Happy   Birthday   side/元親











「まぁ、こんなもんか!」

「ごみを捨ててくる」

「休憩してからでいいじゃねぇか」

ごろりと寝転がったフローリングはひんやりとして、
荷物運びで温まった体には調度いいくらいだ

「今も後も大して変わらん、行ってくる」

ドアを開け出て行く三成はずいぶん痩せた

一緒に住み始めた当初はひどいものだった
元々が小食だった上に少し食べても吐いてしまっていた
夜もよく眠れず、眠れたとしてもうなされて飛び起きていた

大丈夫か?と差し出した手に、狭い部屋の中ですれ違うことに、
肩を震わせ、真っ青な顔をして、可哀相なほどに怯えていた

それでも、ひと月も一緒に暮らせば次第に慣れていったようだった

まだ俺以外の人間に近付かれるのは恐怖があるのか、
あれだけ突っかかっていた家康にも近寄ろうとしない

あんなに慕っていた豊臣や竹中からも距離を置いた

殴り愛だなんだと言っていた真田を避けるようになった

この間の飲み会だって、始まって30分もしない内に帰ってしまった
人との距離が近い場所自体に拒否反応が出るようになってしまっているようだった

あれだけ豊臣と竹中に師事出来ることを喜んでいたというのに、
今やもう大学に行くことさえ精神的に辛いのか、
家を出る時には青い顔をしてフラフラとおぼつかない足取りだ

必死で日常を送ろうとする三成は痛々しい

今の三成の行動は前とは何もかも違っているというのに、
三成はそれでも前に戻ろうと、戻りたいと、精一杯行動しているのだ

頑張れば頑張るほど辛くなっていく
忘れたいと思えば思うほど強く焼きついていく

見ているだけでも分かるそれらを、
三成はどれほどの痛みに耐えながら生きているのかと思う

「長曽我部、昼はどうする?」

戻ってきた三成の顔を見て、引越しをして良かったと思った

いつも怯えた瞳をして、緊張して強張った体
何かあればすぐに、すまないと搾り出される掠れた声

駅からは遠いが、家賃も安く、明るく広い2LDK
これならば二人で住んでも部屋は別々に出来ると思い下見の時点で即決した
少しでも三成が楽に生きられる場所を求めた

環境の変化か、久々に体を動かしたからか、
三成の表情はどこかすっきりと晴れやかだ

「あー、この辺なにあるか見るついでに外で食おうぜ」

「分かった」

お互いに上着を羽織り外に出る
冷たく吹き抜ける風に思わず身震いした

「三成は何食いてぇ?」

「何でもいい」

「お前そればっかしじゃねぇか……」

「貴様は何がいいんだ?」

「そうだな、せっかく引っ越したんだし蕎麦でも食おうぜ」

とりあえず、と駅前へ向かって歩き出す
少し後ろを歩く三成を気にかけながら、静かな町並みを眺める

近くを流れる川の音
長く続くいちょう並木

振り向けば三成と視線が絡み合う

眩しいほどの日差しを浴びて輝く銀髪
深く澄んだ金緑色の瞳

冬景色の中にすっぽりと収まったその姿は、
言葉も出ないほどにどうしようもなく美しかった

「どうした、長曽我部?」

「……いや、何でもねぇさ
いい町に越してこれてよかったな」

振り向いた俺の前で立ち止まった三成に笑ってみせる

「そうだな」

機嫌がいいのか、三成もかすかに笑った
その少し痛々しい印象を与える笑顔に切なくなる

「寒ぃしさっさと行くか」

「ああ」

ゆっくりとした足取りで、他愛も無い話をしながら並んで歩く
そんな普通のことが、こんなにも幸せだなんて知らなかった

これから、三成の笑顔を守っていけたらと強く思った






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