ねえ触ってよ 9











「小十郎、しばらく休んでろ」

「ゴホッ……しかし……」

「……眠れるようになるまで、仕事をすることは許さねぇ」

「…っ、政宗様」

「いいな、これは命令だ」

「………承知しました」

ため息を吐きながら出て行く竜の旦那を見送った

小十郎さんの目が覚めたのは次の日の夕方だった
結局、小十郎さんが部屋に運ばれたのは朝になってからだった
一晩中苦しそうに咳をしたまま、一人きりで廊下に倒れ伏していた
朝になって、焦った顔した竜の旦那が部屋の中まで運んでいった
泣き出しそうな顔で、すまねぇ小十郎、なんて呟いていた

「……政宗様にまで迷惑をかけるとは、な」

”…あれは心配っていうんだよ”

「本当に、情けねぇぜ……ごほっ……」

眉をしかめて目を閉じる小十郎さんの手を握る
触っている感触なんてないから、
手が重なって見えるようにだけだけれど

本当に何も出来ないことを、信じたくなかった
それなのに現実は残酷に、真実を叩き付ける

今の俺は、なんて無力なんだろう

好きな人が苦しんでいるのに何も出来やしない
側に居ることすらも伝えられない
こんなに近くに居るのに、見ていることしか出来ないなんて

”……ごめんね、小十郎さん”

隣に居たのに
声を張り上げたのに

”……ほんと、ごめん”

愛したことも
愛されたことも
こんなにも小十郎さんを傷つけるばかりだなんて

”……ごめんなさい、小十郎さん”

流れる涙は無力感
零れる謝罪は罪悪感
何にも出来ない無意味な俺様

「…………」

”…せめて今だけでも、ゆっくり休んでね”

いつの間にか寝息を立てる小十郎さんの額に口付けを落とす
いつも眠る前に小十郎さんがしてくれたように

するりと襖をすり抜け、小十郎さんが倒れていた場所に寝そべってみる

白い塀と真っ暗な空しか見えない
こんな所で、毎晩毎晩一人きりで座り込んでいたんだ

”…隣に居たのに、見える景色なんて知らなかった”

今までもずっと、こんな風に俺のことを待っていたんだ
いつ来るかも分からない俺のことを、ずっと一人で

”……神様、居るなら答えてよ
何でっ、何も出来ないのに俺はここに居るんだよッ!”

廊下に額を擦り付けて、信じたことも無い神様に問い掛ける
握り締めた拳で廊下を殴り付けても音すらしない

”何であのまま死なせてくれなかったッ!”

ぎりぎりと歯を食いしばって、
言いたくも無い言葉を声の限りに叫ぶ

”…あんたが何でも出来るんなら、
俺の来世なんていらないからっ、小十郎さんを救ってくれよ………”

一人きりで俺を待ち続けるあの人を、
誰か、どうか、幸せに連れて行ってあげてくれよ






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