Happy   Birthday   side/吉継











「久しぶりだな、刑部!」

「………ぬしを呼んだ覚えなどないのだがなァ」

「ははは、まぁ上がらせてもらうぞ!」

「誰が上がってよいと……」

「おお、官兵衛久しぶりだな」

「権現?なんでお前さんがいるんだよ」

遠慮もなく部屋へと入っていった徳川にため息を吐きながら、
これ以上冷たい夜風が入らないよう諦めて扉を閉めた

湯治の為に家を空け、ふた月ぶりに帰って来たと思えば、
呼んでもいない招かざる客が図々しくも押し入ってくる
徳川は日本人らしく空気でも読めと思った

「して、何用で来やった?
用が済み次第ぬしには早に帰って欲しいものよ」

コタツに足をいれ正面に座る徳川を睨めば、困ったように笑いながら口を開いた

「三成のことで、少し相談があるんだ」

「ああ?三成がどうかしたってか?」

「暗よ、ちと黙りやれ
ああ、徳川の茶でも淹れてまいれ、われの分もな」

一々口を挟む暗が居ては面倒と思いそう言ってやれば、
文句を垂れながらも暗はいそいそとキッチンへと向かって行った

「……刑部は、三成からなにか聞いてはいないか?」

「長曽我部と共に住む、とだけ」

「そうなのか」

「知らなんだか?
われもぬしに聞きたいことがありよる
ひと月程前三成としばらく連絡が途絶えたのよ
その間、何かあったかと思うのだが、嫌に三成の口が固くての」

「………ワシも、それを聞きにきたんだ」

互いに探るように互いの目を見詰め合ったが、われには徳川の目に嘘は見えなかった

いつまでも徳川の顔など見たくないと思い目を逸らしたが、
やはり三成の様子がおかしいのは気のせいではなかったと思うと気が気ではなかった

「んなもん、凶王サマに直接たしかめりゃあいいだろうがよ
三成なら、こんな影でこそこそされてるほうが嫌だと小生は思うんだがね」

三人分の茶を盆にのせた暗の言葉に徳川と共にため息をこぼした

「ぬしの頭はほんにめでたき出来をしておるの」

「それはワシらも分かっているんだ、官兵衛」

「お前さんたち、二人そろってそんな顔するな!」

ガタイのいい男二人と共にコタツを囲むと、
さしてせまくも無い部屋が小さく見えて、何だか息が詰まる思いだった

「刑部はもう三成には会ったか?」

「いや、まだよ
何せ帰って来たのが昨日ゆえな」

「その帰った早々に家事を押し付ける為だけに小生を呼ぶな!」

「使い物にならぬぬしを使ってやっておるのだから、
文句を言われる筋合いなどないと言うものよ、ヒヒヒッ」

「官兵衛、少し黙っていてもらえるか?」

徳川の言葉で黙った暗を無視し、徳川と向き直る

「三成とは明日、土産を渡す為に会う予定ではある」

「……そうか
刑部から見た感じを教えてもらえると助かるんだが……」

「よかろ、ぬしも何かあればすぐに知らせよ」

「ああ!
それじゃ、邪魔をしてすまなかったな」

ニコリと笑って立ち去って行った徳川を見送ることもせず、
ぬるくなった茶を口に含めば大人しく黙っていた暗が口を開く

「お前さん方よぉ、三成だってもう子供じゃないんだぞ?
ちょっと過保護過ぎやしないかね?」

「ヒヒッ、友愛と親心というものよ
ぬしにはとんと分からぬことであろ?」

「あーあー、そうだがね!」

暗と軽口を叩きあいながら、不安そうな顔をしていた徳川が気にかかった
長曽我部と一緒ならば問題は無いかと思っていたが、徳川の顔を見る限りそうとは思えない

長曽我部は面倒見が良く、三成もよく懐いていた筈だ
だというのに、徳川のあの顔

「………明日は、いろいろと問い詰めねばならぬようよなァ」

何度か訊ねても言えないとしか言わぬ
その直後に長曽我部と共に住むことになったのだから、
きっと長曽我部が三成を支えているものだとばかり思っていた

「暗よ、明日の送り迎えは任せたゆえな」

「……へーへー、もうお前さんにゃ何も言わんよ」

諦めたようにため息を吐く暗にヒヒッと笑ってやれば嫌そうに顔をしかめた






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