涙一粒
3
”毛利殿!”
”こうして共に茶を飲めること、誠に嬉しく思いまする!”
”毛利殿、明日は何を食しましょうか?”
「毛利殿?」
「…何ぞ?」
ずっとずっと変わらない眩い笑み
何事にも全力で立ち向かう姿
思い出すのは楽しそうに茶菓子を食す真田の笑顔
「どこかお加減でも優れぬのでしょうか?
先程からぼんやりとしているように見受けられ申す」
心配そうに眉を下げ、不安そうに拳を握る真田を眺める
何故真田は我と共に茶を飲むのだ?
共に甘味が好きだというそれだけだ
何故真田は我を心配するというのだ?
共に西軍に属しているからだというそれだけだ
「…いや、大事無い」
「しかし……」
「我が大丈夫だと言っておるのだ」
「…分かり申した」
石田にもこのような顔を見せているのだろうか?
大谷には?長曽我部には?
笑むことも、心配することも、きっと我だけでは無いのだ
「…真田、もう我に構うな」
「毛利殿?
…っ、某は何か無礼なことでも?」
「……我は一人を好む
…貴様のように騒々しい者は好かぬ」
「……今までも、ずっとそう思っておいでだったのですか?
…っ、ずっと、某と共に居ることを我慢していたと?」
「ああ」
「…………っ」
「馴れ合いたいのならば他の者としていろ」
「そっ、某はそのようなっ……!」
「迷惑だ」
「…………迷惑、でござるか」
「…貴様は二度言わねば分からぬほどの間抜けなのか?」
「……っ!
……今までっ、多大な迷惑をお掛け申した!
某はもうここへは参りませぬっ!
………失礼、いたしまする!」
泣き出しそうな顔で足早に立ち去る後姿を見送った
これでいい
我の安寧は保たれる
これで、いいのだ
先程まで真田が座っていた場所に手を伸ばせば、
そこは未だ微かに熱が残っている
これでいいと思いながら、真田の影を追うこの手は何だ
静かに頬を伝った涙に、安寧など当の昔に移り変わったことを知る
喧しく名を呼ばれることが、
隣で朗らかに笑う姿が、
どれ程に我の心を照らしていたのかを知った
全てを手放した後に気付いても、もう遅いのだ
もう戻れはしないのだ
「……随分と、愚かしい」
自分を皮肉る言葉が胸に刺さる
冷えていく真田の熱を握り締め、
ぽたぽたと床に落ちる涙を眺め続けた
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