第1章 プリ☆チャンデビューやってみた

 授業の終わるチャイムが鳴った。
 一人の女生徒がカバンに教科書をしまおうとしている。
 彼女の名前はゆみ。高校1年生。高校は自宅からちょっと離れたところにあるせいか、同じ中学で仲の良かったコ達はそれぞれ別の高校へ進学した。
 とはいえ、友達がいないというわけではない。

 噂をすればなんとやら。隣のクラスからぱたぱたと走ってくる足音が。
「ゆみー!いるかぁ?」
 ポニーテールを揺らしながら走ってくる。彼女の名前はまみ。ゆみが高校で入学式でいきなり友達になった相手だ。

 今から半月前。高校の入学式。
 式が終わって、ゆみは教室を見回した。所々グループで雑談しているコたちがいる。同じ中学から進学したグループのようだった。
 ま、クラスメイトとはやがて話す機会もあるだろうと考え、他のコに無理に話しかけるでもなく、担任の先生の説明を聞いたあとはすぐに教室を出ることにした。
 ちょうど、買いたい本があるから、本屋に寄りたいし。
 その時、隣のクラスから、一人のコが出てきて、ゆみの目の前に高速で走ってくる。
「おっとと…ごめん!」
「大丈夫だった?すごく急いでたみたいだけど」
「実は、本屋に行きたいのである」
 なんか、『プリパラ』のキャラ、あろまに似たしゃべり方だなぁ…と思ってカバンを見ると、あろまのディフォルメマスコットがついている。
「偶然ね。あたしも本屋に行くところなの」
「では、一緒に行くのである」

 よく判らないまま、二人は並んで校門を出た。
「えーっと…名前、聞いてないよね。お互い。あたしはゆみ。よろしくね」
「我はまみ」
「まみは『プリパラ』好きなんだよね。カバンにあろま付いてるし」
「汝も『プリパラ』好きか?」
「うん」
「なら大丈夫ぷり」
「みれぃになってるよ」
「あ…」
「そういえば、そのマスコットってガチャのやつだよね。次はひびきさんとか出るのかなって思ってたら、三期にそらみスマイルが出てそれっきりのやつ」
「そうそう。四期のゆいなんて、主役なのに出てないんだ」
 ゆみは話に夢中で素のしゃべり方になっていた。
「まみ、しゃべり方、普通になってるよ」
「へへ、キャラ作ってただけだから。ゆみには通じると思ったからやってただけだよ」
「なんであたしが『プリパラ』知ってると思ったの?」
「これ」
 まみはカバンから3DSを取り出した。
「すれちがい通信の一覧を出すと…」
「あっ…!」
 ゆみからの通信トモチケが表示された。
「我はすべてのすれちがいトモチケを記憶しているのである」
 そういえば、あろまっぽいコーデのキラキラネーム付けた通信トモチケがあったような気が…
 共通の話題が見つかって、二人は楽しく話しながら歩いた。

 二人は本屋の前に来た。本屋は本屋でも、同人誌を扱っている店だ。
「この店で良いか?」
「多分、ここにしか入荷しないと思う」
 二人の目当ての本は同じだ。
「あるかなぁ…」
「前作、3冊しか入荷してなかったし」
「あ、あった!」
「良かった!2冊ある!」
「しかし、先月アニメ終わった作品のスピンオフ小説が2冊同時に売れるなんて、店長もびっくりかも」
「まぁ、今流行のプリ☆チャンの配信スタジオでライブやるノリでアイドルやるって設定だもんね」
「案外、プリ☆チャンアイドルのメルティックスターとかがモデルだったりして」
「メルティックスターって、また懐かしいグループを…」
「一人脱退して活動休止したんだよね」
「あれ?この前、赤木あんなが面白動画に出てたよ」
「あ、グループは休止でも引退じゃないもんね」
「そういえば、まみはプリ☆チャンのライブ発信とかやったことある?」
「ないよ。ゆみは?」
「興味はあるけど、やったことない」

 ちょうどその時、たまたますれ違ったコたちの会話が聞こえてきた。
「やってみなくちゃわからない。わからなかったらやってみよう!」

 まみがその台詞を言った通行人を指差して、
「ほら、この人も言ってるし、やってみるのである!」
 いきなり指差されたコはびっくりして立ち止まる。よく見ると、チアガールの衣装を着ている。
「あ、すみません…たまたま聞こえた言葉に背中押された気がしたのでつい」
 ゆみがフォローを入れる。
「あ、そうですか…エールは心のエネルギー!よく判らないけど、がんばってね!」
「ありがとうございます!」
 二人は頭を下げてからその場を去った。

「えもちゃん、さっきの人たち、何だったんだろうね?」
 チアガールにもう一人のコが話しかける。
「さぁ?でも、えもい事が起きそうな気がする」
「そうだね」

 ゆみとまみはプリ☆チャンの配信スタジオにやってきた。
 プリズムストーンという店の中にスタジオがある。
 まず、会員証を作ることになる。
 受付の女性は赤い眼鏡をかけている。アニメのプリパラで量産型の店員がいたけど、この人がモデルなんだろうかと思うくらいそっくりだった。
「じゃ、これに着替えて奥の部屋へどうぞ」
 レッスン用の服とプリ☆チャンキャストというスマホみたいなデバイスを貸してくれる。
「このレッスン着もかわいいデザインだね」
 そんな話をしながら写真撮影、名前の登録、誕生日の登録としていく。
 そして、会員証ができた。

 さっそく、配信の準備にかかる。まず、ゆみが会員証をスキャンする。踊る曲を選ぶ画面が出たので、二人用の『レディー・アクション』という曲を選んでみた。
 次は、どんなコーデで出るかだ。
『オンエアー』と英語で書かれた扉の中はフィッティングルームだ。
「初めてだから、コーデとかないけどどうする?」
「大丈夫。プリパラのゲームのコーデでも使えるのである。このコーデで良いか?」
 まみがカードを取り出す。プリパラでノンシュガーというグループのメンバーが着ていた私服だ。
「ちょうど、ピンクとブルーの色違いがあるね。これでいこう」
「シューズを持っていないから、3DSで色を揃えた靴で代用で良いか?」
「うん。あ、これ、元のより気に入ったかも」
 コーデをスキャンすると、着替えが完了する。
「それじゃ、コーデ紹介のポーズを取ってください」
 フィッティングルームを出ると、イケメンのカメラマンがいて、彼に促されるまま、ポーズを決めてみた。
 そして、会場へ。

 さぁ、もうすぐオンエアだ。
「オンエアのキューは汝がするのである」
「そうなの?」
「会員証でエントリーした方がするのである」

 大丈夫かな?とドキドキしながら最初の台詞を言う。
「みんなの想いをリズムに乗せて、最高のプリ☆チャン、オンエアー!」
 ちょっと緊張したけど、なんとか言えた。

 二人はプリズムストーン店内のランウェイのあるステージで踊ってみた。
 結構楽しい!
 と、突然、目の前にどこからともなくカンペが現れる。 『キャストのアプリを起動させて!』  ゆみは曲にあわせて、 「やっ、て、みた!」  とアイコンをタップした。  動画にはコーデ紹介でポーズを決める場面がインサートされた。
 その後も、時々アプリ起動指示が出て、ランウェイを歩いてみたり、「やってみた」をインサートしながら、曲が終わった。

 曲が終わると、天井から大きなボタンがゆみの前に降りてきた。
「あれは…?」
 ゆみがびっくりしながら見上げると、
『とりあえず、押してみよう』
 どこからともなく再びカンペが出た。
「運命のキラッとボタン」
 とりあえず、ゆみが押してみるけど何も起こらない。
「?」
『気にせずキメのポーズを!』
 またカンペが出た。
「…キラッと!」
 ゆみは、訳の判らないままポーズを決める。
 ボタンのところは編集でカットされて配信されるのか、とりあえず、何件かの「いいね」と数人のフォローがついたみたいだ。

「とりあえずは、うまくいったのかな?」
「たぶんね」
 そんな話をしていると、先ほどのカメラマンがゆみに声をかけた。
「こっちこっち」
 カメラマンの背後には
『パシャリングステーション』と書かれた表札のある部屋があった。
「ここでプリスタに載せる写真を撮るよ」
 プリスタとは正式にはプリスタグラムという写真をアップするサイトだ。
「え?あたしだけ?」
「エントリーした人の写真になるんだけど」
「あ、そうなんですか?」
「じゃ、ゆみ。いい写真を撮って貰うのである!どんな写真か楽しみである」

 これが二人のプリ☆チャンデビューだった。

「ゆみ、どうした?」
 まみの声でゆみは我に返る。
「あ、初めてプリ☆チャンした時の事、思い出してた」
「ふーん、とりあえず、今日もプリ☆チャンやるのである。行くぞ!」
 まみに手を引かれながら、ゆみは教室を出た。


今回のライブシーン
  
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