第8章 まみ、がんばってみた

 ライブが終わった。
「おつかれ」
「おつかれ」
「さすがに、色を揃えただけのプリパラミックスコーデじゃそれほど「いいね」も集まらないか…」
「でも、最近、我らのチャンネルのランクも上がってきてはいるのだが」
「でも、ちょっとあみに頼りすぎてるかも」
「確かに、経験豊富なのでつい頼っているな…我らももっと頑張らねば」

 そんな話をしながら、二人はみらいの実家のスイーツショップに寄り、カップケーキを注文した。
「いらっしゃい。あ、ゆみちゃんとまみちゃん!」
「こんにちは」
「あれ?何か悩み事?」
「そう見える?」
「なんとなくだけど…」
「実は、我らのチームは、あみに頼りすぎなのである。我らも頑張りたいのである」
「そっか。でも、二人にもキラッといいところ、あると思うよ」
「そうかなぁ…」
「あるある。だって、大会では私とえもちゃんは二人に勝てなかったんだよ」
「あたしたちのいいところって何だろう?」
「うーん、やりたいことを楽しんでる感じ、とか…二人は確か、プリパラのコスプレ動画上げてたよね」
「確かに」
「あれ、作品への愛がこもってて、キラッとしてたと思うよ」
「本当?」
「うん。だから、らぁらやゆいのコスプレとか、また見たいかも」
「その二人なら、アボカド学園制服とかかな…」
「あの制服可愛いから好き!」
「だけど、コーデ持ってないぞ」
 まみが言ったその時、
「話は聞きましたわ。この赤木あんな、赤木あんなが力を貸しましょう!」
 突然、背後にメルティックスターの二人が現れた。
「アボカド学園制服、ワタクシが3人分用意して差し上げますわ。そして、明日、ライブするのですわ」
「えっ?いいんですか?」
「ワタクシ、エーゲ海の泥で団子を作ったこともございますのよ。その位、たやすい事ですわ」
 まぁ、泥団子はともかく赤木財閥の力なら造作もないだろう。
「ありがとうございます!あ、でも3人?」
「ワタクシも参加して差し上げますわ」
「ええーっ!あんなさん、競演してくれるんですか?」
「さらさんは…」
「僕は遠慮しておくよ。手伝いはさせてもらうけどね」
 確かに、さらさんのイメージと女子小学生のコスプレはイメージ違うか…

 その頃、あみとれみは店長のお使いで隣町にいた。そして、仕事を終えて帰路につこうとしていた。
「店長、本当に人使い荒いですよね」
「わたしなんて、昨日から連続5日のシフトだし」
「きついですね。私も明日は連チャンです」
「そういえば、れみのですます調、定着してきたね」
「そうですか…って、あ、ホントですね」
「ははは、完全に定着だね。…あ、あそこ!」
 あみが指差した先にはプリ☆チャンの配信所だった。ただ、ここは小規模で、フォロチケ交換所は無いようだ。
「あみ、これ見てください」
 配信端末の色々な隙間にフォロチケが挟まっている。数枚の殆どは同じ二人のものだった。
「交換所がないから、自主的にこうしてやってるのかな」
「この、おしゃれな眼帯のコのフォロチケがほとんどで、こっちのコのが数枚。あとはバラバラで3人ですね」
「眼帯のコと、もしかしたらこのコくらいがいっぱい置いて、この3人は交換したコかな」
「私たちも置いてみますか」
「だね。折角だから、眼帯のコが次来るまで残るよう、複数置きしてる二人のものをわたし達の各3枚ずつと交換しようか」
「いいですね。眼帯のコ達にわたるといいですけど」
「こうして、出先にフォロチケ置くのも、なんか面白いね」

 しばらくして、お互い寄りたいところがあるので、あみとれみはバラバラのルートで帰路についた。
 あみが歩いていると、さらが歩いていた。
「あ、さらさん。こんにちは」
「やぁ、こんにちは。さっきまでまみ君達と会ってたんだよ」
「え?どうしたんですか?」
「明日、あんなと3人でライブをすることになってね」
「え?一体どんないきさつで?」
 さらは大まかに説明した。
「まぁ、あんなも面白そうだと思って、自分から話に乗ったんだけどね」
「へぇ。楽しそう。わたしは明日は仕事だわ…残念」
「で、僕は最初の導入くらいを手伝おうという話になったんだけど、何を言おうかなと考えていたところさ」
「なるほど。例えば、『今日は我がメルティックスターの赤木あんなが参入して、ゆみ君まみ君といつも以上に楽しいライブを見せてくれる。メルティックスターとしてはちと癪だが面白いぞ』みたいなやつですかね」
「ははは、それ面白いね。参考にさせてもらおうかな」
「これ、仮面ライダーの予告編の石ノ森章太郎監督回のやつで、『次回は石森章太郎先生がいつも以上にかっこいい仮面ライダーを見せてくれる。ゲルショッカーとしてはちと癪だが面白いぞ』って悪の幹部が言うやつがあるんですよ」

 あみは話しながら思う。そういえば、最近、まみとあまりライブしてないなぁ…

 一方、こちらはれみ。れみはまみに会った。
「あれ、どうしたんですか?なんだか元気ないですけど」
「最近、あみに頼りすぎなので、自分でもレベルアップして、チャンネルに貢献したいけど、なかなかやりたいライブもこなせないのである」
「あみのバイタリティはすごいですからね」
「明日、ライブするのであるが、あんなさんが助けてくれるのだ。自分の力じゃないのである」
「私だって、自分だけじゃ無理なこと、いっぱいありますよ。そうだ。いいこと思いつきました。一緒にライブしましょう」
「今からであるか?」
「明日への予行演習です。まみの夢を叶えるライブをしましょう」
「えっ、そのコーデは…?」
 れみが持っていたのはあろまとみかんのサイリウムコーデだった。
「私がみかんちゃんの役をやります。まみは憧れになりきってください」
「れみ…」

 まみは自分の夢でもあったアロマゲドンのコスプレライブをした。嬉しかった。楽しかった。でも、少し心に引っかかるものがあった。
 これも、れみがお膳立てしてくれたことだ。自分の力じゃない…

 翌日、あんなとのライブは話題性もすごく、大成功だった。でも、やはりまみは自分の力じゃないことが少し引っかかっていた。

 次の日、まみはついに一人でスタジオに入った。今日はプリパラでゆいが多用していたコーデの色違いだ。コスプレと言いつつ、自分に合いそうな色を選んだ。

 そして、ライブは成功した。やっと、自分もあみの足を引っ張らなくなれるかな…と思っていたら、目の前にあみがいた。
「あみ…」
「ねぇ、まみ」
「何?」

「わたし、まみに何か悪いことした?」 「え?なんで?」
「だって、最近全然ライブに誘ってくれないし」
「え?いや、その」
「淋しいよ…」
「あの、だから、あみに負担かけ過ぎてるから、自分もレベルアップしようとしてただけで…」
「…」
「汝のプリスタを見るのである…」
 まみに言われてあみは自分のプリスタグラムを見る。
「まみからの超いいねがこんなにたくさん…」
「怒ってたり嫌ってたりするコにそんな事しないのだ…」
 まみがそこまで言うと、あみはまみに抱きついた。
「良かった…嫌われたんじゃないんだね」
「ごめんね…何も泣かなくても…」
「じゃ、次のライブ、一緒にやろうね」
「うん…」
「なんか、乃木阪46の『インフルエンサー』歌ってみたライブが出来るみたいだから、4人でやりたかったんだ」
「4人でやろうね。約束だよ」

 今回のことで、結果として、チームの絆は強くなったのかもしれない。


今回のライブシーン
    
前へ表紙へ次へ