ねえ触ってよ 7











小十郎さんは仕事をする
物を食べて、稽古をする
いろいろな人と言葉を交わし、疲れた笑顔を浮かべる
そうして夜は俺を待つ

一人っきりで空を見上げて、来ない俺を待ち続ける

俺の死を受け入れられないのが嬉しい
待っていてくれるのが嬉しい

それが、どうしようもなく悲しい

とてもとても嬉しくて、同じくらい悲しくて、ただひたすらに寂しい

”…小十郎さんって馬鹿だよねぇ”

今日もまた、隣に居る俺に気付かない
日に日に濃くなる隈に、竜の旦那も眉をしかめてる
それでも、誰に何を言われても、待つことを止めてくれない

”いい加減、倒れたって知らないよ?”

ねえねえと呼びかけ、その頬に手を伸ばす
するりとすり抜け、俺の手はどこにも届かない

”…竜の旦那はもう前を見てるってのに、
小十郎さんがそんなままじゃ駄目でしょーが”

ため息を吐き、小十郎さんの背中に寄りかかる
形だけでも、触れていようとする

”小十郎さん、竜の旦那ちゃんと見てる?
心配でたまらないって顔に書いてあるよ?”

自分だってまだまだしんどい筈なのにさ、
遠くを見て何かを堪えるような顔するのにさ、
一人きりで拳を握り締めてため息を吐いたりしてるのにさ、
それでも小十郎さんの心配をしてるんだよ?

”…生きて、小十郎さんを思ってくれてる人がいるんだよ”

早くそれを認めてあげてよ
俺に囚われないで、今生きている仲間を見てあげてよ

忘れていいよ
幸せになっていいよ

悲しいけど、寂しいけど、そう思うんだ
一人で俺を待つ小十郎さんを見てるのは辛すぎるんだ

こんなに愛してくれてるのが、嬉しくって、悲しくって、どうしていいか分からないよ

「…今夜は、やけに月が明るいな」

”……そうだね、小十郎さん”

「……佐助、今どこに居る」

”…………”

「……なあ、佐助」

”……ごめんね、小十郎さん”

白々しいくらいに綺麗な満月が憎たらしかった






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