嘘つきメランコリー
3.5
ずっとずっと、焦がれていた
視線が合うだけで心が躍った
言葉を交わす度に惹かれていった
触れられた時は夢のようだと思った
刑部から人が離れていくことが嬉しかった
その理不尽さに腹が立ったが、それ以上に、
私だけが側に居られるのが、たまらなく嬉しかった
この想いなど叶わなくてもいいから、
側に居られるだけで充分だった
初めは、ただそれだけだった
触れられることが増えていく度に、想いは止まらずに溢れ出した
稚児のように、それしか言えないのかと思う程、
刑部が好きだと何度も何度も口にした
その度に誤魔化すように微笑むのが悲しかった
同じ想いが返って来ないことが寂しかった
刑部が去った後の部屋の何と閑散として侘しいことか
一人きりで布団に包まり、声を押し殺して涙を零した
刑部は私に触れる時、
頭の先から足の先まで、形を確かめるように触れる
唇を重ね合わせ、舌を絡め合いながら、何度も
そうして私を高ぶらせ、果てるまで愛撫を繰り返すのだ
もっと触れて欲しい
もっともっと求めて欲しい
刑部になら、全てを捧ぐ覚悟もあるというのに
欲深いと思う
薄汚いと思う
はしたないと思う
それでも、この想いは止まってはくれない
だから、自分から誘うような真似をした
答えを求める問い掛けをしたくせに、
答えを聞くことを恐れ、
拒否される前に、せめて体だけでも、と…
だが、それすらも刑部は許してはくれなかった
きっとつまりは、それが答えだということなのだろう
体を繋げる価値も無いと、そういうことなのだろう
一人で舞い上がり、勝手に夢を見て、
ああ何て間抜けで滑稽なんだろう
初めから、私が一人で踊っていただけだったのだ
もしかしたら刑部も、
私を好いてくれているのかもしれないなどと、
そんな都合のいい妄想を信じてしまった愚か者だっただけだ
名前を呼んでも振り返ることすらなく立ち去った後姿に、
空しさと惨めさで押し潰されてしまいそうだった
きつく握った拳からは爪が食い込み血が流れた
噛み締めた唇が裂け血の味がした
声も無く、涙が溢れた
浅ましい劣情は斬り捨てられて地に落ちた
報われぬ恋情は焼き捨てられて宙に舞った
伸ばした手はどこにも届くことは無く、
発した声は誰にも届くことは無く、
一人きりのこの部屋で、静かに朽ち果てていくだけだ
「…好きだ、刑部」
無意識に口から零れた呟きに、
やはり、答える声などどこにも無かった
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