ねえ触ってよ 3











”…幽霊って、便利だなぁ”

食べることも、眠ることも必要が無い
体は軽いし、それどころか常に浮いちゃってるし
誰にも見えないから人目なんて気にする必要も無いし
だからほら、こうして堂々と門を潜り抜けちゃったりして

静かな城内を、愛しい愛しいあの人に会いに行く

今まで、こんなに堂々と城の中を一人で歩き回ったのは初めてだ
何だか物珍しく感じて、ついうろうろと余所見をしてしまう

そうして見つけたのは、庭に降り立つ竜の旦那
一人っきりで俯いて、腕組みなんてしちゃってる

”…竜の旦那、風邪ひくよ”

仲なんて良くなかったし、お互いに気に入らなかったと思う
それでも、なんだか声を掛けずにはいられなかった

どんなに俺様が気に食わないと思ったって、
この人は真田の旦那が愛して、愛された人だから

「……真田も、猿も死んだか」

この男のこんな切ない声を、初めて聞いた
声を上げることも無く、眉をしかめる事も無く、
呆然としたままに流れる涙があることを、俺は初めて知った

苦しくて、痛い

真田の旦那を想って流れされる、とっても綺麗な涙
見ているだけで悲しくて、苦い、行き場を無くした愛みたいなそれ

”……あんたのそんな顔見に来たんじゃないんだけど”

「何でだよ…幸村………」

旦那が幽霊にならなくて良かったと思った
あの人は、きっとこの男のこんな所を見たら泣いてしまうんだろう
泣かないでくだされとか言って、きっと自分を責めるんだ
それにこの男だって、こんな泣き顔を見られるのは嫌だろう

”小十郎さんのそんな泣き顔見に行く俺様って、性格悪いなぁ”

透ける自分の手のひらを見詰めて、竜の旦那に背中を向ける

自分で乗り越えるしかない
いつかは、受け入れて前に進まなきゃいけない

でも、そんなこと教えてやらない

生きてるんだから、それくらい分かれってことだよ






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