黒 い 炎
4
嬉々とした家康が私の体を縛り付けるのを眺めていた
どこで覚えたのかその手つきは淀みない
「三成の白い肌にはこの縄が似合うと思ってな」
金糸の織り込まれた赤い縄がきつく体に食い込んでいく
それに息を詰まらせながらも、
家康の手が触れるのが、
きつく食い込む縄の感触が、
心地良いと感じていた
私は家康のものなのだと実感させられる
「出来たぞ」
それはそれは楽しそうに笑う家康に連れられ鏡の前に座らせられる
体には線を浮き彫りにするように赤い縄が絡み付いている
不安そうに揺れる瞳
桜色に染まった頬
浅ましく立ち上がった雄
恥ずかしさから、鏡に映る自分から目を逸らした
「そんな顔をしても、お前の美しさは変わらない」
鏡越しに家康が私を見つめる
耳にかかる甘い声に肌が粟立つ
「三成、愛してる」
ぴちゃぴちゃと音を立てて耳を犯される
熱い舌がもどかしく這い回り、
微かに甘噛みされる感覚にはいつまでたっても慣れはしない
「…ふっ」
首筋へと下がった唇に声が上がる
強く吸い付かれ、赤い花が咲いた
「…家康」
腰の疼きと甘い痺れ
縛り上げられた雄からは先走りが溢れている
熱を持った目で家康を見上げれば息も出来ないほどの口付けが降ってきた
絡まりあう舌が、
交じり合う吐息が、
気持良い
唇を離され、間を伝った銀の糸を舐め取った
「三成は淫乱だな」
楽しそうに笑う家康に
自由を奪われた腕を取られる
痛みに目を瞑れば窓際の柱に縄を括られた
「他の者にもそんな目をしているのか?」
冷たい瞳に見据えられ熱が上がる
「誰がお前の飼い主か、」
きちんと躾なければな
その言葉に背が冷えた
恐怖を感じながらも、それを待ちわびている自分が居る
家康の手が、声が、瞳が、
思うままいたぶるのに興奮する私が居る
全てを家康に奪われたいと思っている
浅ましく熱を上げる体も、
欲しがってばかりの心も、
ぐちゃぐちゃに踏みにじればいいと思う
家康の中で、私が一番大きな存在になればいい
腿に当たる冷たい感触に目をやれば短い竿のような物で体を撫ぜられる
それが何か分からず家康を見上げれば
優しく微笑まれた
「これは鞭と言って南蛮から取り寄せた品だ」
さわさわと位置を確かめるかのように
丁寧に竿を動かされる
もどかしい刺激に身をよじった
「これは本来家畜などを調教する為の物だそうだ」
その言葉が終わらない内に刺さるような痛みと破裂音が響いた
びりびりと痛む腿を見れば赤い線から血が滲んでいる
「これで打たれているお前は、家畜と変わらないと言う訳だな」
興奮した瞳で家康が笑う
楽しそうに、
冷酷に、
残酷に、
どこまでも無慈悲な瞳が私を映している
「血が滲んでいるのに、感じているのか?」
「…っ!」
立ち上がったままの雄を握られ体が震えた
「躾だと言っているのに、三成は本当に淫乱だ」
痛む足に何度も鞭を振り下ろされる
「ん゛っ!あぁ゛っ!」
患部は熱を持ち敏感になっている
口の端から涎が零れ
あまりの痛みに涙が溢れた
足から腹へ
腹から胸へ
徐々に上がっていく鞭に、痛みに、身悶えた
「そんな風に涙を流して、
甘い声ばかり上げていては躾にならないじゃないか」
「う゛ぁっ!あんっ!」
熱に浮かれた顔で家康が笑っている
目の奥で暗い炎が見えた気がした
ひどく心が掻き乱された
「いえ、やすっ」
鞭を手放した家康が私の血を舐め取っていく
僅かな刺激にも痛みと快感が走る
「三成の血は、甘いな」
ぴちゃぴちゃといやらしく音を立てて、
一滴も残すまいとするように執拗に舐められると
もうそれだけで達してしまいそうだった
「だめだっ、んんっ!」
決して雄には触れずに流れた血を、
痕の無い肌を舐め上げる舌に頭がおかしくなりそうだ
「…っ、いえやすっ、もうっ」
「仕方ないな、いいぞ」
そう言い終わると熱い口内が雄を飲み込んだ
「ふあっ!んっんんんぁっ!」
その瞬間に吐き出された欲を家康は味わうように飲み下した
「っ、いえやす…」
それを呆然と見つめているとにっこりと微笑まれ、
優しく額に口付けられた
「よく耐えたな、偉いぞ三成」
ゆっくりと縄を解いていく手に僅かな喪失感を覚えた
もっときつく縛って欲しい
もっと強く嬲って欲しい
もっともっと奪われたい
だが、縄を解き終えた手に
ことさらに優しく包み込まれるのが、
たまらなく嬉しくて口をつぐんだ
「傷の手当をしなくてはな」
部屋の隅に置かれた薬箱を手にした家康が
楽しそうにそう言うのを残念に思った
醜く傷が残ればいい
家康がつけたこの傷が、消えなければいい
「痕が残ればいいと思うワシがいるが、
…お前の肌は本当に美しいから、
痕が残らなければいい、とも思うんだ」
矛盾しているな、と笑う家康が
本当に大切そうに肌を撫でるから
どちらでもいいような気になった
黒い炎は激しさを増し
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