熱いシャワーを頭からかぶりながらゴシゴシと強く体を洗う
肌が赤く擦れることも構わず、
男の感触を消し去るように強くタオルを擦り付けた
何度も強く洗ったせいでボディーソープが沁みる
全身の皮膚が剥かれたかのようにひりひりした
「………ッ」
足を開き、尻の穴に手を伸ばす
排便をしたのだから、もう男の精液は体内には残っていないはずだ
それでも拭いきれない気持ち悪さに、
自分で指を入れて何もかもを掻き出そうとした
ズプリと指を押し入れ、グチャグチャとかき回す
内蔵をかき混ぜられるような感覚に男を思い出し、
込み上げた吐き気のままに胃の中身をぶちまけた
「…え゛っ、ぅえ゛え゛っ」
朝も昼も抜いたせいか、胃液ばかりが吐き出される
何も吐く物はないというのに、
気持ち悪さは一向に消えてくれない
バスタブにもたれかかり、荒い息を吐き出した
ざあざあと降り注ぐ熱いシャワーが心地好かった
フラフラとおぼつかない足取りで部屋に戻ると、
ケーキも小物入れも掛け布団も、
長曽我部が捨てに行ったのか、全てがなくなっていた
壁に背を預けたままズルズルと座り込む
この数時間の内に、身も心も疲れ果てていた
髪から垂れる水滴が不愉快だった
「上がったか」
ドアを開けビニール袋を片手に、長曽我部が近付いてくる
無意識に下がる余地もない壁に、
ぎゅうと背中を押し付け、
長曽我部から距離をおこうとした
「……悪い
飲み物買ってきたんだが、飲めそうか?」
申し訳なさそうに、離れた位置に座る長曽我部に居たたまれなくなる
悪いのは私だ
長曽我部が謝ることなどない
それなのに、恐怖に強張る体から力を抜くことが出来ない
「……すまない」
「いいってことよ、気にすんな
で、水と茶どっちがいい?」
「………水」
コロコロと転がされたペットボトルを受け取り、
渇いた喉に冷たい水を流し込んだ
「布団とかケーキとか、捨てちまったんだがよかったか?
あと、どこにごみ袋あるか分かんなくて、
部屋ん中いろいろ漁っちまった」
断りもなくすまねぇ
そう言って長曽我部が頭を下げる
その優しさが、今は辛くて仕方なかった
「……三成、あのよ
警察とか、…どうする?」
言いづらそうに、気遣うような眼差しを向けられる
その視線から目をそらし、
床に頭を擦り付けるように頭を下げる
「…誰にも、言わないで欲しい」
「っ、おい三成、顔上げろ!」
「頼むっ……
誰にも、知られたくないッ………」
「分かったから、顔上げろ!」
声を荒げる長曽我部の言葉に、
のろのろとした動作で顔を上げた
「軽蔑してくれていい
もう今後一切関わらなくていい
だから、このことは誰にも言わないでくれっ……」
真っ直ぐに長曽我部の目を見詰め、
喉につかえながら震える声を絞り出す
「……俺は、アンタを軽蔑しねぇ
言って欲しくないなら誰にも言わねぇ
だから、もう係わっちまったんだからよ、
最後まで付き合わせてくれや
……ダチだろ?」
柔らかな苦笑を浮かべ、長曽我部が頭を掻く
その優しさに、もう何度目か分からない涙をこぼした
「……ぅ゛――ッ!」
「おいおい、泣くなよ」
「…ッ、すま、ない゛っ、ぅう――ッ」
ぐすぐすと鼻をすすりながら、次々と溢れ出る涙を止められない
長曽我部の優しさに救われながら追い詰められる
そんなことを言われたら、死ぬことさえも出来はしない
「しばらく俺んとこに来りゃあいい
狭いが、まぁ大丈夫だろ」
「っ……ふッ、ぅ゛っ」
「…アンタは何も悪くねぇ
だから、卑屈になる必要なんかねぇんだ」
「ぅあっ、…ぁ゛っ!」
「アンタが来たら鍋でもしようぜ
俺の作る海鮮鍋は美味ぇぞ
ああ、もうすぐクリスマスだし年越しもあるな
暇なやつらで集まって飲みでもすっか
…なんかこうして思うと、毎年似たような感じだなぁ」
底抜けに明るい口調で語られる未来は、この上なく素晴らしいものに聞こえた
いつもと変わらない明るい日常が見えるようだった
今の私にはあまりにも遠くに感じるそれらが、
惨めさを、絶望感を増長させるように感じられて苦しかった
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