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「ッ〜〜」

「ん……」

見ず知らずの不審者がやってきたかと思えば、
キスをするぞとのたまい唇を奪われました。

例えば友達がそんなことを言ったら笑うだろう。
だがしかし、それが冗談でもなんでもないから笑えない。
そして現在進行形で自分の身に起こっているのだからさらに笑えない。

目の前で目を閉じ唇を重ねる男を振りほどこうにも、
今度は首にかけたタオルをしっかりと握られているせいでそれも出来やしない。

「………ぷはっ」

「…………チッ、最悪だ」

時間としては2〜3秒。
男の顔が離れていくのを見ながらごしごしと唇をぬぐう。

「……アンタ、ほんと何なんだよ」

くそッ、と悪態を吐いて忌々しげに呟く。
不審者がどうの、不法侵入がどうのと言いたいことは山ほどあった。
だが、頭が追い付かないのが現状だった。

「私は石田三成だ」

そういうことじゃねぇ。
何なんだとは聞いたが、別にそれは名前を訪ねたわけじゃねぇよ。

「おい、人に名を訪ねたら自らも名乗るのが礼儀だぞ」

テメェに礼儀を問われるとはビックリだ。
この犯罪者め。

なんて余計な言葉は飲み込んでこみ上げる怒りを堪える。

「……そりゃ悪かったな。だが、あいにく不審者に名乗る名は持っちゃいねぇんだ」

「そうか、それより私は眠い。寝床を借りるぞ」

「ああ゛!?ちょっ、おいっ!」

もそもそとベッドへ入り込み、安らかな寝息を立て始めた男に舌打ちを脱力する。

「……ぁー。もういい、チクショウ」

わしわしと頭を掻き、男の眠るベッドの横へ座り込む。

こうして改めて見れば男のまつ毛が長いこと、顔が整っていること、
色が白いこと(白すぎて顔色が悪い)、ひどく細い体をしていることが分かる。

(キレーな顔してんなぁ……)

興味本位で伸ばした手に触れた髪は、
自分のくせっ毛とは違ってすんなりと指から零れ落ちた。




「………腹が減った」

「……アンタ他に言うことぁねぇのか」

目を瞬かせ、億劫そうに起き上がる男はひどく艶っぽく、
どっかのヤクザの色でもやってたのかとふと思った。

「何か食うか?つっても碌なもんねぇけどよ」

「……いらん。貴様がいればいい」

「あ゛?」

胸ぐらを掴まれ、そのまま唇が重なる。
今日一日で何回この男とキスしなきゃなんねぇんだ、
と思いながら、男の胸元を押し止めさせる。
眉間にしわが寄るのを自覚しながら深いため息を吐いた。

「……悪いが俺は男とキスして喜ぶタマじゃねぇ」

「そうか」

「だから、金輪際俺にキスすんな」

「無理だ。死ぬ」

「死ぬな!無理じゃねぇ!」

「それは人間の道理だろう?私は淫魔だ。生気を摂らねば死ぬ」

「……は?………ぁー、あ゛?」

「私は人ではない。淫魔だ」

「……………」

(こいつアレだ、あの、電波さん?)

「ここは居心地がいい。女に追われることもない。
私はここが気に入った。しばらく世話になる。よろしくな」

笑顔の一つもなくそうのたまった男の目に、
嘘を吐いている気配はうかがえない。

(…………もうヤダ)

俺の心の中の嘆きはため息になって部屋に響いただけだった。






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