…でも、行ってきます」
「そうそう。つきあいは大切だよ。よろしく言っておいてね」

 そんなわけで、れみだけお流れ星の流れ星観測ライブとなったのだった。

 さて、それから数日後。あみに連絡が入った。
「あれ?わちやわちゃ会のお誘いはない筈だけど…あ、めるめるさんだ!今日ならゲストでライブに参加してくれるって!」
 幸い、この時は全員参加できたので、メンバー全員+めるのライブとなった。

 ライブが終わると、アナウンスが入る。
「ランクインしました。おめでとうございます!」
 なんと、いいねの数が本日のベスト10入りしたらしい!めるさんの影響力恐るべし!
 センターをつとめたあみにメダルが贈られた。
「おめでとう」
 めるとさらが祝福に来てくれる。
「あれ?さらさん?」
「復帰したてのうちのメンバーがゲストだからね。ライブを楽しく見せてもらったよ」
「あれ?あんあんは帰っちゃったのかな?」
 めるの様子を見る限り、あんなも見に来てくれてたんだろう。

 それにしても、ついにランクインも果たしたし、そろそろりんねさんに見つけて貰えないのかな?
 あみはそう思いつつも、ここの世界にもどんどん絆が広がっていることに、少々複雑な気持ちになった。
 見上げると、彗星が見える。向こうの世界でも見えているのだろうか。


今回のライブシーン
     

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