Happy   Birthday   side/鶴姫











真っ白な雪が降り出したのを毛利さんと並んで見上げた

久しぶりに見る雪にワクワクしながら隣を見れば、
不機嫌そうに眉をしかめる毛利さんが空を睨んでいた

「まぁ雪ですよ、雪!毛利さんは雪がお嫌いなんですか?」

「日輪を隠すものは全て滅びればよい」

「毛利さんは本当に太陽がお好きですね」

二人で歩く道は静かだと思う
今まではここにとっても騒がしい海賊さんが居たから、
余計にそう思えるのかもしれないと考えて、少しだけ寂しくなった

「海賊さんがお引越しされてから静かですねぇ」

「フン、騒がしくなくて清々するわ」

「毛利さんは嘘吐きです!
実はちょーっとだけ、寂しいって思ってらっしゃるくせに!」

「寂しいのは貴様だけであろう
そんなことに我を巻き込む出ない」

スタスタと歩き出してしまう毛利さんを駆け足で追いかけて、
隣に並べば、少しだけ歩く速度を落としてくれる

毛利さんが本当は優しいことを知っているのは、きっと私と海賊さんだけ

「私は少しだけ、本当に少しだけですけどっ、……寂しいと思いますよ」

「知っておるわ痴れ者め」

昔、引っ越してきたばかりの頃はいつも不安で仕方なかった
そんな時に、笑って手を引いてくれた海賊さん
黙って側に居てくれた毛利さん
お隣さんがこの二人でよかったと、心からそう思った

私が仲間に入るまで、ずっと一緒に居た二人

小学校も、中学校も、高校も、大学も、ずっとずっと一緒だった
そんな二人と一緒になって笑い合うことが、とてもとても楽しかった

大学入学の時に別々に引っ越したはずなのに、
結局住む家まで近所だったことには三人で笑ってしまったけれど

同じ景色を見てきたから似たような場所を選んでしまうんだって、
そう言って笑った海賊さんと毛利さんと、これからもずっと側に居るものだとばかり思っていた

そんなことないと知っていたはずなのに

「いずれは違える道だった
それが、少し早まっただけのことよ
そもそも、今までがおかしかっただけだ」

真っ直ぐに前を向いたまま毛利さんが鼻を鳴らす

ほら、やっぱりこの人はとても優しい

「………それでも、分かってても、寂しいですよ」

「今生の別れというわけでもあるまいに」

私よりも毛利さんの方がきっと寂しい
そのはずなのに、不器用に慰めてくれる言葉が優しくて悲しくなった

高校の頃から海賊さんは少しずつ遠ざかり始めていた
私たちを今までどうりに構ってくれていたけれど、
徳川さんや石田さんと居る時間の方が長くなっていった

私にも孫市姉様やお市ちゃんという友達は居た
でも、海賊さんと毛利さんは、私の中でもう家族のようなものになっていた

毛利さんにも友達は居たけれど、やっぱり一番は海賊さんだったと思う

「毛利さん、手を繋ぎましょう!」

「断る、貴様の手は冷たい」

「大丈夫、毛利さんの手で暖まりますから!」

「それでは我の手が冷えるではないか馬鹿者め!」

嫌がる毛利さんの手を強引に握れば温かさに指先が痛んだ

昔私の手を引いてくれた二人のように、
魔法のように私の不安を消し去ってくれたように、
私にも、毛利さんの寂しさをせめて半分こに出来ればいいと思った

「ええい、離さぬか!我の手まで冷たくなってきたわ!」

「嫌です!離しませんよ!」

振りほどこうとすればたやすく離れる手のひらを、
離せと言いながらも好きにさせてくれる毛利さんに笑ってしまう

「毛利さん、今度三人で遊びに行きましょう!」

「なぜ我が貴様らと行かねばならん、断る」

「そうだ!この間孫市姉様に水族館の割引券をいただいたんです
久しぶりに水族館に行きましょうね!
毛利さんも海賊さんも、引きずってでも連れて行っちゃいます!」

「………分かったから、そのように泣くでないわ」

笑いながら、ぽろぽろと零れた涙に自分でも戸惑ってしまう

楽しい話をしているはずなのに、
また一緒に遊べる未来の話のはずなのに、
言葉にすればするほど距離が離れていってしまうような気がした

「あれれ、おかしいな……
すみません、泣くような話じゃ、ないのにっ……」

「長曽我部は長曽我部の道を、
我も我の道を、いずれは貴様も貴様の道を歩むだけだ
………だが、たとえ離れようとも共にあった過去は変わらん
………我は慰めの言葉など持ってはおらぬ、さっさと泣き止め」

しっかりと手を握ったまま、毛利さんが困ったように眉をしかめる
かけられた言葉に、泣き笑いのような笑顔を浮かべて頷く

「そうですね、もう大丈夫ですっ!
私は私で、こんな道を歩いてるんですよって言えるようになってやりますっ!」

毛利さんの手を強く握り返し、みっともない笑顔で、
悲しさも寂しさも振り切るような大声で宣言する

「私っ、強くなります!
いつかもっと離れてしまっても、また会った時に笑えるように!」

「近距離で大声を出すでないわ!」

怒鳴る毛利さんが怒りながらも笑う
私もぐしゃぐしゃな笑顔で笑った

今日もまた石田さんと一緒に笑いながら、
どこかへ行ってしまった海賊さんを思うと、
やっぱりほんの少しだけ寂しいと感じてしまったけれど






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