Happy   Birthday   side/家康











久しぶりに遊びに行った三成の部屋は以前より物が減っていた
がらんとした狭いワンルームは物がないせいでひどく広く見える

まるで誰も住んでいないかのような生活感の無さに一瞬言葉を失った

「……おいおい三成、いくら何でもこれじゃあ生活出来んだろ」

「寝る場所があるならば問題ない」

こともなさげに鼻を鳴らす三成にため息混じりで苦笑する

部屋の中の家具といえば、せいぜいベッドくらいしか目に付かなかった
以前はまだテーブルやテレビなども置いてあったはずだ
しばらく会わない内に何があったのかと首をかしげた

「しかしなぁ……
何でまたこんなに物を捨ててしまったんだ?」

「捨てていない
毎日少量ずつ物が減っていった結果だ」

ベッドに腰を下ろし面倒くさそうに言う三成を見下ろしながら、
その言葉の意味が理解できずに反芻した

「待ってくれ、物が減っていった?」

「ああ、誰かしらが持っていったようだ」

だからどうしたとでも言いたげな顔でのたまう三成の肩を掴む

「何を落ち着いているんだ三成、これは犯罪だぞ!?」

「被害届なら何度か出した
何の証拠も残っていないから捕まえられんと言われたがな」

先ほど買ってきたお茶のペットボトルを開けながら、三成がワシの腕を払う

そんな犯罪に巻き込まれているなんて一言も聞いていないし、あくまでも普通な態度の三成に憤る
怒りも恐怖も見せようとしない三成にどうしていいのか分からなくなる

見ず知らずの誰かが、何度も部屋に入り物を盗んでいくなど、
自分ならば気味悪さに耐えられず早々に引越しでもしているところだ

「そんな……、引っ越しとかは」

「そんな金はない」

「誰か友人の所へ…」

「私にそんな友人が居ると思っているのか?
相変わらずめでたい頭だな、家康」

「そうだ!ワシの所へ…」

「貴様の世話にはならん」

「なら刑部の…」

「病気の療養に先週から地方へ行っている」

とりつく島もない、といった風な三成に眉をしかめながら掴みかかる
このままもっとひどい事態になることを考えてはいないのか、と怒りが湧いた

「何かあったらどうするんだ!」

「次は私を殺しにでも来るというのか?」

「絶対の保証なんてないんだぞ!?」

「その時は返り討ちにするまでだ」

その言葉に三成が剣道の有段者であることを思いだし、
ありありと犯人が返り討ちに合う映像が頭に浮かんだ

容赦なく侵入者を打ち倒し、その背を踏みつけながらニヤリと笑う三成

犯人は自分ではないというのに考えただけでわずかに頬がひきつる思いだった

「…はぁ、それはそれで犯罪だ」

ため息を吐きながらベッドに腰を下ろす
スプリングがギシリと軋む音が響いた

「なぁ三成、お前が強いのは分かっているが、くれぐれも用心してくれよ?」

「ふん、自分の身くらい守れる」

「それでも、何かあったらすぐに言ってくれよ?
出来る限り力になるからな!」

「……ふん」

鬱陶しそうに眉をしかめる三成だが、嫌がっていないことが分かる
長い付き合いだが、三成の表情が変わることはあまりない
気付かれない程度の些細な変化に、ようやく気付けるようになったのだ

ワシに対して怒りをあらわにした顔、
秀吉先生や半兵衛先生と一緒に居る時のキラキラした顔、
分かりやすい変化など、この二つ以外で見たことがない

だが刑部と居る時の穏やかな表情や、
元親や真田と居る時の楽しそうな表情を知っている

「…おい、さっさとするぞ」

「ああ!」

すでにゲーム機を取り出して準備を整えた三成の横で、
カバンから自分のゲーム機を取り出す

「今回もゆびをふるしばりでいくぞ」

「分かっている!それより三成、キッスってピルクルカラーだと思わんか?」

「貴様ぁッ!私のキッスを愚弄する気かッ!!」

「そんなつもりはないぞ、キッス可愛いしな」

「……き、貴様のハピナスも愛らしい、ぞ…」

「…ああ、うん、ありがとう!」

きっと褒め言葉のつもりなんだろうなぁと、
生温かい目で嬉しそうな三成の横顔を眺めた

誰だって自分の大切なものを褒められたら嬉しい

良くも悪くも、三成はいつだって真っ直ぐだ
公平で、純真で、生真面目で、嫌われながら好かれている

ワシは、そんな三成が羨ましくて仕方が無いんだ






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