第6章 スペシャル大会に出場してみた
「いよいよ本戦出場チャンネルの発表だね」
「大丈夫かな…ドキドキする」
「そういえば、優勝したら何か貰えるのかな?」
「白鳥アンジュさんが着たという白いプリ☆チャンユニフォームの復刻版が貰えるみたいですよ」
「なんとなく着てみたくなるね、そういうの」
発表はプリズムストーンの公式サイトで発表される。
順位に従って割り振ってトーナメント表が埋まっていくという寸法だ。
「1位はメルティックスター。ダントツだね」
そして、2位はミラクル☆キラッツ、3位はさら、4位はみらいだった。
「なんか、シード枠はこの2チームのメンバーばかりだね」
「それだけじゃないよ。5位があんなさん、6位はえもさんだから上位半分がこの2チームだね」
そして、どんどん出場者が決まっていく。10位までが発表された。
「わたしたちの自己ベストのままだと次だよね」
「だね」
しかし、無常にも、出てきたのは眼鏡の3人組「出たとこ勝負」だった。
「あ、いろいろ研究してやってる人たちだね」
「抜かれちゃったか…」
「でも、まだ1枠あるよ」
「大丈夫かな…」
「あっ!」
あみたちのチームは12位でなんとか本戦出場を果たした。
「やったー!」
4人は飛び上がって、ハグしあって、大騒ぎだ。
「でも、まだですよ」
急にれみが真顔になる。
「これから、全てが格上のチャンネルとの勝負なんですよ」
「そうか、そうだね。これからが本番だもんね。なんか、優勝したみたいなテンションになってたけど」
「えっと、順位でトーナメントの組み合わせも決まるんだよね」
「わたしたちの最初の相手は…げっ!いきなりえもさんだ!」
「あちゃ…いきなり強敵だね」
「えもさんの評価は・・・なになに」
れみがスマホで下馬評の書かれたサイトを見る。
「ライブの実力はかなりのもの」
「確かに。プリパラだとそふぃさんと同等以上だと思う」
「ポンポンスカイハイドリームのパフォーマンスでは「いいね」増加の瞬間件数で記録を保持ですかぁ…」
「あれだけ可愛いコがへそ出しのチアコーデで健康的な色気を振りまいて跳ぶんだからね」
「でも、それでもベスト4じゃないんだ…」
「やっぱり、男性票に偏ってるのかな」
「そっか。それなら、女性にもウケるパフォーマンスで勝機を見出すしかないね」
「それなら、先鋒はれみにしよう」
「え?私?」
「いきなり初戦敗退しないためにも、場数を踏んだわたし達のどちらかが出たほうがいいと思う。そして、れみはうちのお色気担当だし」
「だから、なんで勝手にお色気担当…」
「確かに、小説でもハートのカラコン入れた瞳で見つめることで、サキュバスのように男を虜にするって書いてあったね」
「もぅ!誰ですか、そんな脚色したのは!」
「まぁ、冗談はさておき、あんなさんがあみやれみはえもさんに対抗し得る実力だって認めてくれたんだよね」
「あ、そういえば言ってたね」
「いずれにしても、先鋒れみは決定でいいよね」
そして、いよいよ1回戦。
決勝トーナメントのルールは、それぞれが課題曲で踊る。それを2画面で同時配信し、より多くの「いいね」を集めたほうが勝ちとなる。
すでにあんなが圧勝で2回戦に進み、れみ対えもは2番目だった。
課題曲は「スキスキセンサー」だ。ソロライブなので、れみが一人で出る。
えもはチアコーデだが、れみは赤のチェックが可愛いダンシングマーチコーデだ。
最初は知名度やコーデの差か、えもの「いいね」の方が多い。
「いっちゃうよ〜♪」
えもは余裕だ。
「さすがですね…でも、私だって!」
もの珍しさもあって、れみにも「いいね」が入り始める。そして、ポンポンスカイドリームだ。
色気だけじゃなく、レアリティNのコーデでも可愛く決めることが出来る、というれみのパフォーマンスに「いいね」が集まる。
えもの顔から余裕が消える。
「こんなのえもくな〜い!」
結果はれみの勝利だった。
「うう…くやしい〜!つぎの2回戦でも、えもいライブ、みせてよね!」
試合が終わればノーサイド。れみとえもは握手を交わした。
「やったね、れみ!」
控え室に戻ったれみにゆみがスポーツドリンクを渡す。
「ありがとう」
「さて、次は2回戦。シード枠はみらいさんだね」
「相手全部が格上だから仕方ないとはいえ、強敵続きだね」
「みらいさんは他のメンバーと違って、チャンネルのマスコットのデザインとか、芸術的センスが売りだけど、プリ☆チャンアイドルとしてはこれといった特徴がないのが特徴みたい」
「ただ、ひたむきに頑張る姿がフォロワーの心を掴んでいるとのこと」
「ならば、次は我が出ることでよいか?」
まみが言う。
「確かに、あたしたちの中では一番個性的だし、一直線な性格だし」
ゆみもまみを推す。
課題曲は「ワンツー・スウィーツ」だ。
「でも、みらいさんはステージに合わせてPRのフラワーショップコーデだろうけど」
「我はNだけどこのコーデが好きなのでこれでいくのである」
まぁ、確かにフルレースラベンダーコーデ、似合ってはいる。
まず、2回戦の最初はあんな対メルティックスターとなり、同一人物の対戦になるため、あんなは棄権。
その次はミラクル☆キラッツが準決勝進出を決める。そして、ついにまみ対みらいだ。
1回戦同様、みらいのほうが最初は「いいね」が多い。
「キラッといくよ!」
しかし、本当の新人がNコーデで奮闘する同情票なのか、少しずつまみにも「いいね」が入っていく。
そして、まみはニーソックスとミニスカートの間のいわゆる「絶対領域」を時折強調している。さすがは小悪魔キャラ。
「まけないもん!」
みらいも本気を出す。だが、連続ライブの疲労か、力を出し切れない。結局、接戦の末、本当の僅差でまみが勝った。
「ガクメキ…くやしいけど、つぎの3回戦もがんばって!」
いよいよ3回戦。準決勝だ。
「次はミラクル☆キラッツと対戦…って、ずっとこの二人との対戦だね」
「向こうはメルティックスターとさらさんになるから、また試合なしでメルティックスターが決勝進出みたいよ」
「なんか、バランスの悪いトーナメントだね…」
さて、課題曲は「レディ・アクション」だ。
「あみ、れみは決勝の切り札だから、あたしとまみが出ようか」
ゆみが言う。
そう、この時4人は、2連勝でミラクル☆キラッツとの実力差を忘れていた。
二人はそれぞれ、お気に入りのコーデで統一性もないコンビで出場した。一方、ミラクル☆キラッツはプリ☆チャンユニフォームで統一してきていた。
コーデもバラバラで、実力も格下なので、どんどん差が開いていく。
「いっけー!」
「いっけー!」
みらいとえもは勢い付いていく。
ただ、ゆみとまみは勝負を気にせず、ただただ楽しんでライブしている。そういう意味では、らしいといえばらしいかも。
「なんか、あのミラクル☆キラッツが無難なチームに見えてきた」
「あそこまで自分たちが楽しむチーム…なんかいいかも」
なんと、少しずつゆみたちが追い上げる。
「えもちゃん…」
「まだだいじょうぶ!」
ミラクル☆キラッツにも焦りの色が見える。
そして、課題曲が終わった。ゆみたちも、さすがに逆転は無理だった。
「さすがに、ここまでか…」
誰もがそう思った時、天井からキラキラとボタンがゆみの前に降りてくる。
「キラッとボタン・・・なんで?」
とりあえず、ゆみがボタンを押す。
あたりが一瞬暗転し、ミラーボールが降りてくる。
ゆみのコーデがキラッとコーデに…変わらない。そのかわり…
「あれは…?」
「どういうこと?」
ゆみは今回の賞品のはずの白いプリ☆チャンユニフォームを着ていた。
そして、そのままステージがはじまる。
「何これ?」
「すごい!」
追加の「いいね」が加算されていく。
そして、気が付くと、ゆみたちのいいねがミラクル☆キラッツをわずかに超えている!逆転だ!
「うぅ、えもちゃん…」
「くやし〜い!さいごの決勝戦でまけたらしょうちしないんだから〜!」
わけの判らないまま勝利して、控え室も戻ろうとした時、ゆみは銀髪を何本もロールにした、すごい髪型の女性とすれ違った。
「決勝進出おめでとう」
その女性が微笑みながら言ってくれる。
「ありがとうございます。でも、いきなりキラッとボタンが出て…」
「それはきっと、あなたがこの世界のプリズムの煌きの中心にいるから。そして、あなたのそばにもう一つ…」
女性は判じ物めいたよく判らない事を言っている。
「しかし、絶妙のバランスで世界は安定したまま。面白いから、暫くはこのままで…」
「あの、あなたは一体…?」
「私はジュネ…また会うこともあるでしょう」
名乗ると同時に、ジュネは去っていった。
「ただいま」
「おつかれー」
控え室に入ったゆみ達にあみがスポーツドリンクを渡す。
「でも、キラッとチャンスが来てよかったですね」
「あれがないと、あみは出番なしだったもんね」
「でも、なぜあんなことが起きたのかな?」
「楽しそうにライブしてたから、オマケしてくれたのかもね」
れみが答えると、ゆみが、
「そういえば、さっき変な髪形の人があたしがプリズムの煌きの中心にいるって言ってたよ」
「りんねさんみたいな事言う人だね」
「あ、どっかで聞いたと思ったら、小説の中のりんねさんの台詞だわ、それ」
「でも、りんねさんは変な髪型じゃないし、小説読んだ人だったのかな」
そんな話をしていると、3位決定戦の中継が入った。
「あ、さらさんとみらいさん達の対決だね」
「でも、さらさんしか居ないよ?」
そこでニュース速報が入った。
待ち時間に倉庫で最後の練習をしていたみらいが、積んでいた箱の下敷きになったとのことだった。
とりあえず、さらが不戦勝で3位になったようだった。
「大変!」
あみたちはミラクル☆キラッツの控え室に走った。
控え室にはえも、りんか、みらい本人もいた。
「あ、みらいさん、大丈夫?」
「心配かけてごめんね。大丈夫。練習してたら、外から倉庫の扉に鍵かけられちゃって」
「へぇ、そんなことがあったんだ…」
「それで、天井の通風孔から脱出しようとそのへんにあった箱に上ったらくずれちゃって」
「怪我とか大丈夫?」
「幸い、空箱ばかりだったから」
「そういえば、プリ☆チャンキャストで外に電話できなかったの?」
「ガクメキ…それ、さっきから会う人全員につっこまれてる…」
「まぁ、人は焦ると基本を忘れることもあるのである」
まみがフォローする。
「うぅ、ありがとう。あ、せっかくだから、みんなもこれ食べていってね」
みらいは菓子折を出した。中にはミラクル☆キラッツのマスコットのキラッチュの形をしたカップケーキが入っていた。
「いいの?ありがとう!」
「でも、かわいくて食べるの勿体無いなぁ…」
あみたちは大喜びだ。
「みらいの家は洋菓子屋さんだから、そこの目玉商品なんだよ」
えもが解説する。
「だから、これで力を付けて、あたしたちの代わりに赤木あんなをギャフンといわせてね」
そういえば、あんなとえもは仲が悪かったんだっけ。
そして、いよいよ決勝。対戦相手はメルティックスターだ。
「いよいよだね」
あみが言う。
「確かに。誰かが負けたら、あみは出ずじまいになるところだったもんね」
「満を持して。わたしとれみで挑んでくるね」
課題曲に合わせて、コーデを選び、いざ、ステージへ。
「まさか、本当にここまで上がってくるとは、さすがですわね」
メルティックスターはお揃いのコーデだけど、ボトムスにアレンジがしてある。
「あれって、レオナさんたちのツインギンガムコーデみたいなやつかな」
「確かにね。でも、わたし達は自分のライブをやりきるのみだよ」
ライブが始まった。さらのエアギターは超絶で、緑色のギターが見えるようだ。
「そんなものですの?」
「まだまだだね」
さすがに「いいね」の数がすごい。
「わたしだって!」
あみも精神を集中させる。
「ここでギターを弾く感じで…」
あみのエアギターでも緑色のギターが現れた。
さらはあんなのコーデに合わせているけど、あみはギターが似合うロックなコーデだ。エアギターを出したことで、一気に「いいね」が増える。
「さすがだね」
「まあまあですわね…」
双方、かなりの「いいね」が集まっている。かなりの接戦だ。
そこで、秘密兵器発動。れみが可愛いコーデで魅了する。クールとラブリーの絶妙のバランスでライブすることで、知名度の差をつめるしかない。
プリパラではあみがラブリー、れみがクールの組み合わせをよくやったけど、あえてそこは逆にしてみた。そのほうがアピール力があるだろうから。
双方、かなりの「いいね」が集まる。差は殆ど無い。
そして、最後の「やってみた」では、さらがラブリーコーデで決めるのも、あみがやるのもどちらも新鮮だ。しかし、知名度の低いあみのほうがイメージの固定化がない分、「いいね」を多く集めることができた。
勝負はついた。あみたちの勝利だ。
「ワ、ワタクシに勝つとは、なかなかやりますわね…」
「優勝おめでとう。さすがだね」
「ありがとう。すごくいい勝負だったね」
そして、表彰式。チーム代表であみが表彰台の中央に。2位には代表であんなが、3位にはソロでさらが立った。
うれしそうにトロフィーを掲げるあみを見ながら話をしている二人がいた。片方はゆみに会い、ジュネと名乗ったすごい髪型の人だった。
「ジュネ、あのコたちを煽ってどうするつもり?」
「この世界のプリズムの煌きはまだまだ小さい。しかし、二つの煌きが共鳴したらどうなるかしら」
「あなたはかつて、一つの世界を壊しかけた。手放しには賛同できない」
「りんね、あなたは本当に真面目なコね。でも、今はうまくいっているのよ」
「確かにそうね。わかった。もうしばらくは様子をみましょう」
「ええ、きっと素敵な…いえ、この世界での言葉を借りるなら、とっても「えもい」ことになるわ…」
「そうだといいけれど」
二人は踵を返し、別々の方へ去っていった。
今回のライブシーン
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