涙一粒 2











真田が石田と話していた
石田は声を荒げることも無く、普段より幾分か穏やかな顔をしていた
我の前と変わらぬ笑みを浮かべ、言葉を交わす真田から目を逸らした

何だか物悲しい気分だった

長曽我部が真田に声を掛けていた
機巧がどうのこうのと大声で喚く長曽我部と、
目を輝かせ、すごいすごい、見せてくだされ!と叫ぶ真田
まるで兄弟のように楽しげに笑い合う二人から距離を置いた

ひどく取り残されたような気分だった

苛立たしさと悲しさが入り混じったような、もやもやとした心のまま部屋に戻った
ひたすらに日輪を浴び、先程見た真田の顔を頭から追い払おうとした
だが、目を閉じれば閉じるほどに、もやもやは広がるばかりだった

「やれ毛利、日輪が照っておるにもかかわらずご機嫌ななめか?」

いつの間に部屋に来たのか、大谷が可笑しそうに薄ら笑いを浮かべていた
輿に乗りふよふよと浮かぶ大谷を睨み付け、苛立ち紛れに舌打ちをした

「…用が無ければ立ち去れ」

「なに、用ならばある、そう邪険にしなさんな」

「ならば用件を伝え早々に立ち去るが良い」

「せっかちな男よなァ
最近よく真田と甘味を食しておろ?
城下で名の知れた菓子を貰ったのでな、ぬしらで食うがよかろ」

そう言って差し出されたのは箱に詰められた花の形を模した練り菓子だった
きっと真田は喜んで食すだろう
そうして陽だまりのような笑顔を浮かべるのだろう
先程、石田や長曽我部に浮かべていたのと同じ笑みを
今まで、われに浮かべていたものと同じ笑みを

そう考えると胸が締め付けられるように痛んだ

真田の日輪の如く眩い笑みが、心に黒い染みを落とす
その眩さで我を焼き尽くさんとするかのように、その染みは少しずつ広がっていく

「……大谷、貴様暇か」

「特に急ぐ用はありはせぬが、何ぞわれに用入りか?」

「…一つくらい食して行け
放っておけば真田に全て食らわれるわ」

「ヒヒッ、ぬしがそれを厭うておるようには見えなんだがな」

「黙れ、さっさと茶を持て」

「ヒッ、ヒヒッ、ヒヒヒヒッ!
ぬしの分かりやすい顔など初めて見よるわ
愉快ユカイ、真田に感化されよったかの?」

「…石田も例外ではあるまいに」

「…そうよなぁ
だがな、真田につられて飯を食うから我は良い、良い
やれこの間は共に昼寝をしておった、ヒヒヒッ」

「…昼寝だと」

「ではわれは茶でも持ってこよ」

「………」

大谷の言葉に黒い染みは広がる一方だ
大谷を誘ったのは間違いであったか、と思ったが、
それでも今は真田と二人になるよりはマシに思えた

我以外にも屈託無く笑う真田に苛立つなど、悲しさを覚えるなど、
そのようなことは初めてで、我にはどうすれば良いのか分からなかった






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