犬と私の一つの約束 9











夢を見ていた
現実感の無い、ひどく安らかな夢を

小太郎と二人で、小さな家で、他愛無い日常が過ぎる
森の中のこの家は誰が訪ねてくることも無い
ただ、同じ毎日が繰り返されるだけだ

幸せだと思った

厨に立つ後姿
薬草を磨り潰す動作
横で眠る穏やかな顔

まるで夢の中に居るようだと思った

だが、これが夢ならば、
なぜ私は未だ秀吉様にお会いすることが叶わないのだろう

家康を討った報告も、
許しを請う許可も、
私はまだ何も秀吉様にお伝え出来ていない

だが、それでもいいような気がしてくる

小太郎が穏やかな笑みを口元に浮かべると、
たまらなく満ち足りていると思える

許しなど、初めからありはしなかったのだと思う

「小太郎、小太郎、好きだ」

着流しの袖を引き、肩口に頭を押し付ける
昔に小太郎がこんなことをしていたな、とぼんやりと思った
穏やかな笑みをたたえたまま、
小太郎が優しく抱き寄せてくれる

ああ、本当にどこまでも都合のいい夢だ

「小太郎、小太郎、私を殺せ…」

私を抱きしめる手を取り、
ゆっくりと首元へ導いていく

「小太郎、来世では、きっとずっと一緒に居よう」

何だか辛いことがあった気がする
思い出したくも無いことが、たくさん合った気がする

小太郎の頬を伝う涙に目を閉じる

少しずつ絞まっていく首
掠れた呼吸音
小太郎の震える指先

こんな夢を見る資格は、私には無い
それでも、とても幸せな夢だった

意識が途切れる瞬間まで、私は笑っていたような気がする






←/8 /10→
←三成部屋
←小太郎部屋
←BL
←ばさら
←めいん
←top