落ちて溺れて魅せられて 4











鉄球に座り、天井をぼんやりと眺めた
ごつごつとした土色の天井だけしか見えない
薄暗く、何も無いこの空間

しかし、夜になり、三成が訪れればがらりと変わる

薄暗さはこの上なく淫靡な明かりになり
土くればかりのここは、三成の白さを浮き立たせる舞台となる

そんなことを思う程に入れ込んでしまっていると、
間違いなく惚れてしまっていると、実感する

「…小生は毒されている」

ぽつりと呟いた言葉に、その通りだと思った
自分の言葉に何だかひどく胸が締め付けられた

三成は毒だ

甘く、清く、高貴な、最上級の毒だ

逃げることも出来ず、快楽の波に飲まれる
あの瞳に射抜かれただけで、動くことが出来なくなる
痛いほどに白い肌が紅潮し、興奮が高められる
切なく響く嬌声に、どうしようもなく息が詰まる

「あ゛ー、あ゛ー、あ゛ーっ!」

脳裏に映し出される乱れた三成を思い出すだけで切なくなる
今すぐ飛んで行って抱きしめてしまいたいと思う
そんな気持ち悪い思考を自分の声で掻き消した

「やれ暗よ、何を一人で喚いておる?
ついに頭でもイカレやったか?ヒヒ、ヒヒヒッ!」

音も無く忍び寄っていた刑部に驚きながらも悪態を吐く

「あーあー、狂えたら幾分かマシだね!
正気のままお前さんみたいに陰気なこんな所に閉じ込められてるよりはなぁ!」

「ヒヒッ、ならばわれが直々に狂わせてやろ」

刑部の言葉が終わらぬうちに飛んできた数珠に吹っ飛ばされ、
鉄球を引き摺りながら壁にぶち当たった

「がはっ…、刑部ぅ!お前、せめて話終えてからにしろっ!」

「生憎われはぬしと無駄話をするためにここに来た訳では無いのよ」

「先に話しかけてきたのはお前さんの方だろうがっ!」

「黙りやれ、われは虫の居所が大層悪いのだ
……暗よ、三成を傷付けてくれるなよ」

「はあ!?何で三成が出てくるんだよ!」

「……あれは、われの大切な友よ
傷付けおったら、ぬしに永劫の呪いが降りかかることを努々忘れやるな」

「……お前さんが言うと洒落にもならないんだよっ!」

「もとより洒落など言っておらぬ
よいな暗、われが言った言葉を違えやるなよ」

刑部はそう言うとふよふよと輿を進め出て行ってしまった
一人取り残され、刑部の言葉を反芻する

三成を、傷付けるな

「…そんなことを小生に言ってどうするんだ」

小生に三成が傷付けられる筈が無いだろう
枷のせいで動きは鈍いし、そのせいで攻撃なんかかすりもしない
そもそも、ここまで溺れてしまった今じゃあ、
三成の幸せを願うほかに考えることなんかありゃあしないんだよ!

「…傷付けられてるのは、小生の方じゃないか
………何にも分かっておらん馬鹿刑部め」

好きだと口にすることも出来ない程に好きだ

それなのに、他愛無い話をすることも、共に朝を迎えることも出来ず、
ただひたすらに体を繋げるばかりのこんな関係

そのことに絶望しているのはきっと小生だけなんだろうがな






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