第2章 出会ってみた

 大学の学食。あみはいつもの日替わりランチの食券を買おうと並びかけたが、今日はなんとなく、別のものが食べたいと思い、ファストフードブースへ向かった。
 ここでモダン焼きを注文する。スーパーで天ぷらとかを入れるような透明のパックに具の殆ど入っていない焼きそばが入っており、その上に薄いお好み焼きが二つ折りで入っている。
 これにソース、マヨネーズ、青海苔をかけて蓋をし、輪ゴムで止めたものに、ストロー付きの紙コップに入ったコーラが付いている。
 この、スタジアムの客席で食べるような昼食をテーブルで食べていたら、向かいの席に同じものをトレーに載せたコが座った。れみだった。
「あ、れみ!れみもモダン焼きなんだ」
「お好み焼き屋さんのものとは別物だけど、結構おいしいんだよね、これ」
「先週の居酒屋の粉物もおいしかったけど、あの時は寂しさでちょっと感じる味はね…」
「確かにね」
 先週、あみたちは居酒屋でプリパラ仲間の送別会をしたのだった。
 チームメイトのさなえは大学が遠くて下宿、みぃはダンスの実力を認められ、短期留学となったのだった。
「二人一度に送るのは淋しかったね」
「そういえば、ダンスで韓国ってのは珍しいよね」
「だって、スカウトにきたのが元ピュリティの人だもん」
 そう。韓流ブームの頃来日してブレイクした韓国の5人組ユニットのメンバーだった人が、みぃのダンスを見てわざわざ来日して誘ってくれたのだった。
「そういえば、今日暇かって聞いてたけど何?任天堂スイッチでも買いに行くの?」
 任天堂スイッチというゲーム機で、先日プリパラのゲームが出た。せめて、ゲームでもプリパラ気分を味わえるというわけだ。
「ちょっと考えて、つもり貯金で資金確保しようとしたけど、新作のお菓子とかに消えちゃって、それはもう諦めたよ」
「あみらしいというか…」
「で、代わりといっちゃなんだけど、ネットの配信スタジオ、どんなものか見るだけみてみたいなと思って」
「はは、あみがいつソレを言い出すかゆうきと賭けてたんだけど流れたんだよね」
「え?」
「ゆうきは3日、私は10日に賭けたんだけど、もう半月過ぎたしね」

 そんなわけで、あみとれみは配信スタジオに向かった。

 二人は配信スタジオに来た。
「先月までは、ここにプリパラがあったんだよね」
「変わっちゃったね。ここも」
「まぁ、あそこの高校のグラウンドだってそうだったけどね」
「あ、あのヒーロー養成やってるところの事?」
「昔はあそこに「武器神」になってドラゴンとかを退治するアミューズメントがあったんだ」

 そんな話をしながら、スタジオに入ってみた。
 一見、殺風景なスタジオだったが、ホログラメーションで背景も出せるっぽい。
「あ、あそこで会員証を作るみたいね」
 二人は顔を見合わせた。
「とりあえず、100円で作れるみたいだし、作ってみる?」
「ま、ここへ来て、他の選択肢はないような気もするけど」

 二人は会員証を作った。そこで、他の人のチャンネルのフォロワーになるためのフォロチケを貰った。
 プロモーション用のもので、清楚なワンピースを着たピンク髪のコが写っている。
「CM用の人かな?」
 二人はそんな話をしながらスタジオに来た。そして、背景と曲を選んだ。
「どんな舞台になるかな?」

 突然、周りの景色が変わり始めた…と思ったら、空に四角い何かがいくつか現れた。
「これって…?」
「画質の悪い動画のブロックノイズみたいね」
 途端に周りが真っ暗になった。
「きゃっ!何、何?」

 * * *

「何であるか?これは」
 まみはプリ☆チャンの配信を開始しようとした途端の出来事にこう言うしかなかった。
 彼女がオンエアーのキューの台詞を言おうとしたら、いきなり目の前が真っ暗になったのだ。
「あ、あそこに何かあるよ」
 ゆみが気付いた。正面に赤い正方形のものが浮かんでいる。
「何であるか?これは」
 まみは先ほどの台詞をつい繰り返してしまった。
「何だろうね、これ?」
 ゆみも同じリアクションだ。
「あ、よく見ると何か書いてあるよ。どれどれ。えーと『システムエラー』だって」
「えっ、どうしよう?あたしたち何も変な事してないよね?」
「とりあえず、スタッフさんを呼ばなきゃ」
「でも、暗くてよく見えないね」
「あっ、人がいるみたい!」
 二人は声を揃えて、
「すみませーん!」

「・・・あれ?」

 なんとなく、声が重なったような気がする。

 その時、ようやく、明かりが戻った。

 * * *

「…えっと…何がどうなったんでしょうね?」
 二人と二人が向き合っていた。
 片方はあみとれみ。もう片方はゆみとまみ。
「ところで、ここはどこですか?真っ暗になる前にいた場所じゃなさそうなんですが…」
 そう聞いたあみを見て、ゆみとまみの表情が変わる。
「?」
「あの、もしかして、あみさんとれみさんですか?」
「えっ?会ったことありましたっけ?」
「いえいえ、実際にお目にかかるのは初めてですが、本は読ませていただいてます!」
「本?」
 あみが不思議そうに聞く。まみが鞄から1冊の同人小説を出した。
『いつのまにかアイドル』

「ちょっと見せてもらえます?」
「いいですけど、ご自分で書かれたんじゃないんですか?」
「わたし、小説なんて書いたことないよ?」
 あみはパラパラとページをめくってみた。若干の誇張はあるものの、自分達の行動が正確に書かれている。
 そして、表紙の写真は間違いなくあみ自身だった。
「確かに、プリパラには行ってたし、表紙にわたしが載ってるけど、誰が作ったのかな?」
「あの、今、プリパラへ行ったって言いました?」
「ええ、それが何か?」
「プリパラはこの前までやってたアニメで、ゲームも出てたけど、架空のテーマパークですよ」
「嘘でしょ?現にわたし達はプリパラの跡地のスタジオにいたはずだし…」

 そこで、あみは数日前に見た夢を思い出した。そういえば、異世界でこの二人を見かけた気がする!

「どうやら、わたし達、さっきのシステムエラーで世界の壁を超えてしまったみたいね」
「えっ?どうやって戻るんですかぁ?」
「あの…お二人さん?」
 ゆみが声をかける。
「なんか、気合入ったなりきりって様子でもなさそうですけど、本当にプリパラのある世界の人なんですか?」
「ええ。本当です」
 れみが答える。不安で涙目になっている。

 そこへ、店長が入ってきた。ゆみたちを最初に受け付けてくれた赤い眼鏡の女性だ。
「システムエラーがあったみたいだけど大丈夫だった?・・・あら?」
 店長はあみとれみを見た。
「あなたたち、受付まだだよね」
「よく判りませんが、別のところで受付しました」
 あみが会員証を見せる。
「ところで、めが姉ぇさん、ですよね」
「そうだけど、何か?」
「プリパラの世界に行く方法はありますか?」
「確かに、システムエラーでプリパラへ行ってきたって子はいたわね。でも、あの装置はもう壊れたし…」
 そこでめが姉ぇさんははっとする。
「まさか、プリパラの世界から来たとか…?」
「はい」
「そうね。ありえない話ではないわね」
 めが姉ぇさんはあっさりと事態を認める。
「めが姉ぇさんは他の世界のことをご存知なんですか?」
「詳しいわけじゃないけど…そういえば聞いたことがあるわ。いくつもの世界をわたり、プリズムの煌きを守る少女がいると」
「りんねさんですね!わたし、会ったことがあります!この世界にいるんですか?」
「さぁ?でも、あなたたちがいることで、世界のバランスに変化があるのは間違いないわ」

「うーん、どうしたらりんねさんに会えるかな?」
「早く帰らないとね」
「…あのー…」
 横からゆみが話に入った。
「お二人の話、ここまではこの小説のとおりなんですけど、だったら、お二人は歌って踊れますよね」
「ええ、まぁ」
「だったら、プリ☆チャンでライブを配信したらどうかな、と思って」
「なんでまた…」
「チャンネルの人気が出たら、その、りんねさんって人の目に止まるかもしれないから」
「…!なるほど。ナイスアイディア!えっと…?」
「あ、あたしはゆみ。こっちはまみ」

「ありがとう。ゆみちゃん。じゃ、ライブ、やってみようか」
「コーデはどうする?」
「このままでいいかも。たまたま二人ともRONIの服だし、ブランドお揃いだし」

「おお、小説の中の伝説の神アイドルライブ!生で見れてラッキー!」
 あみとれみを見送ったあと、ゆみが言う。
「ゆみ、ちょっと良いか」
「何?」
「我らもプリ☆チャンアイドルとして活動を開始したのであるよな」
「うん」
「このままではガンダムSEEDの二の舞になるぞ」
「どういうこと?」
「あの作品、続編の最初に、どうみても二代目主人公みたいな新キャラが登場したものの、1作目の主人公たちの話が主軸のため、きわめて影の薄いキャラに終わった」
「うん。その話は知ってるよ」
「つまり、プリパラ小説の主役みたいなレジェンド枠が横でレギュラー化すれば我らのチャンネルなど、わずか6.66秒で吹き飛ばされぬか?」
「でも、別に試合するわけじゃないし、仲良くなれそうな雰囲気の人たちだよ?」
「うむ。それは我も同感である。汝の覚悟を聞いただけなのである」
「それに、なんとなくだけど」
「ん?」
「あの二人に出会えたことが偶然じゃないこと、今は最初で判らないけど、いつか、奇跡だってわかる時がきそうな気がする」
「74億分の1の奇跡。いや、二つの世界なら148分の1かも」
「そうかもね。あ、ライブはじまるよ」

 あみとれみのステージは初めてとは思えないくらい場慣れしていた。プリパラでの実績は伊達じゃない。

 そして、曲が終わり、あみの上から光るボタンが降りてくる。
「あれは…?」
「運命のキラッとボタン!」
 あみがボタンを押す。

 突然、照明が落ち、ステージにボタンと同じ模様の光が走る。
 ステージの上に円形に7つの窓のようなものが現れ、人影がうつっている。
 窓の輪の中心からキラキラのミラーボールが降りてきた。

 キラッとチャンスが発動した。

「すごい!普段はあのボタン押しても何もないのに」
「さすがはレジェンド枠担当」

 驚くゆみたちの前で、あみのコーデが変化していく。
「サイリウムチェンジ…じゃない?これは一体?」
 ピンクのドレスだけど、電飾はない。ただ、生地全体がスパンコールのようになっていて、動くたびにキラキラと光がはじける。キラッとコーデだ。

「綺麗…!」
 ゆみたちはキラキラと光を反射させて踊るあみの姿にしばし見とれていた。

 そして、追加ステージが終わった。

「次はパシャリングステーションで写真撮影だね」
 ゆみがそう言っていたら、あみたちが戻ってきた。

「あれ?写真撮影は?」
「キラッとチャンスの時は、ライブの写真が自動的にプリスタグラムにアップされるんだって」
「あ、そうなんだ。知らなかった」
「せっかくだから、トモチケ…じゃなかった、フォロチケをパキりたいけど、まだこれ1枚だし。プリパラではつづけてお買い物をすればトモチケをまとめて作れたんだけど」
「そういえば、キラッとチャンスだと、さっきのキラッとコーデを入荷でしたか?」
「ううん、なんか、問答無用でこのスカートだったよ」
「そうなんだ。あ、でも、ちょっとキラキラなプリチケなんですね」

 あみたちの会話を聞いて、めが姉ぇ店長が言った。
「ねぇ、その、続けてお買い物って制度、いいわね。今度取り入れようかしら。売り上げ増えそう!」
 あみはふと違和感を感じた。めが姉ぇさんって、こんな人間味のあること言ったっけ?機械的に「システムです」だけの人だった気がする。
 どちらかといえば、今のめが姉ぇさんのほうが実際っぽいのかな。

「せっかくフォロチケ交換の機会なのにごめんね」
「次の機会にはぜひ!」

「そういえば、気になっていたのであるが…」
 まみが口をはさむ。
「二人はこれからどうする?異世界から来たのなら、家がないのでは…」
「あ、確かにそうですね」
「どうしよう…」
 あみたちが困っていると、めが姉ぇが、
「あなたたち、ここで働くなら、寮の空き部屋を使ってもいいわよ」
「本当ですか!」
「ありがとうございます!」
 と、横にいたカメラマンが、
「でも、店長は人使い荒いから大変だよ」
「ユヅル君!」
「サーセン!サーセン!サーセーン!」
 店長に睨まれて、カメラマンは逃げていってしまった。あのカメラマン、ユヅルさんっていうのか。
「じゃ、またお会いできますね。あみさん、れみさん」
「あみ、れみでいいよ」
「じゃ、あたしたちもゆみとまみで」
「これから暫く、よろしくね。ゆみ、まみ」
「こちらこそ!じゃ、また明日にでも」
「その時はフォロトモになろうね」
 
 とりあえず、当面のあみたちの居場所は決まった。


今回のライブシーン
   
前へ表紙へ次へ