ねえ触ってよ 2











自分の死体を見下ろして、感慨も無くため息を吐いた

”あーあ、俺様死んじゃってんじゃん”

呆れたような声も、透ける体も、誰も誰も気付かない
俺の死体に群がる敵兵と、それを退けようとする武田軍

”おいおいおい、もう俺様なんて放って逃げろって!”

頭を抱えながら、押され気味の戦況に檄を飛ばす
でも、そんな声が聞こえる奴は一人も居ない

誰かも分からない味方をかばって、
洒落にならない怪我を負って、そんでも撤退の手助けをしてた

出血が酷くて、真冬みたいに寒かった
敵の攻撃を弾きそこなってまたいい感じの傷が出来ちゃって、
もつれる足とか、震える手とか、この体もっと動けよって思った

俺はここで終わるんだって、分かった

痛みとかもよく分かんないまま、ただ意識が真っ暗闇に落ちていった
それで、全部お終い

俺様の生きた全ては無に帰したのです
……なんてね

逃げる仲間と、俺様の首を取る敵兵

そういや旦那は大丈夫かな、なんて考えて、
俺が死ぬ前に旦那は死んじゃったじゃん、とか思い出したり

”……あーあ、これで終わりとか、冗談きついよ”

武田はどこに取られるんだろう
旦那の首は晒されちゃうんだろうなぁ
俺の首と並べられたりして
うへぇ、そう考えると晒し首って悪趣味だな

ふよふよと浮かんだまま、終わっていく戦を眺めてた

吹き抜ける風とか、血の匂いとか、
そういうのは全然変わらないのに、俺はもう生きていない

守りたかった主は死んだ
守りたかった武田は滅びる
守りたかったものを、俺はもう守れない

辛いとか、悔しいとか、そういうのは驚くほどに感じない
ただ、諦念と空虚がこの体を満たしているようだった

”……あ、そうだ!約束!”

ふと思い出したのは、最後に会った時に交わした愛しい人との他愛無い約束

”泣き顔見て笑ってやろーっと”

どうせ俺の姿が見えることは無い
きっと俺の声が聞こえることも無い
それでも、約束守ろうとする俺様ってすごい健気っぽいなー

そんなことを考えながら、ふよふよと戦場を漂っていれば地に伏した旦那の姿を見つけた
瞳を閉じた精悍な顔に、一度だけまばたき

”……お疲れ、旦那”

地獄で待っててよ、俺様もすぐ行くからさ

なんて心の中で呟いて、奥州へと漂っていく
今まで何度も会いに行く為に通った道を、
死んだ今でも、会いに行く為に通ってる

滑稽とか、馬鹿とか自分でも思うけど、
あの人の泣き顔を見れないまま死ぬなんて勿体無さ過ぎるもんね






←/1 /3→

←寄せ集めの話
←BL
←ばさら
←めいん
←top