ねえ触ってよ 5











一睡もしないまま夜が明けた
結局小十郎さんは頑なに部屋に入ろうとせず、
廊下で一晩を明かしてしまった
その横で早く寝れば?とか言い続ける俺様の声は、やっぱり届いてはくれなかった

”ねー、今日は休んじゃえば?
竜の旦那も傷心みたいだし、二人ともゆっくり休みなって”

疲れた顔で身支度を整える小十郎さんの周りをうろうろしながら、
そんなことを言ってみるけれど、効果無し
そうこうしている内に小十郎さんは部屋を出てしまった

”小十郎さーん、とりあえず顔でも洗ったら?
隈の浮いた顔で部下の前に出るのは如何なもんなのー?”

ギシギシと床板を軋ませながら進む小十郎さんにくっついて、
呆れた顔の俺様もふわふわ後を付いて行く

「政宗様」

「……小十郎か、入れ」

”あーあー、竜の旦那もひっどい声しちゃってさぁ”

部屋の中でうずくまる竜の旦那は見てるだけで痛々しい
真っ赤に泣き腫らした目元
カラカラに掠れた声
きつく握りこんだ手のひらには爪が刺さって血が出てる

「…政宗様、酷かとは思いますがどうか、御自愛召されよ」

「…Ha!御自愛ねぇ」

「今日の政務はお休みください
今は、僅かばかりでもかまいません、どうか眠ってください」

「っ、寝れる訳ねぇだろっ!」

「…政宗様」

「…っ、何で……幸村がっ……!」

「………政宗様」

歯を食いしばって泣く竜の旦那を小十郎さんが抱き締める
まるで親子みたいな抱擁に目を逸らした

本当に、旦那のこと愛してくれてたんだなぁ

逆の立場だったら、俺はこんな風に旦那を抱き締めることが出来たのかなぁ

そんなことを思いながら、幼い子どもみたいに泣きじゃくる竜の旦那と、
それを苦しそうな顔で抱き締める小十郎さんの後ろで浮いてることしか出来ない俺様

「…Shit、……畜生っ、……何でだよ……!」

「………」

竜の旦那の悲痛な叫びだけが響く

そりゃあ俺だって、旦那の死が悲しい
でも、何かが決定的に違うんだって、思い知らされる

それはきっと、俺はもう死んでいるから

この先を終わっていくか、生きていくかの違いなんだろう

「………っ、幸村ぁ」

「………」

幼くて、純真で、滑稽で、報われない
それでも、あまりにも真っ直ぐな愛に目が眩んだ

「……政宗様」

「っ、小十郎っ、ぅっ、なん、でっ!」

小十郎さんの背に回された手が震えていた
こんな声で、こんな表情で、泣きじゃくるなんて知らなかった
こんなにも、真田の旦那を愛してくれていたなんて、俺は知らなかったんだ

”………ありがとね、竜の旦那”

俺が向こうに行ったら、真田の旦那に伝えてやるよ
そんでいつか、あんたが旦那に会ったら恥ずかしくって死にたくなればいいさ






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