第7章 MARsのコーデをゲットしてみた

「ねぇ、これ見ました?」
 れみが珍しく興奮気味に部屋に入ってきた。
「多分、見てない。何?」
 あみが答える。
「新チャンネルライブ『オールフレンズチャンネル』で配信してMARsの着ていたコーデをゲットしよう」
「MARsって、この世界ではあいらさんが昔いたユニットなんですって!」
「セインツじゃなくて?」
「あいらさんと、あと、みおんさん、りずむさんって人でプリズムショーやってたんですよ」
「そういえば、みあさんがPrizmmy☆って4人組のユニットやってる世界もあったわ」
「MARsのプリズムショー、動画サイトで見たけど、すごくかっこいいですよ!」
「そうなの?わたしも見たい!」

 二人がプリズムショーを見ていると、ゆみたちがやってきた。
「あ、MARs?懐かしい!あたしもずっとテレビで中継見てたよ」
「センターのあいら、今ではデザイナーズ7の一角をになうデザイナーであるが」
「まみ、デザイナーズ7って何?」
「汝らの世界には居なかったのであるな」
「あみたちも7大ブランドは知ってるよね」
 ゆみが解説に入る。
「シークレットアリスとかロマンスビートとかですよね」
 れみが答える。クール系のブランドばかり挙げてるな…
「うん。そのブランドのデザイナーの人たちだよ。例えば、れみが挙げたシークレットアリスはトランプモチーフのものがあるよね」
「あれって、アメリカの大統領への忖度だよね」
「確かに…大統領の名前はドナルド=トランプさんだけど、絶対違うと思う。名前のとおり、不思議の国のアリスのトランプ兵士とかだよ」
 あみのボケにまみが真面目にツッコむ。あろま語を忘れるくらい、速攻のツッコミだった。
「実際は、シークレットアリスのデザイナーの一色カレンさんは手品師のレーンさんとしても有名な人だから、トランプに親しみがあったんじゃないかって噂もあるんだけど」
「へぇ。他はどんな人たちなんだろうね」
「向こうはあたし達のことは知っているけどね」
「え?なんで?」
「キラッとチャンスの時、ミラーボールの周りに7つの小窓があったでしょ?」
「うん。何かなって思ったんだけど」
「あれは、デザイナーズ7の先生方のアトリエに繋がっているから、デザイナーさんたちはどんなコがライブしてるか見ることができるんだよ」
「じゃ、あの人影、デザイナーさんが見てくれてたんだ」
「ということは、ちゃんと着こなしていないとダメなのかな」
 ゆみが心配そうに言うと、
「案外、何かインスピレーションを求めてるのかも」
 まみが答える。
「多分、そっちだと思います」
 結構自信ありげにれみが相槌を打つ。
「れみ、なんか言い切ってる感じだね」
「あみの時は私服。ゆみの時も気に入ったコーデで楽しくやってた時にキラッとチャンスが来ましたよね」
「確かに」
「私の時は確かにフルコーデでしたけど、みんなでネタを考えた時だったから、楽しく配信してたらいいんだと思いますよ」
「なんか、どこかで聞いたことがあるような話だなぁ…」
「昔話の『天の岩戸』だっけ?」
「あ、それそれ。民衆が楽しく踊って天照大神を岩戸の中からおびき出すやつ」
「というわけで」
 いきなりれみが話を戻す。
「今度の『オールフレンズチャンネル』での配信ネタを決めたいと思います」
「そこに話、戻るんだ」
「楽しく、自分らしいおしゃれかぁ…」
「おしゃれなあの娘真似するより、自分らしさが一番でしょ、だね」
「そういえば、みんな、会員証って最初作ったままであるな」
 突然まみが話題をふる。
「なんでその話?」
「さっきそこでポスター見たのであるが、好きなコーデで会員証作り直せるらしいぞ」
「だから、あみが作ったマイドレスで全員お気に入りのものを選んで会員証を更新し、ライブするのだ」
「なるほどね」
「実は、我が会員証は途中でシステムエラーが起きて、名前が他の人の名前なのだ」
 まみが示した会員証には「くみ」と書かれている。
「わっ、わたしの姉と同じ名前!」
「本当か?お姉さんの導きで我らは出合ったのかもしれぬ」
「じゃ、わたしがお姉ちゃんに作ったマイドレス見てみる?」
 あみは、黒ベースのマイドレスをまみに見せた。なんとなく、まみには似合う気がした。
「気に入ったぁ!」
「じゃ、まみはこれで」
「私はこれにしますね」
 れみはイチゴ柄の入ったマイドレスを選んだ。
「これって、映画のエキストラに応募したときのやつだよね」
「実は、一次先行受かって、ランウェイ歩いてみたんです。採用されるかどうかはわからないですけどね」
「えーっ、わたし、聞いてない…ってか、わたしは落選かぁ…」
「配信の帰りにクレープ食べながら自慢するつもりが、この世界に来ちゃいましたからね」
「映画が公開されるまでに、元の世界に帰らないとね」
「ところで…」
 ゆみが口をはさむ。
「あたし、これ借りていい?このコーデ、かわいいし」
「もちろん」
「あみはどうするの?」
「わたしはパラジュクのランウェイで着た、このコーデにするね」
「をを、伝説のコーデを生で見れるとは!」
「しかも、一緒にライブである」
「ゆみもまみも大袈裟だってば」

 とりあえず、新しい、特にまみにとってはやっとまともな会員証を作ってライブ配信をした。
「さぁ、誰のコーデになるかな」
「水色ベースってことは、りずむさんのコーデだね」
「りずむさんといえば、アマチュア時代からアイドルユニットのミニスカートと競演したこともあるプリズムショーの実力者」
「まぁ、3人の誰をとってもレジェンド級ですけどね」

 次の日。
「さて、3人のコーデを揃えるにはまだまだライブしなくちゃ」
「それなら、こんなのはどうかな」
 あみが紙を持ってきて4等分する。そして『センター』『トップス』『ボトムス』『シューズ』と書いて小さく畳む。
「何であるか?これは」
「くじだよ。くじを引いて、センターを決めて、各自が「えもい」と思うミックスコーデでいきなり登場するの」
「なるほどね。で、トップスとか書いてあるのは?」
「それは罰ゲーム。センター以外は書かれてある部分はコーデを使ってはいけません」
 あみの説明に、れみが血相を変えて反論する。
「えっ、ちょっと厳しいですよ、それ、この季節、裸足だと熱いし、万一トップスなんて引いたら、胸はどう隠すんですか?」
「誰が裸になれって言ってるのよ!レッスン着のままってこと!うちのチャンネルを放送禁止にする気かっ!」
「ははは、わかってますって。冗談冗談」
 笑うれみと膨れるあみを見て、まみが言う。
「れみがお色気担当って言われてるの、わかる気がする」

 とりあえず、4人はくじを引いた。
「我はシューズを引いたのである。トップスとボトムスを選べばよいか」
「そうなるね。あ、あたし当たりだ!」
 ゆみはセンターを引いた。
「私はボトムスを引いたから、あみがトップスですね」
「そのようだね」

 意外なことに、このミックスコーデ、結構面白かったようで、「いいね」も多く集まった。
「さて、次は誰のコーデかな」
「ピンクがベース…あいらさんのコーデです!」
 れみが飛び上がって喜ぶ。そういえば、セインツなりきりライブでもあいらさんをやりたがってたっけ。
「やった…これで心置きなく店長のお使いに行けます…」
「れみ…仕事中だったんかい!」
 思わず全員がツッコミを入れる。
「ははは。サーセン、サーセン!」
 れみはユヅルさんの真似をしながら去っていった。

 3人はれみを見送った後、お茶にでも行こうかと歩き始めた。
「どうしようか。みらいさんの店でカップケーキでも買おうか」
「実は我は先刻ここに来る前にお菓子を買ってしまったのである」
 まみは鞄からハート型のピンク色のグミを取り出した。
「わぁ、綺麗でおいしそう!」
 あみが目をキラキラさせてグミを見る。
「ちょうど2コずつのパックが3つあるから、一緒に食べよう」
「いいの?ありがとう!」
「実は、このグミ、プリチケが一枚付いているのである」
「そうなの?」
「あたしもこの前買ったよ。ダンシングマーチコーデの色違いのダンシングマーチグリーンコーデのヘアアクセだったよ」
「え?ダンシングコーデにアクセあった?見たことない!」
「ヘアアクセはグミオリジナルみたいよ」
「我はピーチソーダコーデは揃ったが、これにもオリジナルのアクセがあったぞ」
「そうなんだ」
「で、今回の目玉はこの「わんわんポリスコーデ」なのだが、ピンクとブルーがあって、全身揃ったものの、トップスはブルー、ボトムスがピンクだったのだ」
「ふむふむ」
「で、今日買い足したのがこの3つ。今開封したのが、あ、グリーンコーデのシューズ!」
「持ってなかったやつ?」
「うん。トップスとボトムスだけだったから」
「じゃ、あたしのと足せば揃ったね」
「じゃ、残り2つも開けようよ。わんわんポリスが出るといいけど」
「ああ、神様…いや、あろま様かな?とにかく出てー!」
「どうだった?」
「やった!わんわんポリスのブルーのボトムスだ!」
「じゃ、残りの一つがピンクのトップスだったらいいのにね」
「でも、ピンクはシークレットだからなかなか出ないって話だから…あ、ピーチソーダコーデのトップスだ…」
「でも、シークレット以外は揃ったね」
「じゃ、ちょうど3人で3コーデだし、今からライブやる?」
「確かに、ここまできたら、みおんさんのコーデもゲットしたいよね」
「よし、じゃ、さっそくやろう」
「また3人でやったら、れみ怒るかな…」
「みおんさんのコーデがあれば、次回はMARsライブはれみがセンターの3人になるだろうし」
「キャリア的にはベテランのみおん枠はあみだね」
「では、今回センターの我はその時はお休みということでよいか?」
「そうじゃなくてもだよね。まみ、明日補習引っかかったって言ってたよね」
「わわぁっ!暴露するなー!呪って…いや、祝ってやるー!」

 結局、グミのコーデでライブしてみおんさんのコーデをゲットし、まみの補習中にれみがあいら、あみがみおん、ゆみがりずむのコーデでライブしたのだった。
 

今回のライブシーン
     
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