ねえ触ってよ 6











「…………」

”小十郎さん、部屋の中入ろうよ
…ねー、また寝ないつもりなわけ?”

泣くだけ泣いて、竜の旦那は眠ってしまった
その寝顔を見る小十郎さんの何かに耐えるような顔が忘れられない

”せめてさあ、上になんか羽織ろうよ”

普通に仕事をして、ご飯を食べて、
また昨日と同じ格好で、俺を待ってる

俺はここに居るのにさぁ

「……佐助、本当に死んじまったのか?」

”そーですよー
猿飛佐助は死んじゃいましたー
そんで俺はここに居ますー
……もー、誰でもいいから気付いてくんないかなぁ?”

そしたら、小十郎さんはこんなとこで俺を待たなくていいのに

「……何で、政宗様は受け入れられるんだろうな」

”さあねぇ?
愛の形とか、そんなんじゃないのー?”

「………何で、俺は受け入れられねぇんだろうなぁ」

”……それも、愛の形なんじゃないの?”

「……幽霊でも、何でもいい
もう一度、お前に会いたいんだ」

”………じゃあ、早く気付いてよ”

「……佐助」

”あーもー、だからぁ!
そんな泣きそうな声で俺を呼ぶくらいならさっさと寝ろって!”

空虚にまみれた顔で空を見上げる小十郎さんに声を張り上げる

誰でもいいから、この人に俺は死んだんだって、
もうこの世に居ないんだって伝えて欲しい
だから待つ必要なんて無いんだって、そう言ってあげて欲しい

こんなに側に居るのに、俺の手も声も、もう小十郎さんには届かない

その手を引いて部屋の中に行くことも、
何か羽織る物を持ってくることも出来ない

その体を抱き締めたって、温めることすら出来やしない

”………ねえ、泣いてよ、小十郎さん
そしたら、あんたなんか置いてって、
真田の旦那と二人で、あんたらのこと待ってるからさぁ”

今、目の前で手を伸ばす俺が小十郎さんには見えない

もうその手が俺に差し出されることも、
優しく笑って抱き締めてくれることも、
他愛無い話をして冗談を言い合うことも、
二度と、有り得はしない未来なんだ

「……佐助」

”…小十郎さん、好きだよ”

「……お前が死んだなんて、俺には信じられねぇ」

”…大好き、愛してるよ”

「………どうしたって、信じられねぇんだ」

”………愛してるよ、小十郎さん”

抱き締めて愛をささやいたって、
もう小十郎さんには、何も届かないんだ






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