涙一粒 6











そわそわとしながら真田を待っていた
座った足が貧乏ゆすりで揺れていた

「………」

襖の向こうに見知った気配を感じた
入ることを躊躇っているのだろう、声はかけられない

「…入れ」

我の言葉に気配が動く
だが、まだ躊躇っているのか襖が開くことは無い

ゆっくりと立ち上がり、襖に手をついた

「………入れ、真田」

祈るように瞳を閉じる

「…………某は、本当に入ってもよろしいのでしょうか?」

不安げに響く声に顔を上げる
手を離したのが己ならば、次は己から手を取りに行けばいいだけだ

「当たり前よ!」

勢い良く開けた襖の向こうには、
眉を下げ、情けない顔をした真田が立っていた

「も、毛利殿…」

「さっさと入らんか、馬鹿者が!」

未だ戸惑う真田の腕を掴み強引に部屋の中へと引っ張り込む
まるで叱られた犬のようにおどおどする真田を座らせた

「…貴様の忍から菓子が届けられた」

「……ご迷惑ならば、捨て」

「馬鹿者が!」

真田の言葉を遮り、部屋の隅に置かれた戸棚から菓子を取り出す
忍が持ってきた菓子の脇に次々とそれらを重ねていく

「……菓子が食えぬのも、溜まっていくのも、貴様だけでは無いわ」

毎日毎日、今日は来ぬものかとどこかで期待していた
そして来ないことに落胆し、憤っていた
それを望んだのは我だというのに、受け止められなかった

「毛利殿、これは…」

「……貴様と食す為に取り寄せた菓子よ」

「……!」

驚く真田を無視し、膝を折り頭を垂れる

「もっ、毛利殿!そのように頭を下げないで下され!」

「………すまなかった
…都合のいい話だが、また、我と甘味を食して欲しい」

じっと目を瞑り真田の言葉を待つ

元服を済ませてから今まで、こんな風に素直に謝罪を口にしたことがあったろうか?
騙すでも、陥れるためでもなく、仲直りの為に心を砕いたことがあっただろうか?

「………毛利殿、顔を上げてくだされ」

温かな声に顔を上げれば、日輪のように眩しく笑う真田

「毛利殿が良ければ、ぜひともご一緒させてくだされ!」

朗らかに、底抜けに明るく、温かな笑み
今まで胸の内にあった氷が一瞬で溶けていくようだった

我にとっての日輪は、最早真田以外は有り得ぬのだと実感した






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