第12章 夏休みを満喫してみた

「おーい、生きてる?」
 あみがテーブルにつっ伏したままのゆみに声をかけた。
「暑い…溶けそうだよぉ…」
「ここ毎日、観測史上最高の暑さってニュースで言ってるもんね」
「なんで毎日記録更新するのよ…このままじゃ、11月頃には焦熱地獄になるんじゃないの」
「いや、いくらなんでも秋になれば涼しくなるって」
「おーい!ユヅルさんからパシャステの小道具用に仕入れたスイカの余りを貰ってきましたよ!」
 れみがスイカを持ってきて、ようやくゆみが復活した。

「お、いいタイミングであったかな」
 まみが入ってきた。
「まさか、すごい嗅覚…」
「いや、スイカはたまたまだし。それより朗報!」
「どうしたの?」
「よく聞くのだ!期間限定の浴衣のトップスを手に入れたのである!」
「でかした、まみ!」
 今入荷中のピンクの浴衣はゲット済みで、期間限定の黄色が揃えば、2色の浴衣でライブしようと約束していたのだが、トップスがまだだった。
「でも、おかしいのだ」
「何が?」
「キラッとチャンスが発動したのにキラチケじゃなかったのだ」
「そういえば、SRでもキラッとチャンスができるようになったんだっけ」
「キラッとチャンスが体験できるのは嬉しいけど、ちょっとがっかりだね」
「そんなわけで、一度で出ず、つい、続けてお買い物をして…あれ?」
「どうした?」
「プリチケが一枚多いのである」
 どうやら、プリチケ排出口に前の人のプリチケが残っていて、一緒に持ってきてしまったようだ。
「どうしよう、返しにいかなきゃ…」
 まみが駆けだそうとすると、あみがその肩に手を置いた。
「ちょっとお待ち」
「へ?」
「そのプリチケ、見せてみて」
「うん」
 あみはプリチケを見て
「…これは、確か…」
 おもむろに3DSを取り出す。
「やっぱり…」
 なんと、あみの3DSに同じコのすれ違いトモチケがある。
「わたし、このコに向こうで会ってる!」
「じゃ、探して本人に渡そうか」
「確かに、我が行った時にはこの人はもう居なかったのだ」
 とりあえず、あみたちは落し物のプリチケをそっと鞄にしまった。
「さっそく浴衣ライブやりに行こうか」
「ライブしに行くと、落とし主さんに会う可能性もでてくるもんね」
「もしかしたら、探しに戻ってきてるかもしれないし、行ってみよう」

 落とし主には会えなかったけど、浴衣ライブはけっこう「いいね」が集まるライブになった。

 数日後。
「そういえば、いつかミラクル☆キラッツのりんかさんをゲストに呼びたいって言ってたのに、機会ないね」
「じゃ、直球で誘いに行ってみる?」
「いるとすればみらいさんのお店とかかな?」
「もしいなくても、カップケーキ食べたいし、行ってみようよ」
「あみ、目当てはそっちじゃないですよ」
「うぐぅ…れみってば厳しい…」

 幸い、みらいの店の前でミラクル☆キラッツの3人に出会った。
「あ、あみさん達!こんにちは」
「こんにちは。あれ?どこかへ行くんですか?」
「うん。今日きらパーであんなちゃんが一日応援大使でイルカショーとかに出るから、それを見がてら遊びに行くんですよ」
「きらパーって、よくCMやってる遊園地の?」
「そうだよ。一緒に行く?」
 えもが聞いてくる。
「楽しそう!行きます!」
 あみが速攻で答える。他の3人は悟ったような目であみを見ながら、
「まぁ、この流れなら…」
「他に選択肢はないのだ」
「ですね。でも、楽しそうだし、私も賛成です」
「じゃ、決定だね」
「あみ、カップケーキはまた今度だね」
「ぐむー、残念だけど仕方ないか」
「あ、お弁当代わりにカップケーキ、いっぱい持ってきてるよ。良かったら」
「みらいさん、ありがとう!あなたは女神です!」
「あの、あみさん…ハグが強いです…」
「あ、ごめんなさい、つい嬉しくて」
「ははは…」
「そうそう。りんかさん、プリチャンデビューしたんですよね」
「ええ」
「じゃ、今度わたしたちのチームのライブのゲストに来てくれますか?」
「いいの?じゃ、今度是非誘ってくださいね」
 あみはりんかとフォロチケを交換した。

 さて、きらパーのイルカショーのプールの客席。
「意外と席が空いてて良かったね」
「確か、やる気がないイルカがいて、人気がいまいちなんだって」

 実際、ステージでは額にクロワッサン形の模様のある太ったイルカがふて寝していて、あんなが必死になってショーをさせようとしていた。
 そして、イルカがあんなを振り払うと、あんなはプールに転落した。
「あっ、あぶない!」
 あんなは応援大使のマントが重いらしく、うまく泳げない。
「あんなさん、マジで溺れてない?」
「大丈夫かな?」
 その時、突然、ふて寝していたイルカがプールに飛び込み、あんなを救った。
 客席からは大きな拍手が起こった。

「あれって、体張った演出だったね」
「さすがはあんなさんだね」
 イルカショーを見終わって、7人はイルカプールを後にした。
「晩には花火があるみたいね」
「わぁ、夏休みも終わりだし、最後の花火かな」
「えっ…そういえば、夏休み、終わり…」
 会話の途中で急にえもの顔色が変わった。
「みらい、夏休みの宿題…」
「え?終わったよ」
 みらいは事も無げに答える。
「我は7月中にやってしまって、後は遊ぶ派である」
「あたしは毎日やるやつはちゃんとその日にする派だから、大きなのと今日のデイリーは終わったけど、明日のデイリーはしっかり残ってるかな」
 まみもゆみもさらっと流す。
「まだ全然できてない〜〜!」
 唯一、宿題のたまっていたえもは、宿題をするため泣く泣く先に帰った。
「花火、見たかったよー…」

「ところで、花火まで時間があるけどどうしよう」
「それなら、せっかくなので」
 りんかが提案する。
「えーっ!ビーチでライブ?」
 近くのビーチでライブができるらしい。
「せっかくあみさん達がライブに誘ってくれたから、善は急げで」
「でも、えもさんに悪いかな?」
「あ、ビーチは6人ライブだから」
 みらいが言う。みらいって、見た目は可愛くて大人しそうだけど、時々ドライだなぁ…
「そういえば、ゆみさんって、私達に勝った時の白いプリ☆チャンユニフォーム着たところ、あれから見てない気がするんだけど」
 みらいが急にゆみに話を振る。
「今にして思えば、あれは大金星の時に着たコーデだから、勿体無くてなかなか着てないかも…」
「大金星って、そこまで大袈裟な…」
「だって、みらいさんって、夏フェスであの「わーすた」の前座を務めたほどの超大物プリ☆チャンアイドルでしょ?」
「ははは…あれはある意味いきかがかりだけど」
「でも、みんなでいろんな色のプリ☆チャンユニフォームでやるのは面白いかも」
「確かに、基本に帰って」
「じゃ、ライブしよう!」

 ライブが終わった時、聞こえてきたのは花火…ではなく高らかな笑い声。
「あ、あんなさんだ」
「イルカショー、見ましたよ!」
「ほーっほっほっ、セレブリティーなショー、お楽しみいただけたかしら」
 そこで、あんなはあみ達に向き直る。
「あなた方、折角のビーチですのに、普段のステージで使うようなコーデのライブでは勿体ないですわ。そんなことだから、ワタクシ達に勝ったのがまぐれだと言われるのですわ!」
 …いや、まぐれとか言われたこともない、というか、大会の話すらほとんど出ない。
「ビーチ向けのコーデは無いんですの?」
「水着系コーデならあるかな」
「それでは、特別にワタクシたちが水着ライブに付き合って差し上げますわ!」
「ていうか、もう水着を着てるんですね」
「あ、RONIの水着だ!可愛い!」
「あ…あなたがたのデビューの時のブランドを着こなすことで、格の違いを…」
 どうやら、前の対戦のあと、あみ達の配信を見て研究していたらしい。

 そんな訳で、思いがけず2大アイドルユニットとビーチで競演した後、みんなで花火を見て、その日は終わった。

 そして、翌日。夏休み最終日。
「そういえば、えもさん、宿題終わったかな?」
「どうかな?」
 あみとまみがそんな話をしながら歩いていた時、目の前でライブを終えて解散しているチームがいて、あみはそのうちの一人を見て、おもむろに3DSを取り出して走り出した。
「あのー、すみません!」
「え、あ、はい…」
 あみに声をかけられたコはかなりびっくりした様子だった。あみは3DSのすれ違いトモチケを見せながら、
「あの、ほにまるさんですか…」
「はい…あっ、確か、あみさん…でしたっけ」
 ほにまるさんは自分の3DSを出した。なんと、あみのすれ違いトモチケがあった。
 確かにプリパラでは3DSで異世界の自分を呼び出せたし、異世界とのすれ違い通信もあるのかもしれない。
「ほにまるさん、この前、プリチケが足りなかったこと、ないですか?」
 あみの問いかけに、ようやく追いついたまみが鞄からプリチケを出す。
「この前、プリチケ連続購入して持ち帰ったら、これが混ざっていたんです」
「あ、これ、無くしたと思ってたプリチケ!ありがとうございます。助かりました!」
 ほにまるさんはそのプリチケのフォロチケをパキる。
「でしたら、これをどうぞ」
 あみが自分のフォロチケを取り出して交換した。
「ところで、わたし達、これからライブしますけど、良かったらゲストに来てくれますか」
「いいですよ。やりましょう」
 まみはそれを聞いて、ライブの予定あったっけ?と思いつつ、あみの事だから、きっと今予定を咄嗟に入れたのかな、と納得して、コーデの用意を始めた。

 ライブが終わった帰り道。
「えもさんがどうなったかは判らないけど、我等の宿題は無事終わったのである」
「あ、落し物のプリチケを届けるって事?確かに宿題終えた気分だね」
   まみとあみは顔を見合わせて笑った。

 こうして、夏休みは終わったのだった。


今回のライブシーン
    
前へ表紙へ次へ