手記 7











山の中で打ち捨てられたあばら家を見つけた
しばらく、せめて主の傷が癒えるまでここに留まろうと思う
中は案外荒れてはいなかった
これなら主をゆっくりと休ませられそうだ
山で採った山菜で飯を作る
主にはきっと質素だったろうに、
「ありがとう」「美味い」と言ってくれた
嬉しい
主が眠ったのを確認し、近くに何があるか調べた
幸い、そう遠くない場所に沢を見つけた
外で火を焚いて夜を越す
いい場所を見つけられて良かった
疲れた


山で採ってきた薬草で主の傷薬を作った
その時にこちらを眺めていた主は、
今までの虚ろな笑みとは違って、楽しそうに微笑んでいた
主のこんな笑みを見るのは久しぶりだ
とても、とても、嬉しくなった
今日も質素な飯だ
主に申し訳無い
外で火を焚き、今日は主の隣で眠ることにする
どうか、主がうなされずに眠ってくれますように


夜中に眼を覚まし、秀吉様、と泣きじゃくる主を抱きしめる
すまない、すまない、と何度も謝られた
苦しい
どうしたら主の心は癒されるのだろうか?
俺には何も出来ないのだろうか?
北条に戻らず、主の側に居続けたのなら、
主は壊れずに済んだのだろうか?
分からない
分からない
主が好きだ
どうしたら主の心を守れるのだろうか?
人になりたい
主の痛みが俺には分からない
主を抱きしめて一夜を明かす
主と一緒に居るのに寂しい
俺は間違っているのか?
もう何も分からない
一晩だけでも、ゆっくり眠りたい


主と沢に下りた
主の体を水で荒い、前の町で盗んだ着流しを着せる
主にこんな物を着せることを申し訳無いと思う
俺はどうすれば良かったのか、ずっとそればかり考えてしまう
俺も盗んだ着流しに着替え、主を抱えあばら家へ戻る
主が外に咲く花を見て楽しそうに笑っている
主が笑うなら、それでいい
俺は主を守れているのだろうか?
主に抱きしめて欲しい


主が好きだと言ってくれた
嬉しそうに笑いながら、好きだと言ってくれた
とても嬉しい
俺も主が好きだと言いたい
声が出せないことを初めて恨んだ
主の手に好きですと記せばまた笑ってくれた
こんな毎日が続けばいい
主がうなされずに眠れるようになればいい
安心して暮らせる場所に連れて行けたらいいのに
そんな場所があるかは分からないけれど、
強く強くそう思った









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