Happy   Birthday   side/孫市











がやがやと煩い店内にため息を漏らす
大人数の飲み会は嫌いではない
が、あまり騒がしすぎると鬱陶しくなる

隣に座るのが前田だと余計にそう思った

「孫市姉様、次はどうします?
私はこのタピオカが入っているのにしようと思っています!」

前田とは逆の隣でメニューを眺める鶴姫に視線をやり、
可愛らしいカクテルを選ぶ姿に心が和んだ

「そうだな……
私は日本酒にしよう」

「分かりました!
すいませーんっ!!」

残りもわずかになったグラスに口を付け、喧騒を聞き流しながら酒を飲み干す
各々が声を上げる中、青い顔をして嫌に静かな石田が目に入った

いつもならば徳川につっかかりぎゃんぎゃん吼えているというのに、
隣に座る元親にそっと耳打ちするとそのまま席を立ってしまった

「あ、孫市グラス空いてるじゃん!
鶴姫ちゃんも、次は何飲むんだい?」

「もう頼んだ」

ニコニコとメニューを差し出す前田を見れば上機嫌に笑っている
元来こういった集まりが好きな前田には、
きっと楽しいことこの上ない場なのだろう

「石田さん、なんだか今日は静かでしたね」

「……そんな日もあるんだろう」

「うーん、お腹でも痛かったんでしょうか?」

「あー、三成なんか最近付き合い悪いんだよなぁ」

「お前が鬱陶しいんじゃないのか?」

そりゃあないよと喚く前田から視線を外し、運ばれてきた酒をおちょこにそそぐ
冷えた酒を一気に煽れば、ほのかな甘みと共に酒の匂いが鼻から抜けた

「でも、石田さんが静かだとなんだか変な感じです」

「なーんか調子狂っちゃうよなぁ」

心配そうな顔をする二人の会話を聞きながら、
元親をちらりと窺えば至極楽しそうに笑っていた

人一倍そういったことを気にする男だと思っていた分、
その憂いの無い笑顔が少し以外だった

「元親は三成とばっかつるんでるしさー
遊んでくれる暇な人が減っちゃって困っちゃうよ」

「前田さんは遊んでばっかりです!
学生の本分はお勉強なんですよ!」

「いやぁ、遊んでられるのなんて今の内だけじゃない?
ほらほら鶴姫ちゃん、細かいこと気にしないで飲んで、飲んで!」

姫の言葉が耳に痛いのか流そうとする前田も、
勧められるままにグラスを空ける姫も、
何だかんだと言いながら結局は楽しんでいるのだろう

明るくよく笑い、いい酒だと思った

「おうサヤカ、鶴の字、飲んでるか?」

自分のグラスを片手に、元親が前田の横に座る

「何だよー、俺には聞いてくんねぇの?」

「てめぇは聞かなくたって飲んでんだろうがよぉ」

じゃれる前田をいなしながら元親が笑う
それを横目に酒を空けていく

「元親最近付き合い悪いんだもんよー
三成も佐助もさー
あんまり寂しいと俺死んじゃうよ!?」

元親に抱きついたまま前田が喚く
元親も鬱陶しそうに苦笑しながらも引き離すことは無い

「そういえば元親、引越しの日は決まったのか?」

「え、なに?元親引っ越すの?」

「まあ!私、バヒュッとお手伝いに行きますよ!」

「来週あたり、な
まぁなんとかなっから大丈夫だ」

姫と前田の言葉を笑顔で流しながら元親がこちらを見る
顔は笑っているというのに、その陰にわずかに怒りが透けて見える

あごで外を示した元親が立ち上がるのを黙って後に従った

「サヤカ、引越しのことはいいんだがよ、
………三成も一緒だってぇのは言うなよ?」

「……言うなというのなら言わない
だがなぜだ?
別に友人同士で部屋を借りることにおかしな点はないだろう」

「………いろいろあんだよ」

楽しそうに口元を歪めて笑う元親に言い知れぬ不快感を感じた

子供が虫の足を千切るのを見ているような、
無邪気で残酷な、ただ純粋に楽しんでいる笑顔

「元親?」

「あぁ?どうした?」

「……いや、なんでもない」

「じゃあ、そこんとこよろしくな」

「ああ」

のそりとした遅い足取りで店の中へと入っていく背中を見送った
気付かぬうちに握りこんでいた拳は爪が手のひらに食い込んでいる

例えるならば猛禽類
絶対的な捕食者の目をしていた

長い付き合いだと思っていたが、あんな顔は初めて見た

お人よしで器用貧乏な男だと思っていた
昔は泣きべそをかきながら後ろを付いて回っていた

もう、あの頃の元親は居ないのだと、そう思った

「………哀れだな」

元親と一緒に住むという石田を思うとため息しか出なかった






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