Happy   Birthday   side/半兵衛











最近の三成君はおかしい

以前から人との距離は遠かったように思う
それでも、三成君が大切に思う相手にはそれなりの距離感で接していたはずだ

「三成君、そこの書類を取ってくれるかな?」

「っ!……はい」

声をかければビクリと肩を震わせ、
手渡そうとする動作はひどくぎこちない

「ありがとう」

「……いえ」

以前ならこれだけで晴れやかな笑顔を見せていた
それが今ではひきつったような硬い表情しか浮かばない
今の彼は極端に人との接触を拒んでいるように見える

その姿はまるで敵に怯える小動物のように

俯き、決して合うことのなくなった視線
前にも増して青白く血色の悪い肌
くっきりと残る深い隈
いつも緊張しているように強張った体

「……ねぇ三成君、何か悩み事でもあるのかい?」

「…ッ、いえ!何も、ありません」

真っ青になって必死に首を振る三成君に、
本当に嘘の吐けない子だと思いながら苦笑する

そこまで言いたくないことならば無理に詮索をしたくはない

僕相手に、吐けもしないない嘘を頑張って吐こうとするのなら、
きっとそれ相応の理由があるのだと分かっているから

「…すみません、失礼しますっ!」

泣き出しそうな顔でばたばたと出て行く背中を見送った

「………半兵衛」

咎めるような声に振り向けば、
少しだけ責めるような秀吉の視線が刺さる

「…大丈夫、無理に詮索したりはしないよ」

「……三成が自分から言い出すのを待ってやればよい」

「そうなんだけどねぇ
いつもは悩みがあったらすぐ言ってくれるんだけど、
今回は吉継君にも相談していないみたいだし……
……あんなになるまで、何を悩んでいるんだろうね」

「…三成の悩みがなんであれ、受け止めてやれば良いだけだ」

ふぅ、と漏れたため息

秀吉の言いたいことは分かっている
無理やり聞き出しても意味がないことも、分かっている

純粋な尊敬の眼差し
愚直なまでの誠実さ

彼の真っ直ぐすぎる期待に、どれだけ救われたか知れない
彼が気付かぬままに、何度助けられたか知れない

「………それでも、心配なんだよ」

そんな彼が思い悩んでいるというのに、
何の力にもなれないというのが、悔しくて、苦しいんだ

あんなに良い子を僕は知らない
あんなに優しくて、馬鹿な子は他にいないと思う

一杯の信頼を寄せられることの重さを教えてくれた
その他者からの視線で強くなれることを教えてくれた

心からの敬愛に自信と力を貰っていたんだ

「堪えることも親心の内ではないのか?」

「過保護すぎると自分でも思っているよ
でも、何も出来ないことがもどかしいんだ」

苦い思いを抱えながら秀吉を見詰めれば、
苦笑しながら大きな手で肩を叩かれる

「我らが揺ぎ無く構えていなければ、受け皿には為り得ぬぞ?」

「……分かっているよ」

その大きな手に自分の手を添えてそっと目を伏せる

三成君の悩みが、不安が、早くに消え去れと願う
誰よりも生真面目で不器用な彼が、
また元のように笑えるようになればいい

三成君が静かなままだと、こっちまで調子が狂ってしまうよ

だから、早く相談に来て欲しい
そうじゃないと僕らには、君を助けることさえ出来はしないんだ






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