第14章 くにうみの島へ出張してみた

「へぇ、遠征してきた人に誘われたんですか」
 れみはあみから昨日のエルザさん達の話を聞いていた。
「私達も遠征したいですね」

 れみのこのセリフが聞こえたのか、この直後、あみとれみは店長に呼び出された。
「えっ、淡路島でライブですか?」
 店長が一泊で洲本市に用事があるので、車に同乗して、営業ライブということらしい。
「あれ?店は休みですか?」
「ユヅル君に全部任せるから」
 相変わらず人使いの荒い店長だ。
「洲本って、確か、ドラゴンクエストの碑があって、スライムの銅像があるんですよね」
「銅像って事はメタルスライムじゃないの?」
 れみの知識にあみが突っ込みを入れる。
「盛り上がってるところ悪いけど、宿が追加の部屋無くて、あなた達は淡路市に滞在よ」
「だったら、メタルスライムは見れないですね。ちょっと残念」
「でも、キティちゃんのレストランとか、静御前のお墓とか、阪神大震災の断層がありますよ」
「キティちゃんはともかく、お墓とか震災とかって…」
「キティちゃんのレストランは島の西側だけど、宿は東側よ」
 店長が追い討ちをかける。
「あみ、東側には大きな観音様の像があるから大丈夫ですよ」
 実際には植物園やワールドパークおのころ、ニジゲンノモリといった楽しい場所が色々あるのに、なぜか全員その存在を忘れていた。そして、観音像も現在は閉鎖されている。
「まぁ、そもそも仕事で行くから、観光は関係ないか…」

 その頃、まみは初めてライブのゲストに呼ばれた事が嬉しくて、ウキウキしながら歩いていた。
 そこでたまたま、まいまいさんを見かけた。
「こんにちは。お久しぶりであるな」
「あ、まみさん。お久しぶり。まみさんはあろまのファンなんですね。私もガァルマゲドン、大好きです 」
「本当?わぁ、仲間だ!嬉しい!…あ、素になっていた!」
「キャラ作るのって難しいですよね。私も中二病って言ってる割には素だったりするし」
 確かに、オッドアイにメッシュのツインテはビジュアル的には中二病で通用しそうだ。
「試しに、中二病っぽくキメ台詞をやってみるのだ」
「こうかな…今度生まれてくるときは、お金持ちのかたつむりになりたい…どうかな?あれ、まみさん?」
「あ、ごめん。あまりにかわいいから、ボーっとしてしまった」
「えっ?」
「あっ、せっかくだからペアライブしませんか?」
「あ、いいですね。やりましょう」
「コーデ、どうします?プリチャンユニフォームならありますけど」
「ちょうど、この前、プリチケファイル買ったら貰えた新色のユニフォームがあるのでOKです」
なんとなく、話はうやむやのまま、素で話しながらライブをエントリーする二人だった。

 さて、あみ達は明石海峡大橋を車で渡っていた。
「あみ、宿の近くにおいしいお好み焼き屋さんがあるみたいですよ」
「じゃ、お昼はそこに行く?」
  食べる気満々のあみに店長が
「あら、ちょっと時間は早いけど、インター下りてすぐの店で生しらすの海鮮丼食べようと思ったんだけど。隣に試食できるおいしいお煎餅屋さんもあるし」
「あ、お好み焼きは晩御飯にします」

 さて、あみとれみは店長と別れて、宿に荷物を置くと、さっそく出発だ。
「どこ行けばいいのかな?」
「ちょうど、市役所見えてるし、あそこで地図とか貰えるんじゃないですか」  二人が市役所に着くと、なぜか入口付近に人だかりが出来ていた。
「わたし達の追っかけ…」
「ではない事は間違いないよね」
 二人は人だかりを避けて市役所に入った。ロビーには作業服姿の人たちがいて、「国土交通省災害査定」の腕章を着けた人もいる。
「へぇ、この前の大雨かな」
「玄関の人、お代官様、畑を直してください、みたいな?」
「いや、そんな雰囲気じゃないですよ」
「ちょっと聞いてくるね」
 あみはたまたま一団から離れて電話をかけていた作業服の人がちょうど電話を切ったので、その人に聞いてみる。
「さっき、館内放送で女子プロ野球のディオーネの選手が市長表敬に来るとか言ってたから、それじゃないですか」
「そうなんですね。ありがとうございました」
 作業服の人は足早に去っていった。

「ちょっと、何でそんな忙しそうな人に聞くかな」
 れみが指差した先には総合案内のカウンターが。
「あ」

 二人がショーケースで1億円金塊レプリカや淡路島の特産品の展示を見ていると、野球選手が到着し、ロビーが賑やかになった。
「うーん、どの選手がどのポジションとか詳しくないんだよね」
「野球もチェックしておくべきでしたね」
「そういえば、わたし達、何しに市役所へ来たんだっけ」
「案内地図探しに来たんです!」
「あ、そうだった」

 二人は地図を頼りに南へ暫く歩いた。
「あの、向こうに見えてる銀色のダンゴ虫みたいなホールの近くに配信設備があるみたいですよ」
「よし、じゃ、もう少しだね」
 とりあえず、目的地についたが、特に休日でもない昼過ぎなので、それほど人がいるわけではない。
「どうしよう」
「とりあえず、注目されなきゃですからね」
「じゃ、マイサイリウムのちょっとセクシーなやつを…」
「あみに任せて、私はラスカルコーデで一般受けにしましょう」

 とりあえず、イベント的なものなので、あみたちはエキストラと一緒にライブということを試みた。
 幸い、出てみたいというコが3人集まったのでライブ配信を行った。一応、イベントは成功だ。
「一応、アイテムのプリチケは出てくるんだよね」
「まぁ、同じシステムですしね」
 入荷アイテムを見て、あみが歓喜の声をあげた。
「キラッCHUのぬいぐるみだ!」
 パシャッとアイテムだが、以前、期間限定につられてすみっコぐらしのぬいぐるみを選んで以来、全く入荷しなかった代物だ。
「みらいさんのデザインと聞いて、めちゃくちゃ欲しかったんだ、これ」
 そして、出てきたプリチケを見る。
「?」
「キラチケとは違う、この懐かしいキラキラ具合は…」
 チケットの裏も星の模様ではなく、迷路みたいな模様だ。
「間違いないね…」
「そうですね。これは…」  プリパラのマイチケの用紙だ。
「用紙も世界を越えることがあるのかな?」

 とりあえず、二人は仕事を終え、予定していたお好み焼きの店に行った。
「あ、コースがあるみたいですよ」
「ごはん、サラダ、からあげ、やきそば、お好み焼きは好きなものをお代わり自由だって!ドリンクバーもついてるし、これだね」
 実際に注文してみると、シーザーサラダも量が多く、からあげにはフライドポテトがたくさん付いていた。ドリンクバーも炭酸系が多い。やきそばも結構なボリュームだ。
「なんだか、お好み焼きに到達するまでに満腹になりそうですね」
「とりあえず、最初にミックス焼きを頼んでいろんな具材を味わったほうがいいかもね」

「おなかいっぱいで動きたくないね」
「だから、なんであそこで3枚目のお好み焼きを注文するんですか…」
「いや、蛸もこの辺の名物だし、おいしそうかなと…」
「おいしかったのは認めますけど、もうだめです…」
 宿に帰ると、二人はこんな話をしながら眠った。

 れみはこの前入手したばかりのスターダストブルーグラデコーデを着た。今日は3人ライブだ。
「やっほー」
 あみが来た。色違いのコーデで、れみの青ベースに対してあみは赤ベースだ。
 あれ?こんなコーデあったかな?
 そして、あみとお揃いのコーデで登場したのは…
「ゆうき…?」
「れみ、どうしたの?ライブ、始まるよ?」
 久しぶりの3人のライブだ。あれ?なんで久しぶりなんだろう…?

 ライブが終わると、れみは目を開けた。ホテルの天井。
「…夢」
「あ、おはよう。れみ」
「あ、おはよう。なんか、あみとゆうきと3人でライブする夢、みてました」
「プリパラ仕様のプリチケ見たせいかもね」
「ゆうき、どうしていますかね」
「向こうでは一瞬のはずだけど…でも、会いたいね」
「うん。絶対元の世界にもどらないとですね」
「あ、急がないと、朝食バイキング、なくなっちゃうよ。ここ、おいしい朝カレーがあるんだって!」
「昨日、お好み焼きをあれだけ食べたのに、よく食べますね…」

 そして、そんな感じで、出張を終えた二人は今、まみ、ゆみと一緒にお茶をしている。
「おみやげあるよ」
「え、何何?」
「このお煎餅、試食したけどおいしかったよ」
 あみは生しらす海鮮丼の食後に隣の煎餅工場で買った煎餅を取り出した。
「あの…ありがとう…でも、なんかグロテスク…」
 ペタンコに伸した蛸がそのまま煎餅になっている。
「あ、でも、おいしい!」
「でしょ」
「どれどれ。あ、本当。おいしいわコレ」
 気が付くと、千円の大袋の蛸煎餅は一瞬にして四人に食べつくされていた。
「ところで、この時のあみのコーデ、見たことないんだけど」
「あ、あれ?自作のサイリウムコーデだよ。この世界では光らないけど」
「そんなのあるんだ」
「いくつか作ったのあるよ」
「へぇ、トゥインクルリボンサイリウムのカラバリ…というか、もう別物みたいなのもあるんだね」
「あ、これ可愛い」
「じゃ、久しぶりにこれ使って4人ライブしましょう」
「いいね」
「あみは凱旋ということであのドスケベコーデね」
「またアレを着るの?」
「自分で作ったんじゃないの?」
「そうだけど…」

 とはいえ、あみは、この4人のライブ、やっぱりこれがしっくりくるな、と感じていた。
 あと、ゆうき達もいれば最高なのかな…
 れみの夢の話のせいで、こんなこともつい思ってしまった。
 いつか、一緒に…


今回のライブシーン
   

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