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ピピピ、と耳ざわりな音を立てる四角い板を眺める。
これだけ耳ざわりな音で起きない男を見ていると何だか無性に腹立たしくなって眉間にしわが寄る。
幸せそうな顔で寝息を立てる男を睨み付けたまま声をかけた。

「おい、起きろ」

「………んー」

「起きろと言っているッ!」

「………………あと一時間」

「ふざけるなっ、起きろッ!」

未だ鳴り続ける板を男の顔にぐりぐりと押し付け、
嫌がるように枕を抱きしめる男から布団をはぎ取った。

「さっさとその耳ざわりな音を止めろッ」

「……………」

けだるそうに開ききらない瞳で板を眺め、男が板に触れる。
それだけであれだけうるさかった音が鳴り止んだ。

「おい、起きたならキスをするぞ」

「…………ん゛、風呂ー」

私の言葉を聞いているのかいないのか、
あくびを噛み殺しながら男が風呂場へと向かう。

「おいっ、貴様っ!待てッ!」

「うるせぇなぁ……」

こちらを振り返ることもなく風呂場へ行ってしまうと、すぐに中からシャワーの音が聞こえた。

怒りをぶつける相手もいなくなり、座り込み手持ちぶさたにあたりを見回してみる。
狭いワンルームにクッションと机と大きなベッド。
小さな冷蔵庫のあるキッチンは使われた形跡がない。

昨夜は男が眠ってしまった後自分もすぐに眠ったので気付かなかったが、
人の住む場所とはもっとごちゃごちゃ汚れていると思っていたから
男の住むこの簡素な、というより質素な部屋には少しばかり驚いた。

ぐぅ、と小さく鳴った腹の音にため息を吐きだす。

「…………腹が減った」

正直なところ動くことも億劫になる程度には腹を空かせていた。
このまま目を閉じたら死ぬんじゃないか?とぼんやりと思う。
くぐもったシャワーの音を聞きながら、それも悪くないと思う。

そんなことを考えているとシャワーの音が止み、男が顔を出した。

「ぅお………」

座り込む私をしばらく見つめたかと思うと、夢じゃねぇのか…と呟いた。

髪から水滴をしたたらせながら男がそばまで歩み寄る。
しゃがみこみ、まじまじと顔を見つめたかと思うと首をかしげ、

「なぁ、アンタ誰だ?」

不思議そうな顔でそうのたまう男の肩を掴み強引に引き寄せた。

濡れた髪から落ちた水滴が顔にかかる。
触れた唇は案外柔らかく、手が触れる肌は白く滑らかだった。

「……っ、な、にしやがるッ」

我に返った男に突き飛ばされ、机にぶつかり息が詰まった。

「…っ、言っただろう。キスをするぞ、と」

「アンタ、何なんだよ………」

怒っているような、困惑しているような顔の男を眺めながら自らの上唇をペロリと舐める。
実際男は突然の行為に怒っているし、困惑しているのだろうと推測する。

だが私は、まだ腹が減っていた。






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