手記 4











主の寝顔は綺麗だと思う
真っ白な肌に銀の髪
涼しげに、整った顔をしていると思う
氏政様の護衛で以前に見た傀儡を思い出す
美しく舞った人あらざる者
あの時は何も感じなかったが、
今思い返せば確かにあれは美しかった
氏政様がすごいすごいと涙を滲ませていた
その意味がほんの少し分かった気がした
鼻先を寄せて呼吸があるかを確かめた
主が生きていて良かった


主が撫でてくれるのが好きだ
主が抱きしめてくれるのが好きだ
主が名前を呼んでくれるのが好きだ
主と一緒に居るのがたまらなく好きだ
主は刑部と仲直りしたらしい
許しを貰ったと言っていた
主が笑っている
俺はとても嬉しい


主が城下に連れ出してくれた
たくさんの人が居た
みんな楽しそうに笑っていた
俺が尾を振れば主も嬉しそうに笑った
団子を貰った
甘くて、何だか嬉しくなった
これが美味いということだろうか?
どんな場所でも、俺は主と一緒なら何だって嬉しい
主と一緒に居ると温かくなる
暗くて、寒い夜が明けた時のような気になる
よく分からないけれど、
幸せとはきっとこういうことなんだと思った


主が嬉しそうに抱きしめてくれた
半兵衛様に褒められたと言っていた
主が嬉しそうで俺も嬉しい
たくさん半兵衛様の話をされた
幼い頃に秀吉様と半兵衛様が取り立ててくださったと言っていた
勉学を教えてくれたり、鍛錬の相手をしてくれたらしい
俺も主の役に立ちたいと思った
俺も主にこんな風に好きになって欲しいと思った
だが、人未満の俺には無理な話だ
生まれて初めて人になりたいと思った


主に出会ってたくさんの感情を覚えた
俺が錯覚しているだけかもしれない
それでも、俺にとっては初めての感覚ばかりで戸惑う
でも、悪くないと思う自分が居る
主に感謝を伝えたい
どうしたら伝えられるのだろう
言葉があったら伝えられるのだろうか?
声の無いこの体を初めて疎ましいと思った
人になりたい
姿形だけではなく、心のある人間になりたい
主と同じように、
笑って、怒って、泣けるような人になってみたい
まだまだ分からないことはたくさんあるけれど、
主や他の人と同じように、たくさんの感情の有る人間に、
胸が焦がれるようにちりちりとする
これが憧れというものだろうか?
俺は、主と笑い合えるような人になりたい






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