プロローグ

 4月の夜道。わたしはふと上を見た。桜の木も葉が茂り、もはや夜桜鑑賞とはいかない。

 わたしは、あみ。アイドルのテーマパーク「プリパラ」で、いつの間にか「神アイドル」になったけど、実際はただの大学生。
 そして、プリパラは今日で完全に閉店。その最終日に、仲間のれみがギリギリ神アイドルになったので、昇格祝賀会というか、打ち上げというか。
仲間と食事をした帰り道だった。
 ようやく街の明かりが見えてきた。駅が近づいてきた。そして、わたしはふと足を止めて横を見た。プリパラ。あとわずかで閉店時間だ。
「ふぅ。名実共に普通の女の子になるんだなぁ」
 感慨にふけっていると、隣にも立ち止まっているコがいる。たしか、この前一緒にライブした、セブンイレブンですれ違ったコだ。たしか、まいまいさんだったかな
「こんばんは」
 まいまいさんもわたしに気付いた。 「あ、こんばんは。まいまいさん。ここも、もうすぐ終わりですね」
「そうですね。あ、でも1回くらいならライブする時間あるかも」
 わたしは、無意識に言った。
「あ、料金わたしが持ちますんで、最後にペアライブしませんか。わたしの手持ちでよければコーデもあるんで」
「いいんですか?」
「わたし、身内やプリパラアイドルとしかペアライブしたことなくて、最後にどうかなと思って」
「あ、私も身内としかやったことないですよ」

 ライブが終わった。時間的に本当のラストライブだ。
「最後にいい思い出ができました。ありがとう」
「いえ、こちらこそ。あ、最後のトモチケ交換しましょう」
「ズッ友チケなのに、使えないのが残念。今後はネット配信が主になるんですよね」
「やってみたけど面白いですよ」
 まいまいさんは配信も経験したのか。さすがだなぁ。
「そうなんだ。わたしはやるかどうか考え中」
「気が向いたら、また会えるかもね」
「その時はよろしくね」

 なんか、自分のラストライブをやってからも、ずるずるとライブしてるし、配信も面白いかも。
 今度、れみあたりを誘って、一度どんなものか見に行ってもいいかもね。
 そう思いながらその日は帰宅してすぐわたしはベッドに入った。ちょっと疲れたかな。

 夢の中で、わたしの意識はどんどん上昇し、夜空を超え、世界の壁を越えた。
 いつか、りんねさんと見た世界と世界の間の道だった。
 わたしは隣の世界を覗いてみた。

 どこかの教室だ。高校だろうか。一人の女生徒がカバンに教科書をしまおうとしている。
 わたしの知らないコだけど、ゆうきみたいな気の強そうな目、さなえみたいな青みのある緑の髪、みぃほどではないけどちょっと日焼けしたような肌色のコだったので、なんとなく親しみを感じる。
 そのコのところへ友達だろうか、ポニーテールのコが駆け寄ってくるのが見えた。

 この世界はわたしのいない世界の一つなのかな?そう思った。

 そして、それがこれから起こる事件の前兆になるとは、誰も思っていなかった。


今回のライブシーン

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