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長曽我部元親と名乗った男はひどく煩い。

やれ飯を食え、俺に触るな、夜はちゃんと寝ろ、
四六時中かしましくそんなことばかり口にする。

「じゃ、俺学校行ってくっから」

「がっこう、とは何だ?」

「あー………物を学ぶとこだ」

「……貴様のような男が物を学ぶのか」

「大概失礼だよな、アンタって」

荷物をまとめ軽快な足取りで部屋を後にする元親は楽しそうで、
こちらに来てからは良い思い出のない外の世界にほんの少しだけ興味を覚えた。



ごちゃごちゃと建物ばかりの街並み。
溢れかえる人の群れ。
道を走る鉄の乗り物。
狭い空と少ない緑。
空気の悪い場所だ、

「…………はっ、はぁっ」

そして、人間の女は恐ろしいと学んだ。

耳ざわりな甲高い悲鳴を上げ、私を捕まえようと伸ばされる手。
化粧や香水の匂いがひどく鼻につく。

振り払おうと走っても、人が多すぎて速く走れないことがもどかしい。
かかとの高い靴でよくもまぁこれだけ速く走れるものだと感心するほどに、
女たちは熱心に、狂信的に私に追いすがっていた。

(くそっ、来るんじゃなかったッ……!)

見ず知らずの世界で、頼れる相手もおらず、ただ無力に逃げ惑う。
情けなくて、みっともなくて、それ以上に恐ろしかった。

(誰か…誰かっ…、元親……、助けろ元親……っ!)

疲れからか、恐怖からか、息が上がる。
もつれそうになる足を必死で動かし、早くあの部屋へ帰りたいと願った。

「ッ!」

人込みの中で見知った銀髪が目に留まった。
群がる人々をかき分けて、手を伸ばす。

「元親っ!」

私の声に振り向いた元親の呆気にとられた顔を見れば、
安堵のあまり涙が出そうになってしまった。






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