Happy   Birthday   side/佐助











「ねぇちかちゃん、最近石田の旦那とえらい仲いいねぇ」

「あぁ?前からだろぉが
つうか、ちかちゃんは止めろ」

「……ふぅん」

「ちったぁ聞けよ」

「大丈夫、聞いてるってちかちゃん」

「この野郎……」

呼び名を嫌がるように不機嫌そうに眉を寄せた鬼の旦那から目を逸らす

明らかに最近の二人は親しすぎる
石田の旦那は何かにひどく怯えているように見えるし、
あんなに慕っていた豊臣先生にも竹中先生にも笑わなくなった
何よりも、そんな石田の旦那を見る鬼の旦那の視線が気になった

薄ら笑いを浮かべながら、さも楽しいと言った顔で友人を見るだろうか?

石田の旦那に見えないように浮かべられたその顔に、
言いようのない、薄ら寒い気持ち悪さを感じたのだ

友人に対してそんなことを感じた自分をどうかと思ったけれど、
本能的な不快感を拭い去ることがどうしても出来なかった

だからといって石田の旦那に尋ねたところで俺様に何か言ってくれるとは思えない

あはー、俺様嫌われてる?とか思うことのほうが多いわけで……
そんな相手に尋ねてわざわざ溝を深めるつもりは無い
俺様そこまでお馬鹿さんじゃないからね

「…あんまり石田の旦那のこといじめないでねー?」

「……あ゛ぁ?」

分かりやすい探りの入れ方だと思ったけれど、思ったよりも反応は上々
底冷えするようなおっかない目付きで睨まれる

ゾクゾクと背が粟立つような感覚に、
貼り付けた作り笑いの下で身震いした

「うちの旦那の大事な友達なんだからさー」

「……」

微かな不信感を持った視線にじっと見据えられる

何を考えているのか検討もつかない無表情
この男のこんな顔、他に一体誰が知っているというんだろう

いつも明るく、陽気に、豪快に笑う
おせっかいで、子供っぽくて、大らかで、達観している

そんな認識を、一瞬にして無に帰すような能面みたいな顔

俺が今まで見てきた友人は、本当にこの男だったのかも曖昧になるようだった

同じ顔をした別人ですよー、なんて言われても信じてしまいそうな程、
今まで感じていた印象も、感情も覆される

この男は危険だ、と本能が告げる

「…俺が三成をいじめるわけねぇだろぉが」

いつもどうりのアニキな顔を貼り付けて鬼の旦那が笑う
俺も貼り付けたままの笑顔でそれに答える

「だよねぇ、ごめんごめん」

「ったくよぉ」

もう、このことには係わりたくないと思った
軽い気持ちで探りを入れたことを後悔した

これからも鬼の旦那と、今までのように友人でいられる気がしなかった

「あ、そーだ、お願いがあるんだけどさぁ
またシルバーアクセ作ってくんない?
ブレスがいいなーとか思ってるんだけど」

努めて明るい声を出して、いつもどうりを装う

不信感なんて感じていませんよー、
こいつ危ねーなーとか思ってませんよー、
みたいな顔をしながら、心の中は逃げ出したくて堪らなかった

「おう、デザインとかは考えてんのか?」

「んー、ちかちゃんセンスいいしおまかせで」

「だからちかちゃん止めろっつうんだ
ブレスか……まぁ、一週間か二週間くらいで出来ると思うぜ」

「よろしくねー
ついでに友達割引きとかして欲しいなー、なんて」

「………今度何か奢れよ?」

「わーい!ありがとー
もう、ちかちゃんホントアニキ!」

苦笑する鬼の旦那とヘラヘラ笑う俺様

大丈夫、大丈夫、いつもどうりに出来ている
いつもどうりに笑えている

「ん、もうこんな時間か…
俺もう行くわ、じゃあな」

「はいはーい、またねー」

ガタリと席を立つ鬼の旦那にホッと息を吐く
ガリガリと頭を掻くその姿はあまりにも普通で、
今まで自分が感じた不信感との落差が不思議だった

「……あぁ、猿飛」

「んー?」

首だけをひねってこちらを見る鬼の旦那の顔に張り付いた薄ら笑い
いつも石田の旦那を見ている時の、不快感を感じる笑顔

見なければよかったと思いながらも目を逸らせない

「………三成に、余計なこと吹き込むんじゃねぇぞ?」

ニヤリと口元を吊り上げて、鬼の旦那が楽しそうに笑う

「…………」

ひらひらと片手を振りながら去っていく後姿に、
いつの間にか止めていた息を吐き出した

背中にはじっとりと冷たい汗をかいている

「佐助ェ!待たせた!」

ばたばたと走りよってきた真田の旦那に心の底から安心した
隣で今日の夕飯の話を始める旦那が、今はありがたかった

「佐助、どうした?」

返事を返さないことをいぶかしんだのか、
不思議そうに顔を覗き込んでくる旦那にへらりと笑ってみせる

「何でもないよ
じゃあ夕飯はハンバーグにしますかー」

「うむっ!」

もう石田の旦那にも、鬼の旦那にも、
自分からは極力係わらないでおこうと思った

今までどうり、いつもどうりに接する
不信感なんて抱かせない
そう努めようと心に決めた

鬼の旦那の冷たい笑顔を思い出してゾッとする

薄情かもしれないけれど、
石田の旦那よりも、隣で笑う真田の旦那のほうが俺には大切なんだ






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