手記
6
主を連れて関ヶ原から逃げた
一族がどうしているかは分からない
おそらく次の頭領が立っていると思う
明日は町に行こうと思う
主が笑っている
少しも嬉しいと思えない
寂しい
ゆっくり休んで、主の傷を癒したい
子どもにも、大人にも石を投げられた
「出て行け」「鬼子め」「災いの元は消えろ」
ずっと忘れていた
そうだ、この髪は忌み嫌われるものだった
主もこの髪で不遇を受けたのだろうか?
主がずっと笑っている
夜はひどくうなされる
抱きしめていれば眠ってくれる
苦しくてたまらない
次の町では主だけでも受け入れて貰えたらいいと思う
主の生まれた町でも罵声を浴びせられた
鎌や鍬を持って殺そうとしてくる町民から逃げた
関ヶ原で勝ち鬨も上げず逃げ出した
徳川家康は死に、主は不在
戦場は混乱を極め、今も諍いは続いているらしい
そんな当たり前のことも分からなかった
疲れているのだろうか?
どんな場所でも構わないから、
主に野宿以外の寝床で眠って欲しい
人の居る町は危険だと判断し山に入った
出来る限り人に出会わないように奥深くまで進む
意識のあやふやな主を支えながらだと思うように進めない
途中、主が崖から落ちそうになる
肝が冷えた
主のこんな笑顔を見たくない
涙が溢れる
悲しい時や嬉しい時に涙は出るのだと氏政様に教えてもらった
主と一緒なのに、俺は悲しいのだろうか?
今日は主がうなされずに眠ってくれた
例え寝言でも、
「殺せ」「秀吉様申し訳ありません」「家康」「殺してくれ」
そんな言葉を聞き続けるのは苦しい
主が元に戻る日は来るのだろうか?
いや、来なくても主は主だ
俺は主を守る
それだけだ
もう関ヶ原から逃げ出して九日が経つ
少しでいいから、ゆっくりと休みたい
←/5
/7→
←三成部屋
←BL
←ばさら
←めいん
←top