ゆっくりと抜かれていく男自身
それに続くように漏れ出す便の感覚
放屁の音がまぬけに響くのを朦朧としながら聞いていた

腕を拘束していたベルトを外し、
ぽんぽんと頭を撫でながらまた男が鼻で笑う

漂う排泄物の臭いに吐き気をもよおしながら、
本当の惨めさというのが何か分かった気がした

やっと自由になった腕すらも、動かすことが億劫だった

立ち上がり、遠ざかっていく男の足音を聞いた
ガチャリとドアの閉まる音に心から安堵の息を吐いた

未だ体内に残る異物感
全身には気だるい倦怠感

消えない痛みと排泄物の臭いに、
男に犯されたことも、無様に便を漏らしたことも、
全て夢ではなく現実なのだと思い知る

「……」

ずっと拘束されていた手首は、
動かそうとするとひどく痛んだ

それでも、震える手で目隠しを外そうとする

固く縛られたそれはなかなか外れず、
目元をずらすことしか出来なかった

床に散らばった小物入れ
ロウソクの溶けたケーキ
赤く擦れた後の残る手首
乱れた衣服
ベッドの上にあるまじき排泄物

涙が頬を伝うのをぬぐいもせず、
呆然とそれらを眺めることしか出来なかった

「……ッ、……ふッ」

次々と溢れ出る涙
痛みばかりが残る体

「…ぅ゛、……ぅあっ」

起こした体をまたベッドへ横たえ嗚咽を漏らした

「うあああっ、あああぁぁっ!」

自信も自尊心も打ち砕かれ、
後に残るのは深い無力感と絶望感だけだ

「う゛ーッ、あっ、あああぁっ!」

流れ続けるバースデーソングを聞きながら、
子供のように声を上げ泣きじゃくった

もう何も考えたくなかった

ただ声を張り上げ、涙が枯れるまで泣き続けた



泣き疲れていつの間にか眠っていた意識を、
突如として鳴り出したケータイの着信音に呼び覚まされた

ビクリと身を震わせケータイを確認すれば、
白い光が長曽我部という文字を浮かび上がらせている

「………」

何もかも全てが億劫で、鳴り響くケータイをただ見ていた

しばらく鳴り続けたケータイが止まったかと思うと、
ピンポーン――と鳴ったチャイムに、
ぎこちない動作でドアを眺める

数度チャイムが鳴らされ、それが止まればまたケータイが鳴り出す

何度かそれが繰り返されるのを、やはりぼんやりとしたまま見ていた

「三成ー、いるかー?」

ドア越しにかけられた声にビクリと体を強張らせる
部屋の中を見渡し、どうしようとそれだけを思っていた

家康と長曽我部は遠慮なく部屋に入ってくる
何度かチャイムを鳴らすが、
カギさえ開いていれば我が家同然に入ってくるのだ

勝手に入れと言った過去の己も、
カギをかけることをしなかった今の己も、
今ほど呪い殺してやりたいと思ったことはない

「いるなら入るぞー?」

ガチャリと回されるドアノブから視線を外せない
長曽我部の陽気な声とは裏腹に、
目の前が真っ暗になっていく

ドアの向こうに立つ長曽我部を見詰めながら、
終わった―――と思った

「…………」

「…………」

お互いに声もなく見詰め合う
見開かれた長曽我部の瞳を眺めながら、頬を涙が伝っていった

私の涙にハッとしたようにドアを閉めた長曽我部が室内に入ってくる

「……おい三成、大丈夫か?」

困惑した顔をしながら、長曽我部が近付いてくる

「…ひッ!」

伸ばされた大きな手が、
がたいのいい長身が、
男とダブって見えて思わず手を振り払った

パシン、と音を立てて離れた長曽我部の手
驚いたような長曽我部の顔

「………ぁ、」

違う

長曽我部とあの男は違う

頭ではそう分かっているのに、
側に近寄られることすらも恐ろしかった

「す、まない……」

ボロボロと溢れる涙
渇ききった喉ではかすれた声しか上げられない

呆然とした長曽我部を見ることも、
こんな私を見られることも、嫌で嫌で堪らない
死にたいとしか考えられなかった

「……三成、目隠し、外していいか?」

目線を合わせるようにしゃがみこみ、ゆっくりとした調子でたずねられた

恐怖が色濃く残っているが、
自力では外せなかった目隠しを早く取り去りたい一身で頷いた

「……ッ!」

伸ばされた手に身構える
長曽我部の手が目隠しを外していくのを、体を強張らせたまま必死で耐えた

「……あー、っと」

長曽我部はキョロキョロと部屋を見回し、
押し入れからバスタオルを取り出した

「とりあえず、風呂行ってこい
…一人で立てるか?」

心配そうに眉を寄せる長曽我部の言葉に頷き、震える足で立ち上がる
狭い部屋だというのに、バスルームまでがこの上なく遠く感じられた






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