ねえ触ってよ 8











小十郎さんが風邪をひいた
苦しそうに咳をしながら、それでも今日も俺を待つ

”小十郎さん、部屋に入って!
安静にしてなきゃ駄目だよ!”

「…ごほっ、ごほっ」

”ねえ、聞いてる!?
風邪は万病の元なんだよ!
肺炎にでもなったらどうするの!?”

「…これしきで、情けねぇな」

”ばっかじゃないの!?
こんな生活続けてたらこうなるのなんか目に見えてたでしょ!”

小十郎さんのまわりで怒鳴る俺を見もしないで、
ぼんやりと空を見上げる小十郎さんにため息を吐く

”……お願いだから、休んでよ”

「………このまま死んだら、お前に会えるのか?」

”……っ、ははっ、ちょっとちょっと、
冗談でもそんなこと言わないでくんない?”

「…悪くねぇかもな、ごほっ」

”小十郎さん!そんなのっ、許さないからねっ!?”

「…だが、まだ駄目だ
死ぬまで、政宗様を支えると決めたんだ」

拳を握り締めて、まるで自分に言い聞かせるように呟く
その瞳には確かな意志
その言葉を違える気は無いのだと分かりほっと息を吐いた

”…ほんとに、ビックリした
もう二度とそんなこと言わないでよね!”

「ごほっ、ごほっ!」

止まない咳に豊臣の軍師を思い出す
彼も、こんな風に苦しそうな咳をしていた
嫌な想像ばかりが頭から離れない

”ねえ、今日はもう休もう?
咳、さっきより酷くなってるよ?
少し顔も赤いし、熱もあるんじゃない?”

「っ、ゴホッ!ゴホッ!」

”小十郎さんっ!?”

柱に背をつけたまま、ずるずると崩れ落ちた体

鳴り止まない激しい咳

”小十郎さんっ、しっかりして!
…っ、ねえっ、小十郎さんっ!!”

「ガハッ、…ッ、ゴホッ!!」

”っ、小十郎さんっ!”

「…ゴホッ、はっ、」

”誰か、誰か居ないの!?”

触れることも出来ない俺は、ただ声を張り上げる

”ねえっ、誰かっ!
……誰か、小十郎さんを助けてくれよっ!!”

荒い息を繰り返す小十郎さんの側に立ち竦んだまま、
誰にも届かない声を響かせることしか出来ないでいる

”誰か、誰か、頼むよっ!
誰でもいいから、小十郎さんを助けてっ…”

「ゴホッ、さ、すけ……」

”小十郎さん、喋んないで!
いや、声出せるなら助けを呼んでっ!”

「ゴホッ!ゴホッ!」

”っ、畜生…
何でっ、誰かっ!……畜生っ!”

成す術も無く立ち尽くす俺の前で、苦しんでいる小十郎さん

もう、その体を抱えて布団に寝かせることも、
医師を呼ぶことすらも出来やしない

残酷なまでに無力すぎることを改めて思い知った






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