涙一粒
7
日当たりの良い縁側に二人並んで腰掛ける
日に照らされ火照る体には涼しい風が心地良かった
「毛利殿、こちらの煎餅も美味にござる!」
「こちらの練りきりも食せ、美味ぞ」
「おお、かたじけない!」
次から次へと甘味を飲み込んでいく真田と、
またこうして穏やかな日常に戻れたことを喜ばしく思う
真田が笑えばそれだけで我の内には明るい日が差すのだ
「毛利殿、その…一つお伺いしたいことが……
毛利殿は何ゆえ、某を遠ざけられたのでしょう?」
不思議そうに首をかしげ、口に菓子を頬張りながら真田が言う
その質疑に眉をしかめ、答えたくないと思う心を押し込んだ
「………くだらないと怒らないと誓え」
「…お誓い申す!」
神妙に姿勢を正し、真っ直ぐな視線を向けられる
それがもっとやりにくいと思っても、今更どうしようも出来なかった
「………貴様が、戯れていたからだ」
「……某が、戯れる?」
「っ、長曽我部や、石田と、大層仲が良い貴様が疎ましかったのだ!」
こんなことを言わせるな、と怒鳴りたかった
だが、何も知らずにひどい言葉を投げられた真田には知る権利がある
耳まで赤くなっていると自覚しながら、真田から顔を背けた
「…えぇと、つまり、焼きもちでござるか?」
「……………さようだ」
呆けたようにぽかんとした顔で、真田が見詰める
その視線に居たたまれなくなり体ごと真田から背けた
「……毛利殿、某は嬉しく思いまする」
真田の言葉の意図が読み取れず顔だけ向ければ、
目に入るのは顔一杯に気色の浮かぶ満面の笑み
「某は、それほどまでに毛利殿に想われているということでござろう?」
あんまり真田が嬉しそうに笑うものだから、
羞恥や気まずさから顔が熱くなる
なぜこの男はこうも我に肯定的なのだろう
「毛利殿、某は毛利殿を好いておりまする」
穏やかに、緩やかな空気を纏い真田が笑う
「っ!
……貴様は、長曽我部も石田も好いておるではないか」
声に出してしまってから、己の言葉がいかに恥ずかしいものかを知る
これでは色恋にうつつを抜かす女子と変わらぬでは無いかと眉をしかめた
「武田も、伊達政宗殿も、大変好いておりまする
しかし、お慕い申し上げておりますのは毛利殿だけにござりますれば」
普段は何かにつけては破廉恥、破廉恥と大声で叫ぶくせに、
微塵の恥ずかしさも無いように、さも当たり前のようにそう口にする
それを言われた方の恥ずかしさなど、
この男には分からないのだと思うとため息が零れた
「……ならば、生涯我だけを慕っておれ!」
「分かり申した!
同じだけ毛利殿も、某を想っていてくだされ」
ニコニコと笑う真田が我の手を握る
どこまでも優しく、温かく、身の内を焼く炎を感じた
ぎゅっと握られた手に力を込めながら、
この男には敵わない、とそう思った
それすらも、悪く無いと思える
囚われたのはとっくの昔だ
最早我の日輪は、真田しか有り得ぬのだから
我は生涯真田には敵わぬのだと思いながら、初めて真田に笑みを返した
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