Happy   Birthday   side/三成











部屋の鍵を開けた瞬間、暖かな空気が溢れだした

つけた覚えのない暖房に眉をしかめながら玄関に入れば、
狭いワンルームの室内のベッド脇の床に置かれたケーキが目に入った

ご丁寧にロウソクに火を灯されたそれは、
間違いなく今しがたまで誰かがこの部屋に居たという証だ

「…チッ」

イライラと舌打ちをして、室内に入り込み電気を点ければ、
ベッドの上には綺麗にラッピングされた箱が置いてあった

訳がわからずもう一度ケーキに目をやれば、
チョコプレートには誕生日を祝う言葉が記されていた

そこでやっと今日が自分の誕生日であることを思いだし、
なぜ見知らぬ者に祝われるのだと余計に苛立ちが募った

その苛立ちをぶつけるようにビリビリと箱の包装を破けば、
中から出てきたのは美しい銀細工が施された小物入れだった

中に写真を入れるスペースのついたそれは、
フタを開ければバースデーソングが流れ出す仕組みだった

写真を入れるスペースにはいつ撮られたのか、私の盗撮された写真が入っていた

「ふざけたまねをっ…!」

言い知れぬ不快感と薄気味悪さを振り払うように吐き捨て、
小物入れが壊れることもかまわずに思い切り床に叩き付ける

衝撃でフタが外れ、電子音のバースデーソングが流れ出す

片付けが面倒だと思いながら、荒い息を吐き出した

そのまま顔を上げれば、
外が暗いせいで鏡のようになった窓ガラスに、私の背後に立つ者が写っていた

「誰っ…」

振り向こうとした矢先に足をかけられながら突き飛ばされ、強い衝撃で無様に床に転がった
起き上がろうとするよりも早く背中にのし掛かられ身動きがとれなくなる

「っ、貴様ッ!」

バタバタと暴れてもびくともしない犯人に背が粟立つような恐怖を感じた

頭を押さえ付けられた狭い視界に、
収納用の押し入れが開かれているのが見えた

私が帰ってくる頃を見計らい、ロウソクに火を灯し、
プレゼントをベッドの上に置き、部屋に入ってからの行動全てを、
ずっと隠れて見ていたのかと思い至り先程の比ではない恐怖に襲われる

何が目的なのかも、なぜ私なのかも分からない

私より上背もあり力も強いこの男が、
どんな理由でこんなことをしているのかなど理解出来なかった

逃げ出すことも出来ない強い力に、このまま殺されることを覚悟した

だが私を殺すであろう痛みも、衝撃も、いつまでたっても襲っては来ない
私の上にのし掛かったまま、何をされるでもなく時間が過ぎていく

「…貴様はっ、何がしたいんだ!?離せっ!」

ついにもどかしい恐怖に耐えられなくなり声を上げる

私の言葉をきっかけに頭を押さえていた手は外され、長細い布で視覚を奪われる
床に頭を擦り付けようと一向に外れる気配のない目隠しに不安が膨らんでいく

見えないということが不安になり、更に恐怖は増すばかりだ

カチャカチャとベルトを外す音
頭の上で、両手首を纏めて縛り上げられる感触

「やめろッ!離せッ!!」

限界に近かった恐怖は、腕を縛られたことで許容範囲を越えた
狂ったように大声で叫び、身動き出来ない体で必死に暴れる

一瞬の浮遊感とギシリと軋むスプリングの音に、ベッドへ放り出されたことを悟った

「…ッ、」

仰向けの状態のまま腹に乗られ、上手く息をすることもままならない
犬のように浅い呼吸を繰り返しながら抜け出そうと身じろぎを繰り返す

「……ひッ!?」

まるで、そんなことは無駄だとでも言うように男の手が頬をなぞる

大きく温かい手のひら
荒れた太い指先

壊れ物を扱うような慎重な手付きで、ゆっくりと男の手が肌を撫でていく

言い知れぬ不快感にゾワゾワと鳥肌が立つ

「…やめっ、ッ!」

声を上げようと開いた口を塞がれた
唇の柔かな感触と、ぬるりとした生暖かい舌の入ってくる気持ち悪さに反射的に噛みついた

口内に広がる血の味に吐き気が込み上げる

しかし仰向けの状態では唾を吐き出すことも出来はしない
唇を噛み締め、二度と口内を犯されまいとする
そんな私の反応を楽しむかのように、男は噛み締めた唇を執拗に舐め回した

「…〜ッ、ッ!」

唾液の臭いと不快な行為に首を振って逃れようとするが、
男が頭を押さえ付けたことでそれすらも叶わなくなる

沸き上がる恐怖と吐き気に涙が滲む

「……ッ!?」

依然として唇を舐め回しながら、男の手が首筋をなぞり胸から腹へと移行する
そのままTシャツの裾から侵入した手が肌に触れる

ようやく男の舌が唇から離れたかと思えば、
強引に上着ごとTシャツをたくしあげられ、素肌がかすかな寒さを感じる

肘部分までたくしあげられた服に最早何の意味もない
こんな男の前で無防備な姿を晒しているということが堪らなく恐ろしかった

「…ッ!」

何の前触れもなく、晒された腹部を舐められた

噛み締めた唇からは血がにじみ、先程よりも強い血の味が広がっている
肌の上をなめくじが這っているかのような感覚に気持ち悪さが募る

噛み締めた唇からは血がにじみ、先程よりも強い血の味が広がっている
縛り上げられた手をきつく握り締め、必死に恐怖を押し殺した

飽くことなく、何度も男の舌が体を蹂躙していく

腹筋をなぞるように舌を動かし、へそに舌を差し入れ、脇腹から脇の下までを舐め上げる
男の舌は念入りに鎖骨をなぞり、首筋に口付けを落とす
喉仏から顎を舐めあげられ、そのまままた唇をねぶられる

何度も何度もそれらを繰り返し、時折いたずらに甘噛みされる

唾液が暖房の風に当たる度にわずかに寒さを感じる
乾いた唾液は肌に張り付き、ひきつれたように強張る体が不愉快だ

恐怖に硬直した私の体を舐め回して何が楽しいのか分からない

耳障りな電子音と男の口から漏れる水音に、
不覚をとらなければ打ち倒してやったのに、と恐怖を誤魔化すように歯噛みした

上半身をいたぶり尽くした男が、私のベルトに手をかける

そうしてようやく、このまま犯されるかもしれないのだと悟った

男が男を―――など考えたこともなかった
男が唇を奪った時に薄々気付いてはいたが、信じたくなかった

私が見も知らぬ男に犯されるのだと、思いたくもなかったのだ






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